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【ヒットの法則317】BMW M5 ツーリングはインテリジェントなスーパーワゴン

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【ヒットの法則317】BMW M5 ツーリングはインテリジェントなスーパーワゴン

2007年3月、5シリーズのマイナーチェンジと時を同じくして、ツーリングボディのM5モデルが登場した。BMWファンが待ち望んでいたスーパースポーツワゴンはどんな性能をもっていたのか。Motor Magazine誌ではアウトバーンを含むドイツの道でじっくりと試乗テストを行っている。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年6月号より)

M5セダン、M6と共通の5L V10エンジンを搭載
私は実用車としてのワゴンを非常に高く評価している。とくにドイツのように高速での移動が多いところでは、やはりミニバンやSUVは背が高く空力特性が悪く、また重いのでハンドリングや燃費が結果的に悪くなる。そこで流行遅れと言われるのは承知で、ワゴンに固執しているわけだ。

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ところがドイツでは私と同じ考えの人が多いらしく、ワゴンには根強い需要があって、ミニバンやSUVが伸びている一方で、まだまだワゴンの人気は高い。それはこのクラスがカンパニーカーとして選ばれるので、遊びっぽいSUVやファミリー臭いミニバンが敬遠されているためかも知れない。そんなところに、今回紹介するM5ツーリングのようなスーパースポーツワゴンが投入される理由のひとつがある。

ドイツではこのセグメントに、セダンと同様、アウディRS6アバントやメルセデスE63AMGステーションワゴンといった、パワフルなV10あるいはV8エンジンを塔載するライバルがたくさん存在する。M5ツーリングは、むしろ遅きに失したくらいの登場なのだ。

とはいえ、この遅刻には原因がないわけではない。実はM社は1992年から95年にかけて、E34ベースのM5ツーリングを生産していたことがある。しかし、時代がまだスーパースポーツワゴンを受け入れるほど成熟しておらず、わずか891台の生産で打ち止めとなってしまった。これがその次のM5にツーリングが加わらなかった原因となってしまった。

しかし前述のように、時代は変わった。そこで今回あらためてM5ツーリングを世に出したわけである。

M5セダン、あるいはM6に塔載されている507ps、520Nmを発生する5L V10エンジンを得たM5ツーリングは、セダン同様にフロントの巨大エアインテーク、左右のヒレ状の空気を裂くスポイラー、フェンダーサイドのアウトレット(エラ)、アクセントの付いたサイドシル、そして後方に回るとボディからリアエンドに回り込むような左右のパネルからそれぞれ2本ずつ突き出たマフラーカッター、そして中央のディフューザー風のフィニッシュで、明らかにM5の派生モデルであることを主張している。

しかし、ドイツではどうせオーナーが外してしまうリアの小さなM5のバッジは近寄らないと読めず、ご愛嬌だ。またサイドビューを引き締めるタイヤとホイールはフロントが255/40ZR19と8.5J、リアは275/35ZR19と9Jである。

もちろん、5シリーズ全モデルに対して最近行われたフェイスリフトは、当然M5にも反映されており、ヘッドライト、そしてリアコンビネーションライトのデザインが変わっている。

またインテリアも、スイッチや小物入れのレイアウト、そして材質とデザインが見直され、以前にも増して高級感が強く漂っている。さらに通常で520L、シートを倒せば1650Lとそこそこ使えるカーゴルームには、小さな荷物、カバンなどが飛び回らないようにベルトが準備されている。

テスト車はM5ツーリングの中でもフルオプションの豪華仕様で、明るいグレーのレザーと、ブラックウッドが眩しい。またクッションの厚い大きなM社製スペシャルスポーツシートには、オートマチックサイドサポートが装備され、横Gがかかると、まるで巨人の手のようにパッセンジャーを支える。後で聞いたら、これだけで1800ユーロ(約29万円)だという。

ドイツではリミッター解除のオプションも用意
さて、気を取り直してスターターボタンを押し、507psのV10エンジンに火を入れる。同時にSMGのセレクトレバーを右に倒して、まずは400psのエンジンパワーと、オートマチックモードでスタートする。

アクチュエーターでクラッチのオンオフを行うSMGは、初期型から比べれば大きな進化を受けているが、昨今登場したDSGに代表されるデュアルクラッチ式や今日の素早いシフトタイミングが光るトルコン式ATに比べると、まだシフトショックは大きく、改良の余地は残っている。ただしスポーツモードにおいて回転を保ちながら走っている限りでは、むしろ素早く、ダイレクトなシフトフィールが楽しい。

走り出してまず感じるのは、サスペンションの硬さである。フロントにマクファーソンストラットとスタビライザー、リアはマルチリンクであるが、とくに何も積んでいない状態だと、後方から路面の凸凹を拾って、かなりのハーシュネスが届く。またフロントも細かな突き上げをモロにドライバーに届けてしまう。

もっともこれはテスト車を市の中心地から郊外のアウトバーンへ移動させる途中での現象である。というのは、この不快な現象はアウトバーンで80km/hを超えたあたりから徐々に少なくなり、130km/hを超えるころには、乗り心地は完全にフラットになる。

さらにスロットルを踏み込むと、そう長くない距離で200km/hに達したが、このスピードでも乗り心地はフラットで、ステアリングもしっとりと落ち着いているので少しも不安はない。まるで新幹線並みの個人移動を可能にしてくれる。もちろん望めば大人4人と、それに必要なラゲッジ類を飲み込んでのグループ旅行も可能である。

メーカーの発表によれば、セダンより125kg重いM5ツーリングのダイナミック性能は、スタートしてから100km/hまでの加速所要時間が4.6秒、さらに加速を続け1000m地点に達するのは22.9秒後である。また、最高速度は250km/hに制限される。

もちろん507psを発生するV10を搭載するM5の実力は、こんなものではない。またオーナーの中には高い金を払って、しかもポテンシャルがあるのに他のモデルと同じ250km/hでは我慢できないと解除を求める人もいる。そこでM社では、オーナーが望めば2350ユーロ(約38万円)で、このリミッターを305km/hまで引き上げてくれる。

1台で二役を軽々とこなすスーパースポーツワゴンだ
さて、アウトバーンから下りて一般道へ、そしてシュツットガルト郊外へとM5ツーリングのノーズを向ける。向かった先は、元公道サーキットの「ゾリチュード」である。ここは現在ではすでに完全な公道と化しているが、アップダウンと、きついコーナーが連続するまさにハンドリングチェックには最適のコースである。

ここでM5ツーリングのドライブロジックをフルパワーにし、さらにSMGのシフトモードを最速にセットする。すると、これまで穏健なツーリングを行ってきた良い子のV10エンジンはスロットルペダルのミリ単位の踏み込みに反応し、さらにシフトは一瞬でアップダウンを完了する。

M5ツーリングはここでは文字どおり「水を得た魚」のような動きを見せてくれた。それまでハイスピード領域以下では、コツコツと路面からの不要なメッセージを送ってきたサスペンションも、ここでは路面に吸い付くようなロードホールディングを提供、ステアリングもよりクイックで、さらに正確なロードインフォメーションをドライバーの手のひらに伝えてくる。だからコーナーの連続でも、軽く手首を動かすだけでM5ツーリングのノーズは面白いように向きを変える。

またややオーバースピードになりがちな下り坂では、無類に制動効果の高い、またそれでコントローラブルなベンチレーテッドブレーキが、2トン近いワゴンボディのスピードをしっかりと抑え込む。この際に剛性感の高いブレーキペダルがさらに安心感を与えてくれる。

このスーパースポーツワゴンであるM5ツーリングのドイツでの価格は、19%の付加価値税込みで、9万4100ユーロ、日本円にしておよそ1500万円になってしまう。しかし、もし予算があれば、750万円のスポーツカーと750万円のステーションワゴンを買うよりも、1台で二役をこなすM5ツーリングの方が、たとえば置き場所に困る日本では、ずっとインテリジェントな買い物であると思う。

ただし、日本で発売されるかどうかは、ドイツでテストした時点ではまだ決定されていなかった。(文:木村好宏/Motor Magazine 2007年6月号より)



BMW M5 ツーリング 主要諸元
●全長×全幅×全高:4855×1846×1512mm
●ホイールベース:2880mm
●車両重量:1955kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:4999cc
●最高出力:507ps/7750rpm
●最大トルク:520Nm/6100rpm
●トランスミッション:7速AMT(SMGIII)
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h(リミッター)
●0-100km/h加速:4.6秒
※欧州仕様

[ アルバム : BMW M5 ツーリング はオリジナルサイトでご覧ください ]

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みんなのコメント

5件
  • むか~し、もう10年以上前、コレのセダンを所有してましたが、トランスミッションがトラウマ級の難物だった。。。
    まず、低速域でのギクシャクが半端なく、街乗りは苦痛しか無かった。
    さらに4年で2度のトランスミッション故障。1度目は新車保証期間のため無償修理…というか載せ替え、2度目は保証終了のため実費120万円。

    エンジンや車体に文句はなかったけど、このトランスミッションだけはダメだ。
    サーキットなら素晴らしパフォーマンスを発揮するけど、とても公道使用に耐えうるシロモノじゃなかった。。。
  • アウディ、BMWとこの頃のドイツ車はセダンやステーションワゴンにV10搭載と言うぶっ飛んだ仕様が多かったね。
    レースに積極的に参戦してたからこそのフェードバック。
    エンジンを自社開発してるメーカーはやっぱ違うよ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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