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「自社のバイクを売らないバイクビジネス」をインド市場に仕掛けるヤマハのねらいとは

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「自社のバイクを売らないバイクビジネス」をインド市場に仕掛けるヤマハのねらいとは

バイクメーカーのヤマハ発動機が「自社のバイクを売らないバイクビジネス」を始めている。車両を購入できない低所得層に対し、リースで車両を提供することで需要が伸びる配送ビジネスなどに活用してもらうというもの。振興国に向けた新規ビジネスのひとつで、世界最大の成長市場と見込まれるインドでは2021年に事業を開始、右肩上がりの成長を続け、2024年には初の単年黒字化達成の見込みだという。

この新事業のためにヤマハが立ち上げた「Moto Business Service India Pet. Ltd.」(MBSI)代表の中尾浩氏は、「貧困に苦しむ方たちにモビリティを提供して、その方たちの生活を改善していきたい」と話す。14億人と言われるインド人口の半分以上が年収90万円以下。「バイクがあればより良い仕事に就ける」という人たちに対し、サービス事業者を通じてモビリティを提供、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上をはかる。

「憧れを売っている」青いヤマハ、インドのZ世代を直撃するプレミアム戦略の躍進

◆「Y」の文字がないヤマハの新規ビジネス
そもそもなぜヤマハが「自社のバイクを売らないバイクビジネス」を始めたのか。そこにはヤマハの「人々の日々の生活」に寄り添い続けた歴史が背景にあるという。

ヤマハ発動機の前身で現在は楽器メーカーのヤマハ株式会社が創業したのが1897年、ヤマハ発動機の創業が1955年、およそ60年刻みで新たな価値を生み出してきた歴史を踏まえ、社内で「そろそろ新しい事業を」という機運が高まった。また3兆円企業をめざすにあたり、ヤマハの事業で欠けているのが「新規事業」だった。そこに目をつけ、今後の成長が見込まれるエマージング市場(アフリカ、インドなど)での新規事業のひとつとしてMBSIを立ち上げた。

「働きたい人がちゃんと職に就ける、職に就いた方たちが収入を得て次のステップに進んでいける、それを実現したい」という想いが原動力だと中尾氏は語る。

このMBSIが提供する車両は、ヤマハ製品に限らないというのが面白いポイントだ。ヤマハの関連会社であるにもかかわらず、社名に「Y」の文字が入らないのも、この新規事業に賭けるヤマハの覚悟とも捉えられる。

◆ヤマハ車はわずか5%、他メーカー車両も提供
取り扱う車両はインドで販売されるあらゆるメーカーの車両で、内燃機関の2輪、2輪のEVを中心に、3輪のEV、そして4輪のEVと内燃機関車も揃える。サービス事業者の要望に応じて、例えばライバル企業でもあるホンダやスズキの車両も提供することができる。ヤマハ製品の比率は「マーケットシェアとほぼ同じくらい」(中尾氏)でおよそ5%程度だという。

ガソリン代が高い(日本とほぼ同じで、レギュラーガソリン1リットルあたり約160円)ため車両価格も安価なEVの需要が高いが、品質に難がある車両も多い。それについてはモビリティ企業であるヤマハの知見を生かし現地での「目利き」を育てながら、最適な車両導入をおこなっているという。

また、納入した車両のメンテナンスにも力を入れる。社員約60名のうち4割がメンテナンスを担当しており、車両がちゃんと動いているか、事故なく運用できているかなどを常にチェックしながら運営にあたっている。車両にはすべて、後付けできるIoTデバイスを取り付け、使用状況や車両の状態をウォッチし、事業者へのアドバイスもおこなう。

そこが「お金だけを提供するファイナンス会社や単なるリース会社との大きな違い」(中尾氏)で、事業者=パートナーの成功や成長があってこそ、MBSIのビジネスも成り立つという考え方だ。そうして実績を積み重ね、現在は31社に車両を提供。保有台数は約1万台にものぼる。

◆アフターサービスが利用の決め手に
今回の取材では、バンガロール市内で実際にMBSIが2輪のEVを提供する事業者「FAEBIKES(フェーバイク)」を訪れ、話を聞くことができた。同社は2016年に設立、一般ユーザーやフードデリバリーに対しバイクのレンタルをおこなっており、2拠点で約1600台もの車両を取り扱っているという。

MBSIをパートナーに選んだ理由として同社は、「車両のアフターサービス」が大きいと説明する。ユーザーは生活をするための仕事としてバイクを使っている。車両をトラブルなく、長く使えることがユーザーにとっての最大のバリューだと考えており、そうした考え方がMBSIと一致したことが契約につながったとしている。

フェーバイクが取り扱う車両の多くは、最高速度が25km/h以下のEVスクーターだ。いわゆる日本の原付一種に近いカテゴリーだが、インドでは25km/h以下に制限された車両は免許不要で乗ることができる。免許の取得や、自らバイクを購入せずともここでEVスクーターをレンタルすることで「お金を稼ぐ」手段を手にいれることができるのだ。

◆EVスクーターで「稼げるようになった」
店舗では、フェーバイクのユーザーに話を聞くことができた。

22歳のマリックさんは、西ベンガル州のコルカタという街(インドの東端)からバンガロールに出てきた。4か月ほど前からフェーバイクを利用し、フードデリバリーをおこなっている。以前は工事関係の仕事をしていたが、月収は2万ルピー(約3万6000円)ほどだった。フードデリバリーに鞍替えしてからは月収3万ルピー(約5万3000円)~3万5000ルピー(約6万2000円)ほどを稼ぐようになったという。レンタル代の1300ルピー(約2300円)/週を差し引いても「稼げるようになった」。

実は自身でもホンダの内燃機関のバイクを所有しているが、仕事で使うなら小回りが効いて燃料代が掛からない(安く済む)EVが良いという。ちなみにマリックさんが使っているEVスクーターの航続距離は30km程度だそうだが、夜間に充電しておけば1日のデリバリーをまかなうには十分だそうだ。毎日11時~23時まで休みなく、1日あたり30件ほどを回るのだとか。

「将来のことはあまり考えていないけど、自分の家を持つのが夢なんです」と話すマリックさんは、コルカタの両親に毎月2万ルピーを仕送りしながら今日を生きている。

◆モビリティへのハードルを低くする
MBSIの中尾氏は、この新しいモビリティビジネスの目的を「QOLの改善を、イージー・アクセス・トゥ・モビリティで実現すること」と語る。

「一番の価値はモビリティへのハードルを低くすること。これを実現することでQOLが上がるという形をつくる。これをコアにした長期ビジョンがあれば、2030年といわず、もっと先まで戦い続けていける」

MBSIは現在、売上高や目標金額について公表していないが、2024年は初の単年黒字化を見込む。2027年末には提供台数を現在の1万台から5倍の5万台まで拡大させる見込みだ。

取材協力:ヤマハ発動機

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