100年現役の可能性
ボーイングCH-47チヌーク大型輸送ヘリコプターの英王立空軍(以下、RAF)でのキャリアは、思いがけず劇的なスタートを切った。
【画像】ボーイングCH-47チヌーク【ライバルと写真で比較】 全17枚
RAFは1980年後半にこの大型双発ヘリコプターの納入を開始し、1981年8月にハンプシャー州オディハム空軍基地で最初の飛行隊を編成した。1982年初頭、クルーも操縦を覚え始めた頃、突然アルゼンチン軍からのフォークランド諸島解放を支援するという最初の大仕事を任されたのである。
5機のチヌークはフォークランドに向かうため、ウェセックスやリンクスといったヘリコプターのほか、ハリアー、シーハリアーなどジェット戦闘機とともに、徴用されたコンテナ船MVアトランティックコンベア号の甲板にぎっしりと詰め込まれ、そのうちの1機は途中のアセンション島に降ろされた。
しかし、アトランティックコンベア号は南大西洋の目的地に到着するやいなや、英国海軍の空母を狙っていたエグゾセ対艦ミサイル2発に襲われる。この攻撃で12人の水兵が死亡し、船は炎上。載せていた航空機はすべて使用不能に陥った。3機のチヌークが破壊されたが、コードネーム「ブラボー・ノーベンバー」の1機はたまたま飛行テスト中で、被害を免れた。
この機は近くの空母HMSエルメスに着艦したものの、スペア部品や整備用具をすべて失ったため、当初の想定よりもはるかに困難な仕事に就くことになる。しかし、紛争が終わるころには飛行時間100時間以上、1500人の兵士と550トン以上の貨物を輸送し、95人の負傷者を避難させ、その真価を見せつけた。
こうした活躍から、現在も第一線で活躍するRAFのブラボー・ノーベンバーには「ザ・サバイバー」という愛称が特別につけられている。
2021年、CH-47チヌークは60歳の誕生日を迎え、同時にRAF導入40周年を迎えた。フォークランドからバルカン半島、中東まで、チヌークは1982年以来RAFのあらゆる戦場で活躍してきた。この記事を書いている間にも、マリでフランスの対テロ活動を支援している。
機体は非常に耐久性が高く、RAFが購入した70機のチヌークのうち、60機以上がまだ現役である。修理やアップグレードが(必ずしもスムーズではないが)行われ、その実用性と寿命の長さから、昨年初めに14機を新たに発注している。チヌークは、現役として100歳の誕生日を迎える最初のヘリコプターとなる可能性があるのだ。
設計・デザイン
チヌークの用途を知る手がかりは、モデルコードである「HC-47」にある。RAFではチヌークをHC.Mk(現在はMk6まである)と呼び、ボーイング社のベース機とは細部の仕様にさまざまな違いがある。軍用に設計された重量物運搬用ヘリコプターだが、民間でも大量の人や機材を難所へ運び出したりすることがある。
チヌークの成功の鍵は、他の大型輸送ヘリコプターと一線を画す、2基の逆回転ローターブレードにある。シンプルなコンセプトでありながら、その構造は複雑だ。
前部と後部に3枚ずつブレードがあり、225rpmの速さでそれぞれ反対方向(前部は反時計回り)に回転し、これがチヌーク特有の音を生み出す。各ローターは決して接触しないように連結され、互いのヨーイング・モーメントを打ち消し合うため、従来のテールブームと垂直ローターは必要ない。また、高い位置に設置したパイロンに取り付けることで、機体の後方全体を貨物用に使用することができる。
後部パイロンの横には2基のターボシャフトエンジンがあり、各4168shp(軸馬力)を発生する。それぞれにトランスミッションがあり、そこからリアパイロンの前にあるコンバイニングトランスミッションにシャフトがつながっている。さらにそこから2本のシャフトでリアローター用のトランスミッションへ、7本のシャフトでフロントローター用のトランスミッションへパワーを伝える。
つまり、計5つのトランスミッションがあり、約1万5000rpmのエンジン回転をローターの穏やかな回転に変えているのだ。
アルミニウム製のチヌークは非加圧であるため、比較的ストレスが少ない。ローターを含む機体の長さは30.14m(胴体だけだと15.25m)。コックピットは前部にあり、両側にドア、下部にハッチ、後部にスロープが開いている。両側面下部の膨らみには燃料タンクがあり、3000kgのノーマル仕様と6000kgの“ファットタンク”仕様がある。
ランディングギアは非格納式で、機体の下には3つの外部フックがあり、単独または合わせて使用することができる。
「運ぶこと」に特化した機内
後部の油圧ランプから機内に一歩足を踏み入れると、そこはかなり暗く、機能的な空間が広がっている。小さな舷窓がいくつかあり、アルミ製の床には荷物を固定するためのフックと、滑り止めのついた通路がある。両サイドには、折り畳み式・取り外し可能なキャンバス地でできた座り心地の悪いシートが並んでいる。
チヌークは、2名のパイロットと1~3名のクルーに加え、55名の兵士を運ぶことができる。しかし、実践では一度に70人以上を輸送したことが知られている。
荷室は長さ9.3m、幅2.29m、高さ1.98mで、軍用車両が入るのに十分な大きさがあり、10トンの積載能力を備えている。最大24台のストレッチャーを収納できるほか、パレットの積み込みを容易にするローラーフロアーシステムを装備することも可能だ。また、負傷者を搬送する際には、衛生上の理由もあるが、体液が機体を腐食させる可能性があるため、ゴム製の医療緊急対応チーム(MERT)用マットを装着する。
結論から言うと、運ぶべきものは何でも運ぶのがチヌークだ。ロードマスターと呼ばれるクルーは、「レンジローバー、ドルや金塊のパレット、ロバなど、あらゆるものを運んだよ」と教えてくれた。
機内に積み込むだけではない。機体下部の3つのフックは、チヌークの運搬能力を超える耐荷重を誇る。前方と後方のフックはそれぞれ7711kg、同時に使うと1万433kgの耐荷重がある。中央のフックは、床面の開口ハッチ(ロードマスターがパイロットに指示を与えながら作業を監督するためのもの)の真下にあり、1万1793kgを吊り上げることができるのだ。この3つのフックで吊られた荷は、緊急時にはすべて投棄することができる。
「敵に渡さないものは吊らない」とロードマスター。
貨物室からドアを通ってコックピットへアクセスできるが、操縦席に座るには低い位置にあるスイッチパネルを越える必要がある。横に並んだ2つのシートから前方の視界は非常に良好だ。しかし、後方はそうでもないので、クルーの存在が重要である。
初期のチヌークはアナログのディスプレイとコントロール装置を搭載していたが、現在ではすべてデジタル式のグラスコックピットに改良され、昨年、RAF最後の1機がボーイング社のDAFCS(デジタル自動飛行制御システム)にアップグレードされた。右側のパイロットの後ろには、もう1つジェット燃料タービンがあるが、これはキャビンのヒーターである。
装甲車や榴弾砲も運べる飛行能力
チヌークのようなタンデムローター式ヘリコプターの利点は、すべての動力を揚力に使えること。つまり、機体がぐるぐる回るのを防ぐための垂直尾翼ローターを駆動する動力を必要としないのだ。
しかし、前方飛行ではフロントローターが後方の空気を乱し、リアローターの効率を低下させるという欠点がある。そのため、後部のパイロンを前部より高くして、部分的にその影響を打ち消している。
ハネウェル社のT55-L-714Aエンジンの8336shpと、直径18.29mのローターが生み出す揚力の間には、どうしてもロスがある。しかし、それでもこの1万2100kgの燃料を満載した機体に、最大積載量1万580kgを加えた、最大離陸重量2万2680kgを持ち上げることができるのである。実際の戦場では、さらに多くの荷物を積んでいたことが知られている。
チヌークは高度1万5000フィート(約4500m)まで上昇できるが、夜間に自宅の上空を通過する音を聞いたことがある人ならわかるように、そこまで上昇しないことが多い。チヌークの「決して超えてはならない」速度(それ以上は機体にとって危険とされる)は180kt(333km/h)だが、クルーいわく「計算が簡単だから」という理由で、RAFは120kt(222km/h)で巡航する傾向がある。
120ktの巡航速度では、1時間に1200kgの燃料を消費し、ノーマル仕様のタンクで2時間半、ファットタンク仕様ならその倍を飛べる。その間にどれだけの距離を飛行できるかは、風向き次第だ。対気速度と対地速度は別物である。しかし、負傷者のもとへ向かう途中、パイロットはチヌークを最大限のパワーで飛ばす。
安定性の高さが戦略を広げる
チヌークは大型で、小型軽量なシングルローターのような操縦性はないが、RAFのチヌーク展示飛行チームを見れば、驚くほど機敏に動けることがおわかりいただけると思う。
操縦方法は他のヘリコプターと似ているが、異なる点も多い。各パイロットの足元には2つのフットペダルがあり、時計回りか反時計回りのヨーをコントロールする。コレクティブ(スロットルのようなもの)でローターのピッチを調節し、揚力を発生させる。そして、サイクリック・スティックで機体を傾けて移動させる。ローターのピッチと角度を変えることで、チヌークは優れた操縦性と安定性を発揮する。
この安定性は、チヌークのトレードマークの1つである「ピナクル」の鍵となるものである。ピナクルとは、後輪を山の尾根や崖の縁に寄せてホバリングしながら部隊を乗降させるための技で、特に高所への部隊展開に威力を発揮する。後輪のブレーキはロックされ、パイロットは機体を安定させるために微調整を行う。尾根から数m離れているときよりも、近いときの方が空気の流れが安定するため、操作はより簡単なようだ。ホバリングしている間、兵士は地面に降り立つことができるが、パイロットの下には何もない。
ドッグファイトと聞いてチヌークを思い浮かべる人は少ないだろうが、作戦地域では敵性航空機の標的となる可能性がある。あくまで輸送機であり、戦闘能力はほとんど持たないものの、自衛のためのチャフやフレアーが側面に装備されている。
しかし、より可能性が高いのは、地上からの攻撃である。チヌークは軽度の装甲が施され、物理的および電子的な対抗手段を備えている。戦場では通常、両サイドのドアにM134ミニガンを、後部には機関銃を搭載する。
導入とメンテナンス
チヌークの価格は3000万ポンド(約46億円)とされているが、防衛調達、独自の装備、継続的なメンテナンスと部品供給契約があるため、そう単純な話ではない。英国防省は14機を新たに購入する14億ポンド(約2170億円)の計画を承認したばかりだ。(かつてコモンズの公会計委員会が「史上最も無能な調達」と呼んだ、5億ポンド近い発注から13年後に8機を使用不能のまま格納庫に放置した件よりは、スムーズに進むことを期待したい)。
中央調達から離れ、専門家の手に委ねれば、物事はもっとスムーズに運ぶ。RAFは、飛行時間や整備に費やした時間などに関して、世界のどのオペレーターよりもチヌークを効率的に使用しているという。また、RAFのパイロットは飛行隊に配属されるものの、米軍のように自分の機体を持つことはなく、隊に所属するあらゆるヘリコプターに搭乗する。
チヌーク部隊のほとんどは統合ヘリコプター司令部の管理下にあり、オックスフォードシャー州ベンソン空軍基地のほかオディハム空軍基地に駐留している。対テロ作戦や災害救助のために、常に最低1機のチヌークが1時間以内に飛び立てるよう待機している。
2019年8月、洪水により決壊の危機に瀕したホエーリーブリッジのダムに400トンのバラストを投下し、ダムの保護を支援した。2020年10月には、英海峡でハイジャックされたタンカーに特殊部隊を降下させた。
しかし、あるエンジニアが言うように、多くのチヌークは「古い機体」であり、手入れを必要としている。チヌーク飛行隊1個を維持するのに必要な人員は180人。チヌークが生き残っている理由は機体そのものにあるが、同時にそれを支える人々にもあるのだ。
抜群の耐久性と信頼性
RAFは初期型がすでに老朽化していることを認識しているが、いまだに後継機の導入を急ぐことはない。その上、何をもって後継機とするのか?1960年代、ボーイング社は今日でも通用する方程式を導き出したのだ。
チヌークと同じような機体を一から設計するとしたら、こんなものになるだろう。視界がよく、装輪車両が入るほど広い荷室、十分な燃料容量、危険のないよう高く引き上げられたローターブレード。後部にスロープをつけ、巨大な軍用輸送機に収まるサイズにすれば、ほら、できあがり。これが定石だ。
チヌークの今後の計画は、整備チームが定期的にメンテナンスを行い、さまざまなアップグレードを施し、稼働を維持しながら効率性を上げていくこと。そして、その巨大な有効性を最大限に活用することである。100年にわたって羽ばたき続けるツインローターの雄姿に期待したい。
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