2006年1月でのデトロイトショーでのデビューに続いて、2006年8月、4代目レクサスLS(日本市場でLSの名は初)の国際試乗会が行われた。当時、国内デビューに先駆けて、欧州で行われたこの先行試乗会は「欧州のライバルを強く意識したもの」と話題となったが、では欧州で感じた4代目レクサスLSはどういうものだったのか、その試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年10月号より)
格段にマッシブで精悍になったスタイリング
ついにトップ・オブ・レクサスに乗る日がやって来た。場所はオーストリアのザルツブルグである。快晴の空のもと2日間にわたる試乗に供されたLS460は、標準ボディの欧州仕様をメインに、北米仕様のロングボディが混じるという布陣。ちなみにタイヤは235/50R18と245/45R19の2種類が設定されており、後者の方がややスポーティな味付けとなる。
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今年2006年9月に発表となる日本のモデルは、これとはやや仕様が異なるようだが、それでも19インチはほとんど国内のスポーツ仕様に準じるとのこと。ロングボディは日本では後に登場するハイブリッド版までお預けとなるようなので、今回は時間の関係からも欧州仕様の2つのタイヤメイクに集中して試乗することにした。
ちなみにこれらはエアサス仕様。LS460は北米向けの一部にメカニカルサスペンションが残るだけで、日欧はすべてエアサスを採用する。
ところで、LS460に対面して最初に感心したのはスタイリングデザインだった。先代LS(日本名セルシオ)の持っていたイメージを完全に断ち切ることはしていないが、格段にマッシブで精悍になった。
全長がプラス15mm、全幅はプラス45mmとワイドで、一方で全高はマイナス5mと僅かながら低くなっているが、LS460から感じられたものは、そうしたディメンジョンの違いというよりも、デザインそのものの持つ力強さだ。
グリルやモールといったディテールから、見る角度により微妙に表情を変える複雑なボディ全体の曲面に至るまで、あらゆる部分に手が掛かっていることが伺える。もちろんパーティングラインはキチッと詰まっていて、シルバーのボディなどは金属のカタマリを彷彿とさせるほどだ。
歴代のLSには欧州車を、もっと端的に言えばメルセデスを追いかけたとの声も聞かれたが、LS460ではもうそんなことはない。オリジナリティがしっかり感じられるし、長く鑑賞しても見飽きない。どこかに強烈なアイコンがあるわけではないものの、全体から静かに語りかけて来る端正さを感じるのだ。このLS460を見て、僕はようやくレクサスの目指すデザインの方向性が見えて来たような気がした。
インテリアも子細に観察すると、各部に実に凝った曲線やトリムが使われており、質感も欧州勢を凌駕する高さだが、全体のまとまりとしてはオーソドックス。特にインパネのデザインは、オプティトロンメーターやナビ画面の周囲を取り囲むスイッチ類など、従前のものと良く似た雰囲気で仕上げられている。
年々複雑化する高級車の機構/装備を考えると、何か思い切ったインターフェイス改革があっても良いような気もするが、これはレクサスの敢えての選択だろう。ひとつのダイヤルに機能を集約するやり方は欧州の各メーカーがトライしているが、スイッチ数の削減には効果があるものの操作の階層が深くなり、結果的に使い勝手を煩雑にしている。見た目はやや賑やかでも整然と並べたスイッチに各機能を分散させ、複雑な設定が必要なナビなどをタッチパネルに担当させるレクサス及びトヨタの考え方の方が今のところ利が多いと思う。
実際200km/h近くの超高速域で使っても操作性に不満を感じることはなかった。しかもLS460には音声コマンドで200種類の操作も可能だ。日本仕様に乗れる日はその辺もじっくり試したい。
唯一気になるのは、この整然と並べられたスイッチの表記が日本語になったときだ。横文字がカッコ良くて日本語は野暮などとはまったく思わないが、ISやGSを見る限りもう少し洒落た、トヨタ系とは明確に異なるレタリングが欲しい気がする。
室内空間はかなり広い。45mm長いホイールベースはほとんど後席の余裕に振り向けられ、リアシートはすこぶる快適。しかも左右独立温度調節可能なエアコン(フロントアームレスト後端、Bピラー下部、ルーフに吹き出し口がある)、後席用モニター、左右独立式リクライニングなど贅を尽くした快適装備が満載される。
ロングボディに至っては、もう淋しくなるほどの広さだ。それでいてスタイリングでは長さを感じさせず、標準ボディと同様の均整の取れたプロポーションを実現しているのにも感心させられた。
パワーフィールはスムーズ、静粛性も相変わらず高い
静的な観察はこのくらいにして走り出そう。プッシュ式エンジンスタートを押すと、トーボードの奥の方でわずかに「フォン」と目覚めるのは、GS/ISと同じくツインインジェクター式ガソリン直噴とした上に、極低回転域からの制御が可能な電動連続可変バルブタイミング機構VVT-iEを採用した4608ccV型8気筒の1UR-FSEである。
パワーフィールは極めてスムーズだ。ただ、事前の期待値が高かったせいか、力感に関してはまずまずといったところ。もちろん最高出力は380psだから非力感は皆無で、踏んでいけば即座に好みの速度に達するが、ドラマ性は薄く、どこまでも滑らかな加速と感じた。
静粛性も相変わらず高いが、初代に初めて対峙したときのような無音室に入ったかの如き感動はない。ひとつには今回の試乗車が量産前で、狙っている静粛性が完全に出ていないこともあるようだが、それを差し引いてもエンジン音は以前よりも確実に耳に届くようになっている。
もちろんそれは、最近の欧州勢がV8の存在を誇示する演出とは異なり、高回転まで回していった時の躍動感につながるもの。これまでのバーチャルな走行感とは異なり、新生LSはリアリティある速さを求めたということなのだと僕は解釈した。
ただ、こうした音に対する考え方と、ドラマ性の薄いエンジンフィールはもうひとつリンクしていない気もする。さらなる刺激は来年のハイブリッドで、ということなら成り行きを見守るしかないが、エンジンモデルも、もう少し特定の回転域からモリモリっと来るパンチがあれば、より楽しめるクルマになると思う。
最多段ということで話題の8速ATは素晴らしい仕上がりだ。シフトアップ時の滑らかなつながり、ダウンシフト時のショックの少なさ、それにマニュアル操作時のレスポンスなど、良く出来ていたと今も思う先代の6速を凌ぐ出来映えだ。ちなみに100km/h走行時の8速でのエンジン回転は1450rpm。これは高速燃費にも大きく貢献するに違いない。こうしたクルージング時の室内は極めて静か。この点は依然として世界レベルでトップの実力だ。
シャシにいこう。LS460はバリアブルレシオのVGRSを採用する。ロックツーロックは停車時の2.4回転から3.5回転という範囲で、BMWのように極端に早めることはしていない。したがって操舵感はとてもナチュラル。ステアフィールも100km/h以下ではややフワッとした感触があるが、速度が増すにつれてシャキッと安定してくる。
今回は高速ステージが主となる試乗で、あまりゴリゴリと攻めたてるような走りはしなかったが、大舵角でも前輪は正確に路面を捉えるし、後輪の追従性も良く、ボディのマスを感じさせない軽快なハンドリングを楽しめた。また電子制御ブレーキもGSに比べ速いペダルの踏み込みに対してのレスポンスが向上したのも大きな進化点だろう。
気になったのは、ドイツのアウトバーンで200km/hレベルの高速走行を行ったとき、ステア操作に対するアクションにもうひとつどっしりとした安定感がなかったこと。やや緊張感が高まるのである。また、乗り心地は総じてフラットで快適だが、路面の荒れに対してセンシティブな面もあり、時に上下にフルフルと揺すられる感触を残すこともあった。この傾向は日本仕様に最も近い19インチタイヤでより顕著。18インチの方は日本仕様はまた違うチューニングとなるようだが、今回の試乗では乗り心地の点で評価が高かったのはこちらの方だ。
かなり細かい指摘もしたが、総じて見ればこのレクサスLS460というクルマは、トヨタの最先端技術を投入して開発したフラッグシップだけのことはあり完成度は高い。
従前の快適性に磨きをかけるとともに、走りを楽しませる味わいとダイナミック性能をさらに高めたというと、その進化ぶりが正確に伝わらない可能性もあるが、オリジナリティを高めたスタイリングも含め、欧州プレミアム勢と互角かそれ以上の実力を持つと言って良いだろう。残る興味は日本仕様を日本の道で試してどうか。その日もそう遠くはない。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2006年10月号より)
レクサス LS 460 主要諸元
●全長×全幅×全高:5030×1875×1465mm
●ホイールベース:2970mm
●車両重量:1945~2055kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4608cc
●最高出力:380ps/6400pm
●最大トルク:493Nm/4100pm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h(リミッター)
●0-100km/h加速:5.7秒
※欧州仕様
[ アルバム : レクサス LS 460 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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