幾多の実戦を無事に生き抜いたWRカー
2024年も1月12~14日にかけて開催された新春恒例の東京オートサロン。「吊るしの新車」ではないチューニングカーやカスタムカーといった世界を広く知らしめるべく「東京エキサイティングカーショー」という名称でスタートしたイベントだけに、もともとモータースポーツとの親和性も高く、現在ではメーカーの新型競技車両やレーシグ・チームの体制発表の場にもなっている。さらに最新のマシンだけでなく、過去のレースやラリーで活躍したヒストリック競技車両なども展示されており、それらもモータースポーツ・ファンを中心に、多くの来場者の注目を集めているわけだ。
本物のWRカーであるスバル「インプレッサ」がなぜ公道を走れる?「ナンバー取得に6年かかりました」
熱烈なファンが多いインプレッサ
ひと口にクルマ好きといっても、その「好き」のカタチは人それぞれ。絶対にカスタム&チューニングしないと我慢できない派、オリジナル至上主義、戦前のクルマしか愛せない人、ラップタイムを削ることに命をかける武闘派から学者肌の書斎派まで。そんなさまざまな趣味趣向のなかのひとつが「個体趣味」とでも呼ぶべきジャンルだ。
基本的にクルマは大量生産が前提の工業製品であるから、まずは車種と年式でだいたい十把一絡げに語られることが多い。しかし、戦前の超高級車やレーシングカーとなると「いつ誰が何の目的で何台作ったか」という記録が明確に残されていることも多く、それらは「機械としての機能」の他に、名工の作った工芸品のような付加価値・ヒストリーまでもが付随して語られる。
会場の幕張メッセ内の中ホール。競技車両の製作などを得意とするアイオン・レーシングサービスと軽量パーツやエアロパーツなどの販売、そしてドリフト競技などにも参戦するWISESQUARE(ワイズスクウェア)。その2社のブースにまたがる形で展示されていたのがこちらのスバル「インプレッサ」である。WRカーにおけるインプレッサといえば、前任の「レガシィRS」の後継機として1993年の1000湖ラリーでデビュー。
その後ランチア「デルタ HF」、トヨタ「セリカ」、三菱「ランサーエボリューション」やフォード「エスコートRS」といった強力なライバルたちと死闘を繰り広げ、1995年から1997年にかけてじつに3年連続でマニュファクチャラーズ・チャンピオンに輝いた。その華々しい活躍からスバルがWRカーのトップカテゴリーから撤退した今もなお、熱烈なファンは多い。
慶事として楽しむ気持ちこそが個体趣味
この時代にWRカーで活躍したマシンは基本的に市販車ベースなので、そのベース車両さえ手に入れればかなりリアルなレプリカを作ることもできる。というわけで、この時代のWRCマシンを愛する気合の入ったラリー・フリークが「一見すると、ほぼワークスカー」を作って楽しむことも少なくない。
しかし、こちらに展示されたE-GC8 インプレッサWRC(S5)は、1997年にプロドライブが手がけ、スバルワールドラリーチームが実戦投入したヒストリーを持つ「ホンモノ」である。
1997年にケネス・エリクソンのドライブでラリー・オーストラリア、1998年にはコリン・マクレーのドライブでスウェディッシュ・ラリーに参戦した個体そのものという。ちなみにこのふたつのラリーの結果は、残念ながらいずれもリタイヤ。その後同車はプライベーターに放出されいくつかのラリーを走った後、2013年に日本に里帰りを果たし2015年からレストアを開始。2022年には無事レストアも完了し、1998年のスウェディッシュ・ラリー当時の姿が蘇ったのである。
プロのレーサーやラリーストにとって、クルマは競技のためのツール。勝利のためにはつねに最新のツールが必要で、そこに骨董的・考古学的な意味合いは不要。役目を終えたツールは当然引退・廃棄となるわけだが、なかにはこのインプレッサWRカーのように幾多の実戦を無事に生き抜き、活躍していた当時の姿に蘇った幸運な個体も存在する。オーナーでなくとも、それを慶事として楽しむ気持ちこそが「個体趣味」。かつてプロドライブがこのマシーンを登録した際に発行された英国のレジストレーション・ナンバー「R17 WRC」が当時のままであることも嬉しい。
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