「ボンジュール! コート・ダジュール!」と、恥ずかしくなく言えるぐらい、素敵な南仏にやって来た。なぜ南仏? というと、マセラティが2年連続で公式スポンサーをしている「カンヌ・ヨットフェスティバル」を見学し、それに合わせて開催される南フランスでの試乗会に参加するためだ。
初日はまず、ヨーロッパ最大のヨットショーである「カンヌ・ヨットフェスティバル」へ。会場のど真ん中にはマセラティのブースがあり、ポセイドンの銛をシンボライズした“トライデント”マークが燦然と輝いている。地中海でも存在感バッチリだ。
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初日のメインイベントは、世界記録を保持するヨットレーサー、ジョバンニ・ソルディーニが操舵するマセラティ・マルチ70号への乗船だ。外洋レース艇で、長さ21.2m、幅16.8mとかなり大きい。ジョバンニ率いるチームは、このマルチ70号で、1万2948海里をノンストップで航行する世界新記録を樹立した(2018年2月)。風と潮を読み、36日と37分12秒で、香港からロンドンまでたどり着いたのだ。マジですごい。
四六時中、海上にいるジョバンニに、いつ寝ていたかと尋ねると、「交代交代で、3時間寝て、3時間操舵する。その繰り返しだ」と返してきた。世界的な海の男に恐れ入った。と同時に、やってもやっても終わらないデスクワークに悩む自分の小ささを反省。まだ本格的なグランドツーリングは始まっていないけど、ジョバンニのような超人に出会えるのも、グランドツーリングの醍醐味だと思った。そんな初日であった。
さて2日目。いよいよマセラティに乗る。最初に軽くドライブしたのは、フラッグシップであるクアトロポルテだ。正直、外観では、クアトロポルテもギブリも見分けがつきにくい。モータージャーナリストでも、見分けがつかないんじゃないか? と思いつつ、乗ってみて内装の気品に納得。さすがはフラッグシップだ。アクセルを踏んでみると、フェラーリ謹製のV6サウンドがなかなかいい。例えば反抗期で何も話しかけてこない娘を駅に送るとき、彼女が黙っていても運転は楽しいだろうし、またそのサウンドと品格から親父のすごさをジワジワと代弁させることができるかもしれない。僕がクアトロポルテで一番に感じたのは、それだった。
1時間半ほどマセラティのフラッグシップを走らせて、謎の泡の家である「パレ・ビュル」に到着。圧倒的に変テコ、でもすばらしい建築物にみな感動。ここはかのピエール・カルダンの別荘で、1974年に建てられたもの。くすんだピンク色の建物は床と同じ色で、その床の大理石はイランから輸入したそうだ。建物は、部屋も家具もほぼすべて丸形というか球形。フランスのセヴンティーズはこんな感じにアヴァンギャルドだったんだ、と心にメモしていたら、もともとのデザインはイタリアを参考にしたそうだ。
「パレ・ビュル」で、地中海の絶景を見ながらランチを済ませ、続いてマセラティ・ギブリに試乗。だんだんマセラティを見慣れてきて、なるほど、フロントサイドの3つのエアベントがギブリのほうが小さい、と気づく。そして、全長はギブリのほうが285mm短い。リアフェンダーあたりがより盛り上がり、ギブリのほうが筋肉質である。
続いての目的地は、ガラス工房の「Verrerie Pierini」。途中、峠道が多かったが、クアトロポルテよりギブリのほうが機敏に動けた。スポーツモードのボタンを押すと、こちらもフェラーリ謹製のV6サウンドが炸裂するが、街ではコンフォートモードに戻してマイルドなノイズに。スポーティだがジェントル。ギブリがエレガントなスポーツセダンであることの意味を知る。ドリフトを決めるワケではなく、サーキットでぶっ飛ばすわけでもない。無駄に激しいオーラを発することはしないし、享楽趣味丸出しの雰囲気もない。だが、気品とモダンさがある。4ドアのフェラーリ、と言いたくなったりする。上品さと威厳があるからこそ、訪問先で丁寧な対応を受け、快適で、ともに旅する仲間とより親密になれる力があるクルマだと、グランドツーリングを通じてわかった。
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