電気自動車の航続距離や出力などの性能を決めるうえで大きな比重を占めるのがバッテリーだが、このバッテリーをはじめとして多くの高価な部品で構成される電気自動車は、補助金を使ってもどうしても支払価格が高くなってしまう。
しかし世界的な二酸化炭素削減の取り組みの中で、普通自動車はもちろん、軽乗用車もハイブリッド車や電気自動車への置き換えが求められている。しかし、価格重視の軽自動車をEV化するのは容易ではない。
スズキの超人気軽ワゴン 新型スペーシアシリーズ どこが変わった? 12月3日発表12月24日全情報公開
今回は、発売されたばかりのシリーズハイブリッド版のダイハツロッキーから、ダイハツのハイブリッドおよび電気自動車戦略を読み解く。
文/小林敦志、写真/DAIHATSU、NISSAN、ベストカー編集部
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■一部改良のスケールを超えた超目玉! ロッキー/ライズにシリーズ式HV
ダイハツロッキーはシリーズハイブリッドを採用。エンジンで発電した電力を使用してモーターを駆動。また、余剰電力でリチウムイオン電池に充電を行う
11月1日にダイハツのコンパクトクロスオーバーSUV(登録車)となる、ロッキーとトヨタ向けOEM(相手先ブランド製造モデル)となるライズが一部改良を発表した。
一般的な一部改良といえば、装備を増やすとか、新グレード追加など小規模なものが一般的だが、今回のロッキー及びライズは取り扱いディーラーのセールスマンも驚くほど規模の大きいものとなっている。
そのなかの“超目玉”となるのが、ダイハツ製新開発1.2Lエンジンを発電用として搭載し、100%モーターで走行する“eSMART”と命名されたシリーズハイブリッドシステム搭載モデルが追加されたことになる(FFモデルでも1Lターボからダイハツ製新開発1.2LのNAエンジンへ換装となった)。
筆者は「ロッキー&ライズからきたか(シリーズハイブリッドの追加)」と、この情報に初めて触れた時最初にそう感じた。
なぜそのような反応になったかというと、ダイハツが2022年に軽自動車へストロングHEV(ハイブリッド車)をラインナップする予定となっているとの情報を聞いていたからである。
全軽自協(全国軽自動車協会連合会)統計によると、2021事業年度締め上半期(2021年4月~9月)のブランド別軽四輪車総販売台数をみると、スズキの22万4923台に対し、ダイハツは24万8583台となり、2万3660台差をつけブランド別ではダイハツがトップとなっている。
新型ダイハツ ロッキー
しかし、これを軽四輪乗用車のみのランキングでみると、わずか3437台差ながら、スズキがトップとなっている。ちなみに直近となる2021年10月単月をみると、軽四輪車総販売台数でもスズキが4767台差をつけトップとなっている。
ダイハツはサプライチェーンの混乱が与える生産遅延への影響がより深刻となっているともされており、これを考慮しなければならないが、軽四輪乗用車の販売台数では、ここのところスズキに抜かれることが目立ってきている。
サプライチェーンの混乱がいまほど深刻ではなかったころでも、総販売台数でダイハツがトップでも、軽四輪乗用車の販売台数ではスズキにトップを明け渡すというパターンが目立っていた。ダイハツがブランド別軽自動車総販売台数でトップとなる時は、商用車の健闘が大きく影響しているのだが、なぜ軽四輪乗用車販売でダイハツは苦戦しているのだろうか?
販売稼ぎ頭のタントが新型になってから販売に精彩を欠く様子が目立っていることも大きいが、なんといってもスズキの軽乗用車はワゴンR(スマイル含む)、スペーシア、ハスラーといった人気軽自動車には、マイルドハイブリッドユニット搭載車があることも大きく影響しているようだ。
寸法や排気量などの規格が厳格に定められている軽自動車では、まさに“見た目が勝負”が一般的であった。買う側も多くは“基本部分はみんな一緒”という見方をするひとが多いようだ。
■『ハイブリッド』は軽自動車にとってアピールポイントになる
例えば中古車店などでは車種で選ばずに「好きな色と形を選んだらワゴンRだった」という買われ方が多い。色や形のほか、ハイブリッドも選ばれる要素として重要な位置を占めている
筆者は以前、届け出済み未使用中古軽自動車を多く展示する中古車店で一組の夫婦が軽自動車を買う様子を見ることができた。奥さんのクルマを買いに来たようで、奥さんがいろいろ展示車を見ているのだが、「この色いいわね」、「こっちは可愛いわね」など、会話に車名はおろか、メーカー名すら出てこない。
そのなか、旦那さんは懐から銀行の封筒に入った150万円ほどの現金を出して、奥さんのお気に入りの軽自動車の購入を決めていった。
つまり、好きな色と形をしていたので購入した軽自動車がたまたまスズキワゴンRだったといった買い方が軽自動車では多い。とくに各メーカーの軽自動車を一同に展示する未使用中古車専売店などでは、その傾向は顕著のように見える。
しかし、そのなかスズキはマイルドハイブリッドユニットを積極搭載してきた。
マイルドハイブリッド化された新開発ユニットはその素性も高い評価を受けており、とくにすべてのメーカーの軽自動車を並べている未使用中古車店では、「スズキの、この軽自動車はハイブリッドですよ」などと店員が説明すると、「それじゃこれ」とばかりに購入するお客さんも多いとの話も聞いている。
“ハイブリッド”というおまじないも、軽四輪乗用車販売でたびたびスズキがダイハツを抑えてトップになることを後押ししているようだ。
そのような、まさに“苦杯”を嘗めていたダイハツがいよいよ、マイルドハイブリッドではなく、ストロングHEVを軽自動車に搭載してくることになりそうだ。
一方で、日産・三菱連合は2022年春ともされているが、軽自動車規格のBEV(バッテリー電気自動車)をいよいよ市場投入してくるとされている。
あえてというわけでもないだろうが、2022年にダイハツは日産・三菱の軽BEVにストロング軽HEVをぶつけてくることになり、軽自動車の“電動化バトル”が熾烈を極めそうである。
日産の販売現場で話を聞くと、「軽自動車規格のBEVは厳しいものとなりそうだ」と、やや悲観的な話を聞くことができた。
日産が2019年東京モーターショーで発表した軽自動車EVコンセプト『ニッサン IMk』
「メーカーとか、われわれ販売現場ではなんともできない話ですが、街なかの充電インフラがまだまだ足りません。生活圏内だけとなりますが、毎日使うことが多いのが軽自動車です。集合住宅の多い日本、とくに都市部では“帰宅したら充電”というライフスタイルはかなり“非現実的”です。
だからといって、ショッピングモールなどで急速充電を頻繁に使っての充電は車両への負担を考えると、なかなかお勧めできません。
ガソリン車に比べれば不自由に感じるお客様の多いBEVを例え軽自動車規格で手軽とはいえ、積極的に我われから売ることはできません。もちろん“欲しい”とされるお客様はその限りではありません」とセールスマンは胸の内を語ってくれた。
しかも、HEVでは販売経験も豊富でそのメカニズムにも定評のあるトヨタグループのダイハツが、軽自動車にストロングHEVを投入してきたというインパクトの前には、日産・三菱の軽規格BEVは歯が立たないのではないか、という話もあるようだ。
いまの流れを見れば、ロッキー&ライズに搭載した、eSMARTの軽自動車版、つまりシリーズハイブリッドユニットが搭載されれば、日産・三菱の軽規格BEVより“敷居”が低くなるだけでなく、インパクトもかなり大きくなるだろう。
価格設定について報道では、日産・三菱の軽規格BEVの価格設定は補助金コミの実質購入価格が“200万円から”になるのではないかとされているが、ダイハツの軽HEVはメーカー希望小売価格で200万円を切るのではないかと聞いている。
■ロッキーへのHV追加は海外へのメッセージ?
ロッキー&ライズのハイブリッド追加は電動化への意欲を見せるASEAN諸国を意識したものと見ることもできる
そこで注目すべきは今回のロッキー(ライズ/以下ロッキーシリーズ)でのシリーズハイブリッドの追加設定である。
ロッキーシリーズはダイハツのDNGAという思想に基づいた新規プラットフォームを採用しており、これは登録車のA/Bセグメント及び軽自動車で共通となっている。これが、軽自動車のHEVもロッキーシリーズに準じたものになるではないかとされる所以なのである。
そして、ダイハツの軽ストロングHEVがシリーズハイブリッドとなれば、その先に“軽規格BEVありき”との話が進んでいることは容易に察することができる。もちろんロッキーシリーズもその先にBEVがあるはずだ。
前述したとおり筆者としては「なぜロッキーからHEV?」という疑問がそこでわいてくる。国内市場だけを考えれば軽自動車へ最初にストロングHEVを設定したほうがインパクトは大きく販売実績にも大きく影響するはず。もちろん、そんなに急に大量のユニット供給できないといった背景もあるのかもしれない。
今回のロッキーシリーズのHEV追加というのは、日本よりも海外(とくにASEAN諸国)へ向けたメッセージのようにも見える。
ASEAN加盟国での代表的な自動車生産国と言えば、タイ、インドネシア、インドとなる。とくにタイは“ASEANのデトロイト”ともいわれ、自国量販ブランドを持たないものの、世界の多くのメジャーブランドの生産拠点がある。世界各国へ輸出されており、日本製よりも製造品質が高いとの評価があるようだ。
日本へも日産キックス、同マーチ、三菱ミラージュなどが輸出されている。そのタイが2021年3月に“2030年までに自動車生産の半数をBEVにする”ことを検討していることを明らかにしたのである。
タイ工場で生産されている日産 キックス
ここのところ、タイで行われるモーターショーでは電動車の展示が目立つので「もしや?」とは思っていた。
ただ、すでに中国上海汽車がタイに工場を構えてSUVタイプのBEVを生産していたのだが、長城汽車もGM(ゼネラルモーターズ)の工場を買収し、2021年6月より電動車(PHEV)の現地生産を開始している。
しかし情報筋によると「中国メーカー(政府?)主導ではなく、独自に車両電動化を進めて行きたいとタイ政府は考えているようだ」との話も聞いている。そして、将来的には“BEV版EMS(家電や電子機器において、受託生産を行うサービス)”の一大拠点にしたいとかなり真剣に考えているようである。
つまりタイのBEV版EMSを利用して、例えばGMなど各メジャーブランドモデル向けに製造されたBEVをタイから出荷したいと考えているとの話もあるのだ。これが実現すれば、車両電動化では大きく出遅れている日系ブランドの積極的利用と言うものも十分考えられる。
ASEAN域内では、前述したタイ、インドネシア、インドのほかマレーシアなども加わり、それぞれの国で車種を作り分け、お互いの国で融通しあってラインナップしていたりすることもある。そうなると、加速するBEV化はタイだけでは終わらないとも見ている。
つまり、ASEANで人気の高いコンパクトクロスオーバーSUVスタイルでのシリーズハイブリッド車の日本国内デビューは、日本よりも車両電動化熱が高まりを見せるASEANをより意識したものとも考えられる。
つまり、いま詳細はわからないが、ダイハツの軽ストロングHEVがロッキーシリーズのHEVと共用部分が多いと考えると、ASEAN市場も巻き込んで量販して現地生産も行うことになるので、量販効果だけではなく構成部品の一部をASEANから輸入することによるコストダウンも実現可能となる。
前述したように2022年に国内登場予定とされているダイハツ軽ストロングHEVがかなりの魅力的な価格設定になる可能性も十分に孕んでいることになる。
ただし、タイはすでにPHEVなどを一足飛びにして、BEV普及へ一気に舵を切りたいようなので、ASEAN地域の車両電動化は日本よりはるかにスピーディに進んでいくのではないかともされている。そうなると、ストロング軽HEVの先にある、軽BEVもかなりインパクトのある価格設定になることは十分考えられる。
■手を結んだ軽の二大巨頭
CJPへの参画を表明したダイハツとスズキ。軽商用BEVの開発でタッグを組んだことになる両社だが、軽乗用BEV開発でも協力関係を結ぶことも考えられる
ダイハツとスズキはCJP(カーボンニュートラルへの取り組み加速を目的とした商用事業プロジェクト)に参画し、トヨタが保有する“コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ株式会社の株式を発行済株数の10%ずつ譲り受けることが発表されている。
つまり、“昨日の敵は今日の友”ではないが、軽商用BEVの開発でスズキとダイハツがタッグを組んだこととなったと見られている。もちろん、これが軽商用車だけに終わらず軽乗用BEV開発への協業へも波及するというのも自然な流れに見える。
今回のロッキーシリーズのシリーズハイブリッドの追加は、考え方によってはダイハツとスズキでの共同開発による軽BEVにまで話が及ぶ壮大な軽自動車変革の第一歩と飛躍して考えることもできるのである。
ここで気になるのがホンダの動き。軽商用BEVの開発になると考えられるが、スズキとダイハツはすでに事実上提携を発表している。
長い間、まさに“仁義なき”販売合戦を展開していた軽二大ブランドがあえて手を組まないと、軽自動車のBEV化というものは、“仲間”を増やさない限り、かなり実現の難しいテーマでもあるのだなと見ることもできる。
ホンダは単純なアライアンスでさえパートナーらしいパートナーが見えない、世界的にも珍しい独立独歩をいくブランドともいえる。また、そこがホンダファンとしてはホンダ車を愛してやまないのかもしれない。
しかし看板車種が軽自動車、しかもN-BOXに事実上限られるなか、政府も2035年あたりまでに電動車以外の販売を禁止するとしているので、電動化は避けては通れないテーマ。
ただ、それを単一メーカーだけで推し進めるのは、とくに量販が使命の軽自動車の世界ではかなり難しいように思えるのだが……。
日本固有と言うか、地域限定となる軽自動車であるが、その二大ブランドであるスズキもダイハツも、A/Bセグメントとのプラットフォーム共用化などを進め、ASEANなどグローバルマーケットを巻き込まないと、いまの価格維持はできなくなってきている。
日系ブランドは車両電動化へ、取り返しのつかないほど出遅れているのではないかと外野は心配している。その日本車の電動化は軽自動車からダイナミックに進んでいきそうである。
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