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昨年唯一のグランド・ツーリングをふり返る。エヴィアン~モナコ間をアルピーヌA110で縦断 後編

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昨年唯一のグランド・ツーリングをふり返る。エヴィアン~モナコ間をアルピーヌA110で縦断 後編

アルピーヌ・ラリーに最新A110で参加したことが、2020年、筆者唯一の海外長距離行となった。ヴィアン・レ・バンからモンテカルロまで、約800kmの“アルプス山中縦断”をリポートする。アルピーヌの創業者ジャン・レデレがラリードライバーとして走ったアルプスの山々で得たドライビングプレジャーを、はたして最新モデルで追体験できただろうか?

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ラ・ボネット峠の道は、今のイタリア国境に沿うように走るルートだ。ナポレオン3世時代にイタリアというより当時のサヴォワ王国に睨みを利かせるため張り巡らされた元軍用道路で、一般の通行が認められたのは第2次大戦以降のこと。ナポレオン1世が地中海のエルバ島を脱出して北上したルート・ナポレオンにもほど近いことから、関係史跡も少なくない。

ナポレオン1世の軍旗といえば鷲の紋章で、フランス中の村々の鐘楼から鐘楼へ鷲は飛び続け、最後はパリのノートル・ダムに達するという有名な演説を残したのも、百日天下への行軍中のことだ。そんな逸話の地というか山中を、今日の我々が飛ぶよりも速くスポーツカーで、逆方向へ、南下を楽しめるというのは、妙な心地だが、時代の進歩を感じるポイントでもある。それに、WRCラリー初年度のタイトルを獲ったアルピーヌにとって、モンテカルロはひとつの頂点でもある。

前日までより陽光は強く、岩肌に張りついた草木も黄色く褪せ始め、視界のあらゆるところで秋の訪れを感じさせる。アルプスはアルプスでも、明らかに南仏の趣が表れ始めているのだ。とはいえ国定公園の中にあるラ・ボネット峠は標高2802mと、今回のルート中でもっとも高い峠だ。平均の勾配率は登り下りとも6%強だが、下り最大は12%以上、麓までの標高差は1600m以上にも達する。有事の際に大砲を通したかったはずの道路は意外なほど幅が広く、ガリビエール峠やイズラン峠ほどの緊張感はなかったが、トリッキーなコーナーが延々続くという意味で、長い。ワインディングを走ることがマラソンのように感じられるのだ。

そうして辿り着いた鞍部近くでは、美しい円錐型の山容が迎えてくれた。そして山頂の反対側に出ると、この旅で初めて「NICE(ニース)」という、地中海を意識させる標識が現れた。それでもまだまだ、ゴールが近づいているという感慨に浸るには早過ぎた。この先、かのチュリニ峠が控えているのだから。

身体に限りなく近いスポーツカー

チュリニ峠は最高地点でも1607mと、標高はほどほどながら、ラリー・ファンの聖地となっている山頂カフェ兼ホテルに辿り着くまでの鬱蒼とした広葉樹に囲まれたワインディングが、とにかく長い。路面の舗装も時に荒れているし、ニュルブルクリンクのような激しいアップダウンはなくクローズドのコースでもないが、ラリー競技に好んで選ばれるステージで、アルピーヌ以外にも欧州車を鍛えて続けてきた道であることに納得がいく。単なるアジリティや機敏さ以上に、乗り手の積極操作を反映するハンドリングはもちろん、追い舵を許容する懐の深さ、そういったものがデフォルトで要る道なのだ。

それにしても、道や条件が過酷になるほど、A110の挙動には謙虚さや素直さが際立ってくるが、その一方で逆に必要な時には、大胆に振舞いもする。このブレない、一種の誇り高さというかスポーツカーとしての尊厳が、アルピーヌをして「ラリーの女王」と呼ばしめてきた。それがアルプスの山中を延々と走ってくると、レトリックではなく実感として噛み締められる。

世界でももっとも有名な自動車クラブの本部前、グランプリ開催時のスタート/フィニッシュラインが設けられるアルベール1世通りから、モナコのカジノへ至るボー・リヴァージュのストレートは、じつはエンジンパワーの問われる急な登り坂だ。そこを駆け上がった先、ホテル・エルミタージュの山側の玄関が我々のゴールだった。チェックインを済ませ、夕暮れのボー・リヴァージュとヨットハーバーに向かって窓の下を、また1台1台と、アルピーヌA110が登って来る。それは飽かず眺めていられるほどの光景だった。

この後、翌日にパリまで900kmの道のりが控えていたが、誇張一切なしでもうA110リネージGTは、すっかり身体に馴染んでいた。室内は狭いなりに、シートの背面に鞄を置いたり隠したりできるし、ドライビングポジションにまったく無理やストレスがなく、身体に触れる部分は基本レザーの柔らかさなので、むしろ狭さが心地よい、整った四畳半のような居住性の高い空間に感じられた。角のないフラットな乗り心地といい、グランドツアラーとしても出色の1台だった。帰国後の2週間の自主隔離は短くはなかったが、ジャン・レデレの境地とアルピーヌの原点を追体験する経験に代えられるものはなかったことを、今もって確信している。

文と写真・南陽一浩 編集・iconic

ギャラリー:昨年唯一のグランド・ツーリングをふり返る。エヴィアン~モナコ間をアルピーヌA110で縦断 後編

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