マツダの雪上試乗会があった。試乗会は、マツダのクルマづくりの哲学から具体的な技術までを体験するというイベントで、ポイントとして新型のCX-5の試乗とi-ACTIV AWD、GVCについてお伝えしよう。
■マツダのAWDはフィードフォワード&バックがポイント
マツダのAWD開発の想いは、「どんな道でも走る歓びと安心」というものを掲げ、それを実現するために、ハード部品による進化と制御技術による深化に力を注いでいる。それを「i-ACTIV AWD」と呼んでいる。
制御領域は難解なことが多いのだが、ポイントを2つ挙げて説明していた。これは前回の記事でもレポートしているが、「不安定な状況に備える制御」。そしてもうひとつが、「状況の急変に対するスリップ予測」という考え方に基づく制御というのがi-ACTIV AWDのポイントになる。
言い換えれば、フィードフォワード制御とフィードバック制御ということになる。フィードフォワードでは路面のμ、勾配、車速、舵角から運転の意図をコンピュータが判断している。これらの情報から車両の動きを予測し、常に最適な状態にするように制御してるわけだ。
常に最適な状態というのは前後のトルクを必要な時に必要な分だけ配分するということで、ステアリング反力、駆動反力を見ることで路面状態を検知し、不安定を先読みし備える制御ということだ。
一方のフィードバック制御は、タイヤのスリップをセンシングしており人間が感じないわずかな滑りを検知したときに対応する制御だ。ちなみにセンシングとしては200回/secという速度になる。これが、「状況の急変に対するスリップ予測」ということだ。
具体的には、リヤへ駆動力を伝達するために、スタンバイトルクが立ち上がっていることが挙げられる。つまり前後駆動配分が100:0にはならず99:1が最大のレス状態というわけ。その理由として駆動系の部品が持つスムーズな動作のために、意図的に作られた隙間やねじれによるわずかなタイムラグをなくした状態で待機させる必要があるからだ。
プレアクションとでも言うのか、スタンバイ状態に常になっていれば瞬時の反応が可能になり、タイムラグゼロで対応するというわけだ。また、このスタンバイトルクによる燃費などのロスは、ほぼゼロということだ。
このカップリング指令トルクは常に待機トルクを持ち、瞬時に後輪へ狙いのトルクを移行させ、ドライバーが感じる前に安定方向へ制御する。そのためドライバーは具体的なフィードバックを得られない。つまり、滑らないのだ。だから人が感じる前段階での制御となるため、予測制御という言い方にもなる。
ちなみにセンシングデータは27個のセンサーがあり、そのうち7~8個の情報をもとに制御されている。例えば路面状態の判断は、前後のワイパー、外気温、パワステの操作時の路面摩擦反力、そして前後加速度、またドライバー意図の領域ではアクセルペダル開度、ステアリング角度、ブレーキ液圧の信号を拾っている。
この2系統のどちらも予測制御と表現しているが、予測の種類が異なり、フィードフォワードとフィードバックの両方で走る歓びと安心につなげているわけだ。
■AWDのハードも進化
AWDのハードはJTEKTのITCC(Intelligent Torque Controlled Coupling)を採用し、前述の制御をマツダが独自に開発しているオンデマンド式AWDだ。
2012年のCX-5誕生以降、マツダのAWDはすべてこの仕組みが採用されており、今回は構成部品を変更して燃費に貢献する変更が行なわれた。
2015年に駆動系の作動油であるオイルを低粘度オイルに変更しており、撹拌抵抗を減らすことで省燃費へつなげている。そして今回の変更はベアリグの形状変更で摩擦抵抗を減らし、燃費に貢献している。
部位としてはフロントデフ、トランスファー部と、リヤデフ内部の複数個所にあるベアリングで、従来はテーパー型のローラーベアリングであったものを、今回ボルールベアリングに変更している。同時に、負荷の強い箇所のベアリングはダブルボールベアリングへと変更することで、対応している。
こうしたローラーベアリングからボールベアリングへと変更しているのは、マツダが国内初である。
こうした進化によって、2012年のレベルのエネルギー損失に対し、半減することに成功したと説明している。(燃費が倍に良くなったという意味ではない)
■AWDでもFFを超える燃費?!その発見
マツダのAWD制御開発をする原澤 渉氏は、AWDでもFFを超える燃費にすることが将来の目標としており、こうした地道な進化と深化によって近づきつつある。
その根拠となる発見があった。
総合エネルギー損失の観点から雪道において、「すべり」によってエネルギー損失が起きており、最も効率のいいポイントで前後のトルク配分ができれば、その損失は防げるというポイントを発見したという。
ここのポイントは前後のトルク配分のあるポイントでは4WD性能と燃費は相反しない、というポイントであり、総合エネルギー損失の中での研究結果とみることができるわけだ。マツダの社内データでは、雪道ではFFに迫る省燃費となっており、原澤氏らの研究は成果を出しつつあるのだ。
こうしたことが背景にあり、マツダのAWDはフィードフォーワード、フィードバック制御で前後トルク配分の効率の最適化が行なわれ、オイルやベアリングのような機械損失も低減させることでFFに迫る省燃費へとつなげているわけだ。
言い換えれば、こうしたトルクの最適化はドライバーにとって、「すべり」を感じないわけで、雪道での安全、安心につながっていく。路面状況をみながら、おっかなびっくり走った経験を持つドライバーも多いだろう。そうした不安はかなり軽減されるのは間違いない。ただし、あくまでもタイヤのグリップが最大値であり、グリップ限界を超えるような場面では制御の範疇ではないのは言うまでもない。
■GVC Gベクタリングコントロールは雪道で威力を発揮
マツダのGVCは、当サイトでも詳細なレポートを何度かしている。直近ではアクセラの商品改良で「マツダ アクセラ大幅改良のとんでもない中味と試乗レポート」で説明し、また、「マツダがまたやった! 進化するスカイアクティブ G-ベクタリング搭載」では詳細な解説をしてきた。
今回はそのGVCを雪上で試す機会ということだ。そして試乗車は新型のCX-5だ。
試験路は夏場は林道として利用されている道で、冬季閉鎖されている道路。もちろん、アップダウンがあり、タイトなコーナーやブラインドの場所もある。そのため、より実用域に近い環境での走行と言える。
新型のCX-5AWDには、ここまで解説してきたAWDの制御i-ACTIV AWDを搭載しているのはもちろん、GVCも搭載している。
走り出して最初に感じるのはGVCの効果だ。雪道は直線の圧雪路であっても凸凹がたくさんあるのはみなさんも経験的に知っているだろう。そして日陰部分は凍っている箇所もあり、また、試験で走行を繰り返すうちにブレーキングポイントでは、よりアイスバーンに磨きがかかった状態にまでなっている。
そんな試験路だが走り出してすぐに気づくのは、路面の凸凹にステアリングがまったく取られることなく、なめらかに直進することだ。これは意識しないと気づかないかもしれないが、まっすぐ走るためにクルマはジオメトリーによるセルフアライニングトルクとドライバーの修正舵によって走っていることが多い。だから、直進でも微妙に操舵していることになる。
ところが、CX-5は操舵なしに、まっすぐ走る。これは気を遣うことなく、まるで舗装路を走っているかのように滑らかに走る。そしてカーブではステアリング操作どおりに、ノーズがスッと入り回頭を始める。このノーズの入りも気持ちよく、癖になりそうだ。
このあたりの気持ち良さはGVC効果から得られるもので、安定したコーナリングはi-ACTIV AWDの性能がものをいう。
この林道を周回できるようにコース設定し、数キロにわたり周回していくうちに、自然と全体の速度が上がる。気づけば夏の舗装路を走る速度で走行しているのだ。それだけ車両が安定していて、不安を感じる要素がないからだろう。ちなみに、装着タイヤはブリヂストンのブリザックだった。
このi-ACTV AWDとGVCの制御は安定方向に制御をするので、意図的にクルマを滑らせようとしてもクルマは反応しない。アクセルをガバッと開けたり、急ハンドルを切ってもほとんど滑らない。前述しているが、タイヤのグリップ限界を超えれば、当然滑ってしまうが。エンジニアの原澤氏に「ドリフトコントロールのようなことはできないのか?」という質問をしてみると、「現状では安定方向の制御のため、ドリフトはしない」という回答だ。また、ドライバーの意図にリニアに反応するのが理想なので、そうしたことができるように、安定方向とアグレッシブな方向と両立できるのが理想だとも言っている。
それほど、安定志向になっており、これらの制御は雪上をフツーに走ることができるのが分かった。
GVC効果が分かりにくいというユーザーも聞く。実は、運転する際、操舵はジワリとステアし、コーナーにはブレーキを踏まずに曲がらなければわからないのだ。ハンドル操作を「じわっと切る」というのは体験しないと難しいかもしれないが、試してほしい。車速と連動するが、とにかくゆっくり、やさしくハンドルを回すことがポイント。スッと素早くハンドルを切るとGVC効果は出にくいのだ。動画を参考にしてほしい。氷板路でハンドル切る速度をイメージしながら見てもらうと、どんな速度で転舵するか理解しやすいと思う。
ちなみに、AWDの制御は他のモデルにも搭載済みで、ベアリングの部分だけ新型CX-5に搭載している。が、これも随時変更されていく部品だ。そしてGVCも現在のスカイアクティブモデル全車搭載済みなので、こうした安定した走行はすべてのモデルで体験できるというわけだ。ペンダントの動きを見るとよくわかるGVC。後は自身で感じてみることをおすすめする。最後に新型CX-5のひと言コメントとして、見た目の上質感に比例して乗り心地も上質に変化していることを付け加えたい。詳細なインプレッションはこの次の試乗の機会を待たなければならないが、先代よりも一クラス上がった上質さがあるのではないかと感じた試乗だった。
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