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一見ハデなようで欧州コンパクトの良心! EVまで揃うプジョー208をさっそく試した

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一見ハデなようで欧州コンパクトの良心! EVまで揃うプジョー208をさっそく試した

フォルクスワーゲンのID.3と並んで欧州車メーカーの電化ムーブメントが単なるアドバルーンでないことを感じさせる1台、それが新しいプジョー208だ。というのも欧州市場では、ずいぶんとコンパクトSUVが伸長したとはいえ、ボリュームゾーンの大衆車といえばハッチバック。ベルギー~北フランス~南ドイツ辺りをフォッサマグナとして、プロテスタントの気が強いゲルマン&スラブ圏の北半分と、こってりカトリックなラテン系の南半分に分けると、それぞれのボリュームゾーンを成すベストセラーなクルマは、そのままCセグメントとBセグメントの各ハッチバックとなる。当然208は後者を代表する1台というワケだ。先の東京モーターショーでも、マツダMX-30や日産アリヤといった、Bセグメントっぽいサイズ感のEVコンセプトが分厚くなってきたのも、そういうことだ。

プジョー 208|PEUGEOT 208

メルセデスらしい滑らかな乗り味──電動化にいよいよ本腰を入れたメルセデス初のピュアEV、EQCに試乗

EV版の「e208 GTライン」。50kWhのバッテリー容量で、WLTPモードで約340kmの最大レンジという。急速充電は100kWまで対応し、30分ワンショットで約80%まで回復するという。

これまでも日本未発売のルノー・ゾエや日産リーフといったBセグ相当の第1世代EVはあったし、北半分のCセグに目を向けてもBMW i3やノルウェーでスマッシュヒットしたe-ゴルフもあった。だがEV専用車種でも内燃機関からのコンバートモデルでもなく、工場での組み立てからガソリンやディーゼルと同じラインで生産されることを前提に設計されたのは、プジョー208、そして兄弟車のDS 3クロスバックが最初の例だ。もはやEVがEVであることを主張する時代ではない、ともいえるし、はっきりいって保守的な欧州市場のユーザーに、内燃機関を辞してEV側に渡るという不退転の決意というか激烈なチェンジを強いない方法でもある。いずれにせよ、VWがゴルフ8とID.3、メルセデス・ベンツがGLEやGLCとEQCといった風に、EVを既存ラインナップに対して並列化したドイツ車メーカーとは、大きく戦略ごと異なるのだ。

プジョー 208|PEUGEOT 208

EV版とガソリンまたはディーゼルの内燃機関版の最大の違いはフロントグリルとロゴ。EVでは前者はボディと同色、後者は淡いブルーとクロームのツートンなのだ。

精悍な子ライオンとまぁ、生産設計の段階からして野心的なコンパクトながら、外観からして208には茶目っ気があることも確かだ。Dセグサルーンの508の隣に並べでもしたら、共通する牙のような日中走行灯LEDといい、子ライオンのような趣がある。でもファンシーさはまったくなく、むしろ締まって見える彫刻的なデザインだし、リアウインドウからCピラーにかけて直角定規をあてて描いたような造形とグレードを表すロゴバッジは、往年の名車にして大ヒット作、205GTiを彷彿させる。

プジョー 208|PEUGEOT 208

異素材やクローム・インサートの合わせ目まで緻密な質感のインテリア。写真は本国仕様のGTラインで6速MT仕様。

ところが内装に目を移すと、みっちりした静的質感のモダン仕立てに心地よく驚かされる。試乗車の「GTライン」は、ソフトフォームのウレタンを用いたダッシュボード上面にステッチをあしらい、ミドルセクションのカーボン風の型押しも精緻な印象だし、それらを引き締めるセンターコンソールのピアノブラックもキマっている。はっきりいって内装の静的質感という点では、VWポロを完全に凌いでいる。

プジョー 208|PEUGEOT 208

ホログラム表示で、ナビのカーソルと北の方向がインストルメンタルパネル内に示されているところ。

しかもプジョーが先代208から導入した、小径ハンドルの上からインストルメントパネルを視認するお得意のi-コクピットは「3D i-コクピット」へと進化。フル液晶化されたインパネ表示を、必要情報や気分に応じてステアリングホイール上のダイヤル操作で切り替えられるだけではない。各種のアラート警告やパワーモニター、エンジンの回転数など、優先順位の高い情報を選別した上で、2重にホログラム表示するのだ。何だか近未来的なディスプレイだ。

プジョー 208|PEUGEOT 208

2ペダル仕様のシフトレバーは3008や5008と同様のカタチだが、EV版はDレンジの先にBモードを備える。

これは通常のヘッドアップディスプレイとは上下逆に、サブ画面をインパネの内側に向けて配し、メイン画面のカバーに映り込ませている。仕組みを知ってしまえば単純だが、単なる近未来感の演出どころか、プジョーによればトリアージの効いた表示によってドライバーの反応タイムは0.5秒以上速くなるとか。さしずめエルゴノミーの改善といえるだろう。ちなみにEVには専用表示として、バッテリー残量が10段階で示されつつ、モーター出力と回生エネルギーの出入りを確認できる画面モードがある。EVにはステアリング裏のパドルシフトがないが、シフトレバーをDレンジから一段手前に引くと、コースティング重視の制御から回生を強めたそれに切り替わる。完全停止はしないが、ランナバウトの連続する市街地のような必ずしも一時停止しなくてよい状況では、この方がワンペダルに近い操作がしやすい。

生活的でおしゃれな輸入車EVプジョー 208|PEUGEOT 208

内燃機関版のGTラインとアリュールの外観上の違いは、黒いオーバーフェンダーの有無と、フロントグリルの柄だ。

今回の試乗では、136psのEV版と、3気筒1.2Lターボのガソリン、ピュアテック130ps+アイシンAW製トルコン8速AT仕様に乗った。面白いのは、EV版の加速は、ガソリンのそれにほとんど横並びに近いレベルに留められている点だ。0-100km/hはEVが8.1秒に対し、ガソリン版は8.7秒。確かにトルクの立ち上がりは速いが、いかにもEVにありがちなワープ系の加速感ではない。短時間の試乗だったとはいえ、EV版はガソリン版より+300kg近く重い1455kgだけに、低重心ならではの落ち着いた乗り心地、そしてしっとりした操舵感がある。ただし操舵量によってはステアリングのゲインのつき方が強くて、切り始めの応答性がいい17インチタイヤより16インチの方が唐突さが目立つことがあった。乗り心地のフラットさ、路面のアタリの柔らかさは当然、後者が上なので、悩ましいところだ。

プジョー 208|PEUGEOT 208

ガソリン130ps仕様の8速ATのシフトそしてアイドリングストップのマナーは、すこぶるスムーズ。

一方のガソリン仕様は、1165kgと車重は軽い。高速道路などを巡航しているとサスペンションの動き始めのストローク領域がやや渋いのか、乗り心地は意外と固い。試乗車は走行距離4000kmを過ぎたところで、もう初期の減衰がこなれてきている可能性はあるが、いわゆるフランス車の乗り心地としてはフラット感に欠ける。同じCMP(コモン・モジュラー・プラットフォーム)を用いたDS 3クロスバックが極上のライド感、そしてストラット周りの遮音と静粛性を実現しているだけに、どうしても物足りなく感じてしまうのだ。

プジョー 208|PEUGEOT 208

17インチのパイロットスポーツ4を装着したガソリン仕様のGTライン。

ただしワインディング区間に入ってから入力の高い走り方というか、前後に荷重移動を積極的に使う局面になると、208は途端に動的クオリティを増す。それはいわゆる猫足ではないが、前脚が余裕たっぷりに地面を掴みながら、安定感を保ったまま後車軸が俊敏に追従してくる様子たるや、子ライオンどころか、貫禄すら感じさせる。GTラインの前後トレッドはどちらも1500mm。大したハンドリングマシンぶりというか、素のままでもホットハッチという、そっち方向なのだ。ちなみに1.2Lターボの咆哮も断然、DS 3クロスバックより勇ましい。

プジョー 208|PEUGEOT 208

Bセグとしては大ぶりの前列シートは、308や3008に準ずる形状と思われる。それだけに車内での居心地はよい。

通常の路面をゆっくり流すと、どっちつかずの足になっているように感じられるが、ガソリン仕様のタイヤがグレードに応じて銘柄もサイズも異なっているせいもあるだろう。スポーツ志向の「GTライン」が205/45R17でミシュランのパイロットスポーツ4、コンフォート志向の「アリュール」が195/55R16の同じくミシュランのプライマシー4。EV版は両グレードともタイヤサイズは同様ながら、銘柄はいずれもプライマシー4となる。要は異なる前後車軸への荷重や負荷に合わせて、パワートレインごとに足回りのセッティングこそ異なるが、グレード間の違いは純粋にタイヤのみ。結果的に、コンフォート性よりも運動神経重視の傾向が際立っていたのだ。

プジョー 208|PEUGEOT 208

e208の荷室は内燃機関版と床の高さは変わらず、210~311Lのトランク容量も同じだ。

だがおそらく、それは今次の208の大きな弱点どころか狙いかもしれない。快適性を重視する向きには、今やPSAグループ内でDS 3クロスバックか、やがて登場する新しいプジョー2008が選択肢として挙がる。だからこそ、元より屋根の低い208はダイナミクス重視に専心して、フォーエバー・ヤングなホットハッチというキャラで尖っていくべきなのだ。205GTiを知る世代としては少し悔しいような、だからこそ再戦を挑みたくなる、そういう1台に208はなったのかもしれない。

プジョー 208|PEUGEOT 208

床下にバッテリーを収める関係で、前列シート下つまり後列シートの足元だけ、少し高くなっているが、居住性に悪影響を及ぼすほどではない。

しかし208の本当の凄味は、EVでも、床下にH型に収められたバッテリーが、居住性にもトランク容量にも侵食しないこと。つまり実用ハッチバックとして内燃機関版と差はないどころか、使用&走行コストは安上りでトータルのオーナーシップ・コストはどっこいになる可能性がある。そんなところに、欧州の実用的な生活車として、意地にも似た良心があるのだ。

プジョー 208|PEUGEOT 208

日本市場への導入は今のところ、2020年夏が予定されている。EVで350万円前後、ガソリン版で300万円弱という価格帯が予想される。

文・南陽一浩 写真・プジョー・シトロエン・ジャポン、南陽一浩
取材協力・プジョー・シトロエン・ジャポン 編集・iconic

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