この記事をまとめると
■空冷水平対向エンジンをRRレイアウトで搭載したチャレンジングなアメ車が存在した
「シボレー」「ビュイック」「キャデラック」など最盛期は8ブランド! GMが1メーカーで多ブランドをもつ理由
■独特のレイアウトを活かした美点が多く、ボディタイプも複数用意された
■不具合を糾弾されて売り上げを落とし消えてしまった
革新を起こそうとした数少ないアメ車
エポックメイキングなアメ車といえば、タッカーやナッシュあたりの名を挙げるクルマ好きが少なくないかと。フォード、GM、クライスラーは保守的なメイクスに終始して、冒険したモデルが少ないとお考えなのでしょう。が、1台お忘れではありませんかね。
シボレーの”空冷エンジン”を”リヤに搭載”したコルヴェアこそ、当時のエポックメイクと称賛されたこと! 毀誉褒貶いちじるしくはあるものの、やっぱりコルヴェアは歴史に刻まれるべきモデルに違いありません。
コルヴェアが発売された1960年というと、メジャー各社がさまざまなチャレンジ商品をラインアップし始めたころで、それぞれ個性的で意欲あふれるモデルもちらほら登場していました。この理由として、欧州メーカーのクルマが多数上陸し、そのなかにはメジャーが思いもよらぬコンセプトをもったモデルが少なからず存在したことだとする専門家もいます。
たとえば、フォルクスワーゲン・ビートルは価格を含めた経済性や効率のいい居住スペースなどで大衆からバカウケしたこというまでもないでしょう。あるいは、ポルシェ911の走行性能もまたメジャーにとっては大きなインパクトを与え、各社のエンジニアは奮起したとも伝えられています。
そんななかでGMは、ヨーロッパ車に見られる効率のよさに着目し、アメリカ製フルサイズでなくビートルを購入する層をターゲットにコルヴェアを開発したのでした。それまでの製造方法やエンジンの在り方まで再検討し、行きついた答えがRRレイアウト、空冷フラットエンジン、そしてフルモノコックボディだったわけです。
むろん、ライバルのフォードはファルコンという小型軽量モデルに挑戦し、またクライスラーにしてもプリマス・ヴァリアントで対抗しようとしていましたが、コルヴェアほどの革新性は最後までもたされることはありませんでした。
第1世代となる1960~1964年モデルでは4ドアセダン(500&700シリーズ)を筆頭に2ドアクーペ、2ドアコンバーチブルをラインアップの中心に据え、またピックアップトラックやワゴン、ついには6&8ドアを装備したバンまで開発。
というと、製造ラインまで現代的な多種混合化させたのかと思われますが、そこまで発展したわけでもなく、それぞれのタイプごとにライン、製造現場をわけていた模様。
日本国内でもわりと人気のある2ドアクーペに的を絞ってスペックを紹介すると、空冷水平対向エンジンは2296ccから2683ccまで3タイプが用意され、80~95馬力の出力が与えられていました。また、トランスミッションは3速MTに加え、アメ車でお馴染みの2速パワーグライドATというのが当初のラインアップとなりました。
また、ボディサイズはフルサイズよりもいくらかコンパクトだったものの、RRのメリットを活かし、居住スペースやドアの大きさ(乗降性)はフルサイズ並み。それでいて、トラクション/ブレーキ性能に優れ、また燃費がいいことも手伝って、当時の自動車専門誌「モータートレンド」は大絶賛。1960年度のカー・オブ・ザ・イヤーに選び出すほどだったのです。
コルヴェアに垂れこめた暗雲
とはいえ、コルヴェアには懸念事項もなかったわけではありません。ユーザーから指摘が多かったのは、空冷エンジンゆえ寒冷時におけるヒーターの弱さ。これに対してGMはガソリンを燃焼させるヒーターをオプション設定したものの、燃費への影響や、経年劣化した際、車内に一酸化炭素が流入する恐れがあるなど、最後まで抜本的な解決には至りませんでした。
空冷RRあるある問題はこれだけにとどまらず、初期の911やビートルで指摘されたオーバーステア傾向もまた指摘されてしまいました。
第1世代コルヴェアは、リヤサスに当時のメルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンも用いたスイングアクスルを採用していましたが、フロントアクスルのアンチロールバーは未装着。となると、旋回中の荷重がフロント外側のタイヤに集中した際、RRはどうしてもオーバーステアを誘引しがち。
ただし、これはGMもよく理解しており、フロントタイヤの空気圧を低くして、リヤの圧を上げることで解消できるとしていました。実際、モータートレンドでのリポートにもその旨が記載されたようですが、一般ユーザーはもちろん、修理工場でも認知は進まなかったため「コルヴェアの操縦性はビミョー」という噂が定着してしまったのでした。
こうしたビハインドをはねのけようと、第2世代(1965~1969年)ではリヤサスペンションのグレードアップ(独立懸架)をはじめ、ターボモデルの追加、そして現代でもお手本とされるスタイリッシュなボディへとフルモデルチェンジを敢行。コークボトルデザインはこれから後のGMに大きな影響を与えたことはいうまでもないでしょう。
また、ワゴンとピックアップトラックがラインアップから消えたほか、2/4ドア、コンバーチブルなどは従来通りで、初代が狙った層だけでなく若者からの支持が大幅に向上したとのこと。
ただし、このあたりからコルヴェアの頭上には嫌な暗雲が垂れ込み始めるのでした。いい意味でも悪い意味でもアメリカの安全機運を高めたラルフ・ネーダー(醜いマイルバンパーは彼の提唱によるもの)の著書「クルマは何キロで走っても危ない(Unsafe at any speed)」によってコルヴェアの走行性を叩かれてしまったほか、エンジンの慢性的なオイル漏れ、そのほかステアリングコラムの堅牢性によって生じてしまった衝突時の危険性など、世の中の風向きは徐々に逆風となってきたのです。
上述のとおり、GMにしても手をこまねいていたわけでもなく、フルモデルチェンジでたいがいのことは解決して見せ、またラルフ・ネーダーがアヤつけてきた「コルヴェアがスピンするシーン」のムービーは、なんとライバルのフォードが作ったものだという証言すらあります。
それでも、コルヴェアの評判は回復することなく徐々に売り上げは落ちていくことに。一説によれば、ネーダーの指摘が行われた以前にコルヴェアの生産中止は決まっていたものの「アイツにいわれたからって、おめおめと生産をやめてたまるか!」とGM首脳陣が意地を見せ、1969年まで生産を続けたとのこと。まったく、いまも昔も勘違いした消費者団体というのは手に負えません。
ところで、コルヴェアはレースシーンでもそれなりの活躍を遂げています。もっとも有名なものではドン・イエンコによるカスタムマシン「イエンコ・スティンガー」があります。彼はコルベットで数々のレースに参戦していたのですが、かのキャロル・シェルビーになかなか勝つことができず、RRのコルヴェアにその望みを託したというわけ。
ともあれ、レギュレーション上、100台のイエンコ・スティンガーを作る必要があり、彼はいくつかタイプの異なるスティンガーを製作。いまもマニアによって動態保存されている個体が少なくないそうです。
リザルトについても各地のマイナーレースで好成績を残しており、RR、モノコックボディ、そして空冷フラットシックスの底力を見せつけてくれたのです。
コルヴェアはエポックメイキングと冒頭で評したのも、こうした背景を知ればご納得いただけるかと。実際、タッカーやナッシュを大きく上まわる200万台近くを売り上げていますから、ただの変わり種ではないことも実証されたといっていいでしょう。
なお、コルヴェアをベースとしたコンセプトモデルも数多く作られていますが、もっとも美しいとされるコルヴェア・モンツァGTは、現在もGMのヘリテージセンター、しかも特等席みたいな場所に展示されています。
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みんなのコメント
憧れたなー
ラルフ・ネーダーの本が出る前に件のリアサスはドライブシャフトがアッパーアームを兼用する一種のウィッシュボーン式に変わっているのですが、遅かったですね。