年末恒例の国内旅行を、2017年は718ボクスターの長距離慣らし運転を兼ねることにした。行き先は、以前から一度行ってみたかった伊勢神宮。
年末恒例というのは、池波正太郎のエッセイに書かれていた次の一節に触発され、数年前近江八幡に出掛けてみたところその通りだったので、毎年楽しみながら励行しているのだ。
第12回:718で行く池波正太郎的ロング・ドライブの巻(前編)
「12月が一番いいんです。空いていて。みんな親切にしてくれる。ヒマだから、どこへ行っても。旅館でも、予約なんかしなくたって、向こうへ着いて駅から電話をかければ必ず空いているんだよ。だから行き当たりばったりで、自由自在に。きょう京都だから、ちょっと明日岡山のほうへ行ってみようと思って、すぐその晩電話しても泊まれるものね。ぼくには2月と12月、それと梅雨どきの6月、これが旅をするには一番いい時期ということになる」(『男の作法』新潮文庫)
12月27日なので、池波先生が書いていた通り新東名も空いていて、順調に西へ向かっていた。
ところが、カーナビが次の浜松北インターで降りろと言い始めた。目的地の伊勢ははるかに先だ。降りるには、早過ぎる。
画面を操作してルートを確認してみて驚いた。なんと、新東名を降りて国道42号を西に走って渥美半島の先端の伊良湖岬からフェリーに乗れと指示しているのだ。
たしかに、このまま新東名や東名で西に向かったら、浜松から名古屋、さらには四日市や津などを経由して、伊勢湾の外側をグルッとほぼ4分の3周する感じで回り込むまなければならない。
それに対して、伊良湖岬からフェリーに乗ってしまえば、鳥羽の港は眼の前だ。
距離的には圧倒的に短いが、時間的にはどうなのか?
すぐに乗れるフェリーはあるのか?
乗船時間は?
それを検証しているくらいだったら、行ってみよう!
フェリーに乗るなんて日常ではほとんどないのだから、面白そうじゃないか。想定通りに進む旅ほどツマラないものはない。
料金は1台に2名乗車して8400円。安くはないが、名古屋回りの時間を短縮し、おそらく渋滞を回避できて、クルマごと船に乗るという楽しみの代金だと考えれば高くはない。
このルート設定のおかげで、僕は自分の価値観やセンスと718ボクスターのカーナビのアルゴリズムとの相性が良いのではないかと、これからに期待したくなった。
もちろん、カーナビのソフトウェアはまだ感情などは持っておらず、インプットされた距離や渋滞情報、設定した優先順位などに基いて機械的にルートを設定しただけなのだが、“新東名から名古屋経由で向かう”という、こちらの思考停止した“常識”を軽く引っ繰り返してくれ、その上、旅情まで掻き立ててくれた。これからも、このカーナビが思いも付かなかった道案内をしてくれることと思いたい。
伊良湖ー鳥羽フェリーには、あまり待つことなく乗船できた。大型の観光バスが2台、普通乗用車と軽自動車を併せて9台がすでに乗り込んでいた。718ボクスターをその最後尾に駐め、船の壁沿いの階段を上がって船室に上がった。
座席がざっと200人分以上は並んでいる中央部分には売店があって、菓子や飲み物などを売っている。乗客は50人もいただろうか。僕らのような観光客だけでなく、明らかに地元っぽい人たちも乗っている。おそらく、昭和の時代からずっと続いてきているスタイルなのだろう、船内の雰囲気はのどかなものだった。ここまでずっと運転してきた心身を和ませてくれた。
出発のアナウンスがあり、エンジンの唸り音が高まっていくのと同時にフェリーは岸壁を離れ、港の外で大きく転回して、志摩の方向に直進して行った。
風もあり、波も高いので、デッキに出ると波しぶきを被る。しょっぱい。
30分弱で鳥羽の港に到着。改札などはなく、フェリーから港に上陸し、そのまま通路から志摩や伊勢を貫く国道42号に出た。国道42号とは、さっきまで走っていた道ではないか。海で隔てられていても、一本に繋がっていることになっている。
ホテルにチェックインするには早いので、以前にジャガーXFで走ったことのある伊勢志摩スカイラインに向かった。
伊勢志摩スカイラインは小さめのコーナーが連続する観光道路で、朝熊山を越えて伊勢神宮のすぐ裏手に出る。適度なアップダウンと直線もあるが、片側1車線がずっと続くので、遅いクルマに追い付いてしまうと、あまり速くは走れない。
それでも、718ボクスターは活き活きとスカイラインを走った。以前に乗っていた986型ボクスターには装備されていなかったPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)の働きを顕著に感じることができたのが収穫だった。
コーナリングの負荷に応じて、サスペンションスプリングを抑え込む力が無段階に変化していくのがわかった。緩いコーナリングではマイルドに、キツいコーナリングではしっかりとクルマを支えてくれる。
以前の986型ボクスターの機械式のサスペンションでは、コーナリング中に段差や舗装のつなぎ目などを乗り越える時にビックリするぐらい強い反発を受けて不快に感じたものだが、PASMはそれを懐深く受け止めてくれるから快適そのものだ。
そして、そこからが真骨頂で、ロールが深まっていきそうなところからサスペンション自身が引き締まり、強く踏ん張っていく。その程度を強すぎず弱すぎず無段階に電子制御しているから、踏ん張っている最中に段差などを乗り越えても進路が乱されることがない。
速度を問わずコーナリングの始まりはマイルドで、その時にハンドルに伝わってくる感触がホンの少しだけ希釈されているようにも感じた。986型ボクスターでは、アスファルト舗装の目の粗さまで判別できるのではないかというくらいにハンドルから伝わってきた気がしたものだけれども、このPASM付き718ボクスターはそこまでの“解像力”は持っていないようだ。
スカイラインの中間地点にある朝熊山頂展望台からの眺めは絶景だった。さきほどフェリーで渡ってきた伊勢湾やその外の太平洋が見渡せ、振り返れば伊勢の山々を望むことができる。
翌朝、伊勢神宮を参拝し、おかげ横丁をひやかし、お汁粉を食べた。神宮だけでなく、市内全体で年始の準備に取り掛かっていた。どちらも池波正太郎の書いた通りに空いているということはなかったのは、海外からの多くの参拝客のためだ。同じホテルの露天風呂で言葉を交わしたインドネシアからの男性は、家族で民族衣装を着用して参拝に臨んでいた。
参拝の後、僕らは東に戻り、明治村や掛川花鳥園などを見学して掛川近郊でもう一泊して帰京した。
そちらは比較的空いていて、ゆったりと楽しめた。池波流は昭和の頃の話だが、観光施設やホテルなどにその精神は生きていた。718ボクスターが知能化した最新のポルシェとなってもスポーツカーの本質を失っていないことと奇遇だけれども見事に重なり合っているようにちょっと都合よく思えたのは、良いクルマを迎え入れることができて、それで出掛けたロングツーリングで一年をうまく締めくくることができたからなのかもしれない。
金子浩久 モータリングライター
1961年、東京生まれ。大学卒業後、出版社で書籍と雑誌の編集者を3年半務め、独立。20~30代には、F1記者として世界を駆け巡る。主な著書に、『ユーラシア大陸1万5000キロ 練馬ナンバーで目指した西の果て』『10年10万キロストーリー』 (1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。
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