10月7日、スバルは名門のレガシィを背負う新型レガシィアウトバックを正式発表。ワゴンボディながら最低地上高を上げ、SUV的な要素を盛り込んだ同車は、現在では日本市場で売られる唯一のレガシィとなっている。
かつてワゴンブームをけん引したレガシィツーリングワゴンが絶版となり、セダンのレガシィB4も海外のみの販売となるなか、レガシィアウトバックが名門を背負う理由とは?
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文/渡辺陽一郎、写真/SUBARU
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■新型レガシィアウトバック 注目の出だしは?
2021年9月より受注を開始している新型レガシィ アウトバック。予想される納期や価格から考えると、受注数はそれほど多くはないようだ
最近はランドクルーザーやカローラクロスなど、SUVのフルモデルチェンジが続く。そのなかでSUVとワゴンの中間的な存在になるレガシィアウトバックが、新型の受注を開始した。
販売店に今後のスケジュールと納期を尋ねると、以下のように説明された。
「新型レガシィアウトバックは、10月7日に発表して、納車を伴う発売は12月2日になる。試乗車が配車されるのも、おそらく12月2日以降だ。9月下旬に契約されたお客様に納車されるのは、2022年1月からになる」
今は半導体を筆頭に、部品やユニットの供給が滞っているから、納期は不安定だ。そこを考えると、2021年9月下旬の契約で納車が2022年1月以降なら、新型車として特に長くはない。納期は比較的安定しており、受注台数がさほど多くないことを意味する。
受注台数が大幅に伸びない背景には、国内市場との親和性が高くないこともある。筆頭は価格で、「XブレイクEX」は414万7000円、「リミテッドEX」は429万円だ。「XブレイクEX」では、「リミテッドEX」に標準装着されるハンズフリーオープンパワーリアゲートが14万3000円でオプション設定される。
これを「XブレイクEX」に加えると429万円だから、両グレードの価格は実質的に同額だ。Xブレイクは外観が悪路向けのSUV風で、リミテッドEXは、アルミパッド付きスポーツペダルなどを採用して質感を高めた。
価格が429万円となれば、SUVなら上級車種のハリアーハイブリッド「G-Four」(422万円)と同程度だ。ミニバンのアルファードなら、エアロパーツを備えた2.5Lの「S・4WD」(424万円)を購入できる。注目度の高い日本車の最高価格帯に位置する。
ちなみに先代レガシィアウトバックの価格は、「Xブレイク」が346万円、「リミテッド」は363万円であった。リミテッド同士の比較で、新型は66万円値上げしている。
新型には渋滞時にステアリングから手を離しても運転支援を続けられるアイサイトXテクノロジー、11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ、ドライバーモニタリングシステムなどが標準装着される。こういった先進装備の価格換算額は、レヴォーグをベースに割り出すと約39万円だ。
残りの27万円は、上記以外の装備と水平対向4気筒1.8Lターボエンジンの搭載(先代型は水平対向2.5LのNAエンジン)、プラットフォームやボディの刷新に費やされる。この内訳を見ると、値上げも仕方ないと思えるが、価格自体が400万円を超えると割高な印象も強まる。
また、新型レガシィアウトバック「リミテッドEX」と同程度の装備を採用したレヴォーグは、「GT-H・EX」で価格は370万7000円だ。これと比べてもレガシィアウトバックは60万円近く高い。
■名門を背負う背景に唯一無二のポジショニング
写真のBP型までは全幅も控えめで価格にも割安感があった。ここより先、アウトバックは海外志向を強め大型化していく
レガシィアウトバックの足跡を振り返ると、2003年に発売されたBP型までは、全幅が1800mm以下で価格も割安だから好調に販売された。これに比べると現行型は、明らかに海外指向を強めた。そのために新型レガシィアウトバックは、北米では2019年に発表されたのに、日本での発売は約2年間遅れた。
新型車を世界で同時に発売するのは困難で、レガシィアウトバックであれば、販売比率の高い北米を優先させるのも納得できる。しかしフルモデルチェンジの周期は5~6年だから、2年間の遅れは大きすぎる。1年以内に抑えるべきだ。
特に新型レガシィアウトバックを含め、今のクルマはフルモデルチェンジをおこなうと安全装備や衝突安全性を大幅に向上させる。海外では新型、国内では旧型を併売すると、後者には海外よりも安全性の劣った商品を供給することになってしまう。
それなのにレガシィアウトバックは、海外専用車にはならない。レガシィB4は海外向けになったが、アウトバックは前述のとおり国内で継続販売される。その理由を販売店に尋ねると、以下のように返答された。
「レガシィアウトバックには、長年にわたり、何台も乗り継いでいるお客様が多い。ほかのワゴンやSUVとは違う独特の魅力があるためだ。レガシィの伝統も受け継ぐスバルの最上級車種として、大切な存在になっている」
冒頭で述べたとおり、レガシィアウトバックは、ワゴンとSUVの中間的な存在だ。ボディの基本スタイルはLサイズワゴンだが、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)は新型になると213mmの余裕がある。
悪路のデコボコを乗り越えやすく、なおかつワゴンスタイルだから、舗装路での走行安定性も優れている。
今は北米ではSUV、日本ではミニバンとSUVが売れ筋で、ワゴンは需要を奪われた。車種の数も大幅に減った。そのためにワゴンとSUVの中間的なレガシィアウトバックのような車種は、ほかには用意されない。
強いて挙げればXVは類似車種だが、コンパクトな5ドアハッチバックのインプレッサがベースだから、ユーザーのニーズは異なる。
つまりレガシィアウトバックは唯一無二の存在で、スバルの伝統も背負って立つ。販売店のコメントにもあった通り、レガシィアウトバックを何台も乗り継ぐファンも多いため、日本仕様もフルモデルチェンジを受けて存続させる。
その点でレガシィB4は、4WDのLサイズセダンという特徴はあるものの、アウトバックほど際立った個性はない。セダン需要の低迷もあり、日本では廃止された。
全長が4870mm、全幅も1875mmに達する大柄なサイズは、日本で販売するうえでは欠点になり得るが、逆の見方をするとライバル車は少ない。このサイズのSUVは、ハリアーやCX-8などに限られるから、レガシィアウトバックも存在感を発揮しやすい。
■レガシィアウトバックが必要な事情と期待したい「レヴォーグアウトバック」
アウトバックのようなSUVのテイストを持つワゴン車は唯一無二の存在だ。北米での新型登場から2年遅れでも国内に投入するのはそのレアな存在感にも理由がある
このほかメーカーや販売会社の受け取る粗利が多い事情もある。スバルはもともと、非常に効率の良い商売をしている。売れ筋の価格帯は250万~400万円と高く、販売店の数は全国に約460箇所と少ない。トヨタの10%だ。
そのために1店舗当たりの車両販売に基づく売上額は、日本車ディーラーでは、全国に約170店舗で高価格車のみを扱うレクサスに次いで多い。そこに400万円を超えるレガシィアウトバックも加わると、効率は一層向上する。
伝統的なイメージリーダーでもあり、国内販売を継続する背景にはスバルの経済的な事情も絡む。
ただし、大量な販売は望めない。レガシィアウトバックの登録台数(B4を除く)は、コロナ禍が生じる前の2019年において、月平均で約300台であった。
この時期のスバル車の登録台数は、フォレスターが月平均で約2700台、XVは約2200台、インプレッサ(スポーツ+G4)は約1500台、レヴォーグはフルモデルチェンジを控えながら約1000台だ。
この販売実績を踏まえると、新型レガシィアウトバックの売れ行きが、発売の翌年以降も1000台を超えるのは難しい。伝統的なイメージリーダーという役割が大きい。スバルのファンが、フォレスターなどを乗り継いだ後に購入するクルマだ。
その意味では価格の割安なレヴォーグアウトバックもほしい。価格は現行レヴォーグの25万円アップとして、売れ筋の価格帯は370万~395万円だ。アイサイトXテクノロジーなどを標準装着しても、400万円以下に収まる。そしてレヴォーグの鋭角的なボディは、最低地上高を高めてもカッコ良く見える。
スバルでは、WRXやインプレッサでも、雪道などの悪路を視野に入れて開発をおこなう。「スバルは悪路に強い」という認識が根強いからだ。
他メーカーの開発者は「悪路向けの対策をせず、最低地上高を高めるとトラブルの原因になるから、SUV仕様は難しい」というが、スバルのレヴォーグなら最低地上高の拡大も困難ではないだろう。
これをそろえれば、XV、レガシィアウトバック、フォレスターと併せて、スバルらしい今のトレンドに沿ったSUVラインナップを構築できる。その頂点に君臨するのがレガシィアウトバックだ。
スバルのSUVが充実するほど、レガシィアウトバックの位置付けも際立ち、フラッグシップとしての魅力をさらに増していくだろう。
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