走行状況によっても良いシートの条件は変わる
マツダが提唱するまでもなく「人馬一体」というワードはドライビングを語る上で、非常に重要なキーワードになっている。乗馬を楽しむように、ドライビングは人がクルマに乗ることで初めて成立する訳で、人が着座するシートの座り具合がドライビングを大きく左右すると言っても過言ではない。
一度経験すると付いていないクルマに乗れなくなるほど便利な装備11選
シート、つまり座席は乗り心地、座り心地といった快適性にも重要な役割を果たすため、じつは思っている以上に要求が多い。たとえば、僕は腰痛持ちであるため、乗車したクルマのシートにランバーサポート(腰位置の支え)が装備されていないシートだと長時間運転する気になれない。それどころか乗り込んだ瞬間にシートの具合が合わず降りたくなってしまうクルマもあった。ではどんなシートならドライビングを楽しくサポートしてくれるのだろうか。
みなさんはドイツ車にシートに腰掛けた経験がおありだろうか? 国内ユーザーの多くは座り心地が固くて悪い、と評する。確かにシートのクッション性は固めである場合が多い。家庭用のソファなど柔らかくてフカフカな方が座り心地が良く快適で体を休めるには好都合だろう。
似たような考え方でシートの固さを柔らかめに設定していたのが従前の米国車だ。土地が広く道路のほとんどが直線の米国では長時間まっすぐ一定のスピードで走るケースが多く、シートの役割は家庭用ソファと似ている。だがそんなシートで連続するカーブを走ったらどうだろうか。体が上手くホールドできず、人馬一体どころか人車バラバラな走行姿勢になってしまうだろう。荒くれ馬を乗りこなすホースライディングのように、中腰でステアリングを手綱の如く握りしめ体を保持しなければならなくなる。
欧州車のシートが固めなのはこうしたコーナー区間で左右にかかる横Gに対して体をしっかり支えドライバーが正確な運転操作を行えるようにする為なのだ。クッションが固いからといって不快な訳ではない。
乗り心地の悪さには着座姿勢に問題がある場合も……
座面が固すぎて尻が痛くなるという人は着座姿勢に問題があるともいえる。シートに浅く腰掛け寝そべったような姿勢で着座すると腰とシートバックの間に隙間が生じ、臀部とシートの接触面積も小さくなる。小さな面積に全体重がかかるので面圧が大きくなり尻が痛くなってしまうし、腰にも負担がかかり腰痛を引き起こすというわけだ。
固いシートに着座する時は座面の奥深くまで腰掛け、身体とシートの接触面積をできるだけ大きく保ち面圧を下げるのが正しい座り方なのだ。接触面積が大きくなることで摩擦面積も増えサポート性も高まる。こうした正しい着座姿勢をとることが人馬一体となるうえで非常に重要で、面圧が下がれば固いという印象も相当におさまるといえる。
そしてシートにはクッションの固さだけでなくボディサイドのサポート性やシート座面の角度も前後左右のGに対して身体を正しく保持するためには重要となる。多くのクルマは前後スライドやシートバックリクライニング調整機能が与えられており、人馬一体を重視すればするほど調整機能の多さが必要になる。人の体格は千差万別であり多くのドライバーを満足させるには調整幅の広さが必要だ。
なかには11箇所の調整が可能というようなマルチアジャスト機構を持ったシートもあり、そうしたシートを採用するメーカーこそが人馬一体に関して深く考慮しているといえる。ただ調整機構を多く備えるとコストがかかり高額になる。
また微小な調整には電動の無段階調整が必要となり、そうなると重量も相当に重くなる。1脚当たりのシート重量が60kg代になってしまうのは欧州車では珍しくない。その重量級のシートを支えるシートレールも高い剛性が必要であるし、衝突安全性を確保する為にシート自体の骨格も相当強靭に造り込まなければならないだろう。
これまでの経験からシートに不満を感じることなく着座できたモデルはBMWのアッパーグレードモデルであることが多かった。
またシートレールによる前後スライド以外は一切調整機能を持たないのに優れた着座姿勢とサポート性、座り心地の快適さが得られる驚きのシートを装備していたのは「ランボルギーニ・ガヤルド・スーパートロフェオ・ストラダーレ(STS)」だった。フルカーボンで軽量ながら高剛性なSTSのシートは長時間運転でもまったく腰に負担が掛からず、駐車したらそのまま眠れてしまうほど身体にフィットしていた。横幅はゆとりがあるが深さも大きくサイドサポート性が高い。スリックタイヤを装着して富士スピードウェイを1分47秒というレーシングカー並みの速さで走った際も、Gに対ししっかり身体を保持してくれて正確な運転操作が可能だった。今でもスポーツシートを評価する際のベンチマークとしている。
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