ニキ・ラウダといえば、3度のF1チャンピオンに輝いた伝説的なレーサー。
晩年はメルセデスAMG F1をサポートし、現役のF1チャンピオンのルイス・ハミルトンとも深い絆で結ばれていた。
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そんなラウダの現役時代の名勝負を映画化したのが、『ラッシュ/プライドと友情』だ。ラウダ本人もアドバイザーとして参加して、レースシーンとドラマに厚みを持たせたこの名作をご紹介しよう。
文/渡辺麻紀、写真/ポニーキャニオン
【画像ギャラリー】本文未掲載の場面写真あり!! 不死鳥ニキ・ラウダとジェームズ・ハントの伝説
■伝説のドライバー、ラウダとハントの軌跡
ニキ・ラウダ(奥)とジェームズ・ハント(手前)。二人はF3時代からのライバルであり友人だった
2019年、70歳で亡くなったニキ・ラウダ。確かな分析力を活かしたテクニックやレースに対するストイックな姿勢、さらには不屈の精神力で知られる最強のレーサーだ。
今回は、そんなラウダと、彼のライバルだったイギリス人レーサー、ジェームズ・ハントの友情を描いた『ラッシュ/プライドと友情』(11)をご紹介したい。何といってもこの作品、ラウダ本人のお墨付きなのだ。
監督は『ビューティフル・マインド』(01)でアカデミー賞を受賞しているロン・ハワード。脚本はエリザベス女王を描いた『クィーン』(06)で知られるピーター・モーガンという映画ファンなら嬉しくなるような組み合わせ。
描かれるのは、ラウダとハントがF3からF1へと駆け上がり、ファンを震撼させたラウダの大事故、76年のドイツGPニュルブルリンクから、彼が奇跡の復活を遂げた6週間後のイタリアGP、そして最終戦の日本まで。
それぞれのレースのみならず、ふたりの“人間”に迫ったドラマも濃厚で、公開当時は大きな話題となった。
ハントを演じているのは『マイティ・ソー』シリーズのクリス・ヘムズワース、そしてニキ・ラウダには『グッバイ、レーニン!』(03)で注目されたドイツ人役者のダニエル・ブリュール。ふたりのなりきりっぷりが映画のリアリティに貢献している。
■ラウダ自身がアドバイザーとして参加
冷静沈着なラウダと豪放磊落なハント。正反対な2人が不思議な絆で結ばれていく
このリアリティや人間ドラマを築いていく上で協力を惜しまなかったのがラウダ本人。
モーガンはオーストリア人の奥さんを通じてラウダを知っていたことで、脚本を執筆する際、彼のアドバイスを受けることが出来たという。カーレースには詳しくなかったモーガンにとっては、まさに最強のアドバイザーである。
そのモーガンが公開当時、ニキとのこんなやりとりを教えてくれた。
「この物語を書くまでクルマやレースについては本当に無知だった。だから最初はレースシーンに『クルマのキーはどこだ?』なんてセリフを入れていて、ニキに「お前はバカか? F1マシンにキーなどない!」と叱られたくらいなんだ(笑)。
そうやっていつもニキに脚本を読んでは訂正されるのを繰り返しながら20回は会ったと思う」。
その甲斐あって、ラウダ本人も「とても正確に当時のことを再現してる」と太鼓判。
運命のドイツグランプリ。事故のシーンは息を飲むほどの緊張感だ
とりわけ、事故からカムバックまでのエピソードの生々しさは凄まじく、サーキットで火だるまになったラウダと、彼を救い出そうとするガイ・エドワーズらレーサーたち。
牧師を呼んでの臨終儀式の最中に「まだ生きている」と怒ったエピソード、目を背けたくなるような厳しく痛々しい治療の連続……それらを克明に綴っている。
ラウダ本人も「病院シーンは客観的に見て、とても辛かった。私の人生のなかでもっとも強烈な思い出であることを、この映画で改めて確信したよ」というほどだ。
また、本編でもハイライトになる最終戦の富士スピードウェイについては、こんな発言をしている。
「あのときは凄い雨でドライビングどころじゃなかった。私は最初から1ラップだけやるつもりだった。そうすればスターティングマネーを受け取られるからだ。
エンジニアに、エンジンが壊れたと言えばいいと提案されたときは、本当に肩の荷が下りた。エンジンをかけたと同時に“絶対、同じ間違いを犯すな”と自分自身にいい聞かせたんだ」。
■役作りでラウダとグランプリ観戦!?
一時は命さえ危ぶまれたラウダだが、わずか1ヶ月後にはレースに復帰する
ラウダを演じたブリュールも本人のアドバイスを貰えたと言う。
「ニキは当時のこと、特に自分が抱いた恐怖心について詳しく語ってくれた。モンツァでレースにカムバックしたとき、パニック障害を起こしてしまったこととかね。こういう彼の経験談は、演じる上でとても役に立った。
彼とのいい思い出は一緒にメキシコGPに行ったこと。ニキの解説つきでレースを楽しむなんで最高の経験だ」
レースファンからすると羨ましい限りである。
一方、ハントを演じたヘムズワースの場合は当人がすでに亡くなっているので、彼を知る人からリサーチを始めたという。
「でも、本当にたくさん関係者がいる上に、彼の人間性に一貫性がないんだよ。こういう話を聞いていたら振り回されるだけだと思い、自分ならではジェームズ・ハントを創り上げたんだ」
映画のエンドクレジットには実際のふたりの写真が流れるのだが、とても似ていることに驚かされる。ラウダも「もしジェームズが生きていたら、クリスの演技に大喜びしていたと思う」と言っているほどだ。
■カメオ出演のF1関係者たちにも注目
臨場感あふれるレースやピットワークのシーンも必見だ
もうひとつの見どころであるレースシーンのほうで活躍したのはアリスター・コールドウェル。ハントが所属していたマクラーレンF1チームのディレクターを務めた人で、本作ではテクニカルアドバイザーとして参加。
ピットのクルーやドライバーを演じる役者たちのトレーニングを担当し、リアルな風景を創り上げて行ったという。本編にはピットでタイヤ交換をするシーンが何度かあるのだが、その緊張感はサスペンス映画級。ハラハラがハンパないのは、彼を起用したおかげなのかもしれない。
各レースシーンは、実際に撮影したものもあれば、残されていた記録映像に情報をプラスして創り上げたものもある。重要なラウダの事故が起きるドイツGPのシーンは今回撮影したものと、シチュエーションに合わせ、上手に使い分けている。
また本作には、F1の立役者バーニー・エクレストンがアメリカGPのシーンでカメオ出演している。モーガンとハワードが彼に会ったときは映画に対しては懐疑的だったが、出来上がった作品は大いに気に入り3回も観てくれたという。
シャンパンファイトの光景は今も昔も変わらない
もうひとり、カメオ出演しているのはF1レーサーのヨッヘン・マス。ニュルブルクリンクのマルボロ・マクラーレンのドライバーとして本人役で顔を出している。
撮影時、スタッフが記録のために彼に名前を尋ねたところヨッヘン・マスと答えたので「いや、役名ではなくあなたの本名を教えてください」と返されたという笑い話が残っている。
今は亡きニキ・ラウダが深く関わった唯一の映画にして、彼の伝記もの、友情ドラマとしても見応えありの『ラッシュ』。レースファンも映画ファンも大いに満足出来るはずだ。
●解説
資産家の長男ながらレーサーの道を選んだニキ・ラウダと、医師になることを期待されていたが、それを裏切りモータースポーツの世界に足を踏み入れたジェームズ・ハント。
F3のレースで顔を合わせたふたりはライバル心をむき出しにする。「いつかF1で勝負を付けよう!」。その機会は思いのほか早くやってくる。
70年代のファッションやヒットソングをちりばめながら当時の空気感を再現。ラウダの事故が描かれているせいもあってか、危険なスポーツとしてのカーレースが描かれているのも特徴だ。レーサーの死亡率が20パーセントだったという当時の恐ろしさもちゃんと再現されている。
* * *
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みんなのコメント
当時はラウダ出走中止には非常にガッカリして非難もした。
でも大人になってから考えると、ラウダの出走中止は極々妥当な判断だったと思う。
確かに初めてのF1GPだからオーガナイザーが無理矢理やりたがったのも分かるけど、あの状態は危険過ぎた。