ハードルの高い水素ステーションの開設
燃料電池車(FCV)の普及が伸び悩んでいる理由は大きく3つある。1つは、水素充填のスタンド不足だ。そして2つめとして70MPa(メガパスカル)の水素タンクに充填するには、二酸化炭素(CO2)排出量を増やしてしまうという懸念もある。3つめは、走行距離において電気自動車(EV)に対する優位性が失われつつあることである。
現在の水素ステーション数は、日本全国93カ所で、移動式の39カ所を含めても132カ所に過ぎない。一方、EV用の充電器は、急速充電が7600カ所、普通充電を合わせると2万9700カ所となり、これはガソリンスタンドの3万件に近い数だ。そんなにあるのかと驚くかもしれないが、EVに乗っていないと意識しないので気付かないだけだ。充電器の看板は、そこら中にある。
さらに、水素ステーションが今後もなかなか増えない理由がある。それは設置費用の問題でも、法規制の問題でもない。水素ステーションを設けるには500平方メートル(約150坪)ほどの敷地が必要だ。なおかつ安全上、その上にビルを建てることはできない。水素は、もっとも軽い元素であり、万一漏れた場合、大気中に拡散させ濃度を薄める必要があり、それには水素スタンドに屋根や天井は設けられず、空へ解放できなければならないからだ。
とくに地価の高い都市部の地主が、ビルを建てられない水素スタンドのために150坪もの土地を提供するとは考えられない。水素スタンドは地価の安い地域にしか増えて行かないだろう。そこは人口も少なく、結果、FCVはなかなか普及しない。
FCVは将来性を見通せない状況にある
次に環境問題もある。ホンダが2008年にリース販売したFCXクラリティは、35MPaの水素タンクを搭載していた。すでにトヨタなどは70MPaの水素タンクを使いはじめていたが、なぜホンダは35MPaとしたのか。担当技術者はこう説明した。「70MPaとすると、水素充填の際にかえってCO2の排出量を増やし、気候変動の抑制につながらないからだ」。2倍の圧力で水素を充填するには、プレクールと呼ばれる冷却工程が追加になり、世界の電源構成比が火力で6割以上を占める今日、そこでエネルギー消費(CO2排出量)が増えるからである。
2016年に発売されたクラリティ・フューエルセルで、ホンダは、70MPaの水素タンクを搭載してきた。そこでCO2排出量増への懸念は払拭されたのかを聞くと、「状況は変わっていない。しかし、70MPaで水素スタンド普及がはじまったので、対応せざるを得なかった」と、技術者は答えた。70MPaの水素タンクを使うかぎり、FCVは究極の環境車とならない側面を持つ。
走行距離では、クラリティ・フューエルセルが一充填で750km(JC08モード)を走るとしたが、トヨタMIRAIは650kmだ。一方、日産リーフe+は570km(JC08モード)を走れる。WLTCでも、458kmだ。CO2排出量に適応した35MPaの水素タンクなら、EVに及ばなくなる可能性は高い。しかも充電器の数は、水素充填スタンドの225倍で、ガソリンスタンド並みである。
車両価格は、クラリティ・フューエルセルが約767万円で、MIRAIは約727万円。リーフe+は上級グレードのGでも約473万円である。車格の差があるにしても、それくらいないと構造も採算も見合わないのがFCVだ。
あらゆる面で、同じゼロエミッションを謳うFCVとEVだが、勝負にならず、乗用としてのFCVは将来性を見通せない状況にある。
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