カップホルダーさえ備わらない走り一辺倒の無頼漢たち
実用性は皆無ながら、刺激のカタマリのようなロードスターは意外と数多く存在する。これまで筆者が経験した「超不便だが超絶に楽しいロードスター」を4台選んでみた。いずれの4台も風の巻き込みは猛烈に激しく、カップホルダーひとつ備わらない不便なクルマだが、非日常性はどんなスーパーカーにも負けない魅力を備えている。
【今さら聞けない】座れないほど狭いスポーツカーのリヤシートって何?
1)YES! ROADSTER 1.8T
ドイツのベンチャー企業ファンク&ウィル社が製造したミッドシップスポーツカー。シャシーはオリジナルのアルミフレームで、1.8リッター4気筒ターボを始め、パワートレインの主要パーツはフォルクスワーゲン製。エントリーモデルの1.8Tは、パワステなしでブレーキもノンサーボであるなど、ほとんどレーシングカーのような設定となっている。
運転フィールもレーシングカー的、というよりレーシングカート的で、すべてのフィーリングが超過激。直進安定性は悪くないが、ステアリングのゲインが過敏すぎて、わずかでも舵角を当てると瞬時に強めのヨーが発生。筆者が経験したナンバー付き車のなかで、もっとも高速レーンチェンジをするのが恐ろしいクルマとして記憶に刻まれている。
ノンサーボのブレーキは蹴っ飛ばすようにして踏む必要があるほど重いが、その分制動力は強力でまさにレーシングカー的。フル加速からのフル制動では、レースカーの疑似体験ができる。
5速MTのシフトフィールは剛性が高くて素晴らしいものの、バケットシートのサイドサポートが大きすぎてシフト操作時に肘が当たりまくることが惜しまれた。また、アクセルペダルが異様に奥に配置されているので、クソ重いブレーキの扱いにくさも相まって、ヒール&トゥの難易度は極めて高い。
乗り心地はガチガチに硬く、市街地ではピッチングが激しいが、フレームの剛性が高いので不快ではなく、高速道路では意外と快適。音や振動については決して野蛮ではなく、むしろ文化的。この手のクルマとしてはコンフォート性が高いとさえ言える。
路面からフォードバックされる情報量が多すぎて、乗り始めた当初はちょっとしたパニック状態に陥るが、意外とドライバーの身体に馴染むのは早く、普通に転がすぶんにはじつは従順。やがて扱いにくさはあまり感じなくなっていったのであった。
2)KTM・X-BOW(クロスボウ)
オーストリアのバイクメーカーKTMの「X-BOW(クロスボウ)」。レーシングスペックの自社製カーボンモノコックシャシーにアウディ製の2.0TFSIエンジンをミッドに搭載したリアルスポーツカーで、車重はわずか790kgで240馬力。パワーウエイトレシオは約3.3kgと、超高性能スーパーカー並みの加速性能を発揮する。
各部の緻密な作りや堅牢極まるボディ剛性感など、全体からドイツの高性能車を思わせる高品質感が備わっており、ドイツ車好きの人にとっては、じつに好ましい仕立てとなっている。
走行フィールもまさしくドイツの高性能車的。高速巡航は絵に描いたようなオンザレール感に溢れており、多少乱暴な運転をしても挙動が破綻する気配は一切感じられなかった。徹頭徹尾の安定感が得られる一方、この手のクルマに求めたい野蛮な刺激にはやや欠けるとも言えるが、尋常ならざる加速力がそれを補って余りある刺激をもたらしてくれる。
横Gやラップタイムなどが表示されるデジタルメーターを備えていたり、ホイールはセンターロック式であるなど、安定感の高い挙動も含め、レース参戦を前提としたマシンという印象が強かった。 840万円からという価格設定は、クルマの成り立ちや性能からすればリーズナブルと言える。(写真はX-BOW GT)
軽自動車エンジンを積んだ500kgを切る超軽量車も楽しい
3)ケータハム セブン 160
日本の軽自動車規格に収まるボディサイズに仕立て、スズキ製の3気筒660ccエンジンを搭載するロータスセブン。車重は490kgしかないので、その乗り味は羽根が生えたようにヒラヒラと軽快。
基本的な設計は往年のロータスセブンからほとんど変わってないので、ステアリングやブレーキはノンアシストのままだが、街乗りでもほとんど苦にならないほど操作性も軽い。乗り心地も存外に普通で、クルマ好きの人なら騒音も振動もほとんど不満なくドライブできるはずだ。
当然ながらABSのような安全デバイスはつかないが、多少挙動を乱しても素人ドライバーでも比較的修正が容易で、誰もがクルマの性能を一滴残らず引き出せる感が得られるのが素晴らしい。
見た目も乗り味も十分に非日常滴だが、Yes!やX-BOWのような「やりすぎ」感はなく、軽自動車登録なので税金や保険代が安く済むことも非常にありがたい。
4)プリムスプロウラー
往年のホットロッドスタイルを復刻させたロードスター。シャシーは専用開発のアルミスペースフレーム製。エンジンは3.5リッターV6と大きいが、車重は1.3トン近くあり、比較的穏やかな動力性能で、この手のクルマのなかでは圧倒的な扱いやすさを誇る。
ミッションは4速ATで、パワステ、パワーウインドウ、エアコンなどの基本的な快適装備をはじめ、クルコンまで装備されるという乗用車的な仕様となっており、すべての操作性も極めて乗用車的だ。
乗り味は、ちょっと古めのアメリカ車そのものという感じ。サスペンションは基本的にソフト路線で操舵ゲインは緩やか。コーナリングよりクルージングを楽しむためのセッティングが施されている。
乗り味面での刺激は少ないが、見た目のインパクトの強さや開放感は同類他車と変わらないので、より多くの人にオススメしやすい。
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