どんなクルマ?
text:Hiromune Sano(佐野弘宗)
photo:Keisuke Maeda(前田恵介)
photo:Kazuhide Ueno(上野和秀)
EUが急進的な燃費・排ガス規制に突き進んでいることもあって、欧州メーカーはいち早く“電動化、待ったなし”の状況に追い込まれている。そんななかで、独ダイムラーが初めて手掛ける量産電気自動車(EV)がこれである。
ダイムラーといえば、約7年前に先代スマート・フォーツーのEVを国内でも販売したことがあるが、メルセデス・ブランドの市販EVが今回が初であり、さらに堂々と“量産”をうたうのが最大のキモだ。
日本での正式発表は今年7月で、まずは年内に限定55台の“EQCエディション1886”のみが先行上陸。今回の試乗車でもあるカタログモデルの“EQC400 4マティック”のデリバリーが始まるのは来年春の予定という。
EQCは人気のミドルサイズSUV、GLCクラスとプラットフォームと生産ラインを共用することで、本格的な量産体制を整えたことが大きな特徴である。
1080万円という絶対価格も最初はギョッとするが、兄弟関係にある内燃機関車となるGLCクラスの価格や“400”を標榜する動力性能を考えると、相対的には“そんなものか”と思えなくもない。たとえば、GLCクラスでいうと、AMGのGLC43 4マティックが948万円である。
EV版 これだけ違う
駆動方式は車名のとおり4WDとなるが、GLCクラスのそれ(=フロントにエンジンを縦置きする後輪駆動ベース4WD)とは当然のごとく別物。
EQCは前後それぞれにモーターを搭載。低負荷時にはフロントのみで駆動しながら状況に応じてリアを追加する制御といい、内燃機関でいうと“FFベース4WD”ともいえる駆動方式になっているのが面白い。
従来のエンジンルームに相当する空間にはフロント用モーターと同インバーターが、アルミパイプで組まれた堅牢そうなサブフレームに囲まれて搭載されている。
そのフレームの防御性能は素人目には少しばかり過剰にも思えるのも事実だが、そこには“自社初の本格量産EVに絶対にミソをつけるな”という技術者の執念もうかがえて、なんともエンスーなディテールである。
充電口は2か所あり、もともとの給油口の位置にあるのが日本のCHAdeMO対応の急速充電用、そしてリアバンパーに内蔵されるのが普通充電用である。
どんな感じ?
その車名からも分かるように、ダイムラーの量産EVはアタマに“EQ”というブランド名を冠する。それに続く“C”はご想像のとおり既存のCクラス相当という車格を示す記号だ。
その次の“400”はこれまでの例でいえば、従来型ガソリンエンジンの4.0L相当の動力性能……という意味になる。
ただし、このクルマの場合、2モーターを合計したシステム出力が408ps、80kWhバッテリーによる航続距離が約400km……と、動力関連の主要スペックがことごとく400にまつわる数値にもなっている。
今回の試乗は東京・六本木にあるダイムラー日本法人のアンテナショップ“メルセデスミー東京”を拠点に撮影込みで2時間……という時間もルートも限定されたものだった。ゆえにチョイ乗りによる第一印象にすぎないことはご容赦いただきたい。
というわけで、EQCのボディサイズ(欧州参考値の全長×全幅×全高:4761×1884×1623mm)はGLCクラス比でわずかに全幅が狭く低いが実質的には同じと考えていい。室内に座っても一応インパネは専用デザインだが、見晴らしや車両感覚もGLCそのものである。
違和感ないEV
動力性能はまさにEVで、すこぶる静かながらも、踏み込めば地の底から湧き出るようなキック力を見舞ってくれる。
静粛性は優秀で、パワートレインそのものが静かな電動車ではどうしても目立ってしまうホイールハウス付近のノイズ対策も入念である。
そのパッケージレイアウトも含めてEQCは“内燃機関に慣れ親しんだドライバーに違和感のないEV”が開発テーマらしく、通常のDレンジの状態で内燃機関と同等の加減速フィールを表現したという。
ただ、実際にはその言葉からイメージするよりは小気味よく、体感的には“GLC500のSレンジ?”といったところだろうか。
現実には、より穏やかなエコモードを起動させると、内燃機関に慣れた体にはちょうどいいかもしれない。
車重2.5tの走りは?
パドル操作によって回生ブレーキの強度を調節することもできて、+パドルで回生ブレーキゼロのコースティング走行も可能になる。
逆に―パドルで回生ブレーキ最強にしても、日産やBMWのような完全停止までの“ワンペダルドライブ”に踏み込まないのはダイムラーの思想である。
きれいな舗装路では2.5tのヘビーウェイトが奏功してそれなりに重厚・快適な乗り心地を示して、ステアリングやパワートレインの巧妙な制御もあって操縦性も軽快である。
しかし、路面が荒れるとドシバタしたり、きつめのコーナーになると途端にふくらみたがるなど、リアルな環境では物理的な重さを痛感させられるケースは少なくない。
それはEQCのデキうんぬん……というより、このサイズにしてこの重量のSUV型EVにはまだまだ開発の余地があるということだろう。
「買い」か?
そのハードウェアにはまだまだ開発・改良の余地があるのは否定できない。
しかし、1000万円超の高級EVは今のところ、クルマを複数所有する上級エンスージァストが実験的・趣味的に購入する面白商品……といった存在というほかない。
そうした向きには“メルセデス初のEV”というイバリの効く記号性を1000万円強で手に入れられるのは魅力だろうし、自宅駐車場に充電設備さえあれば、日常使いにはなんら問題ない程度の実用性と航続距離は確保されている。
この種の実験的商品で不安なのはサービスとリセールだが、日本法人では、バッテリー残容量保証も含めた無償の専用メンテナンス・プログラム“EQケア”を全車標準装備するほか、残価差額が精算不要のクローズエンドリースを推奨している。
EQC 試乗車スペック
EQC 400 4マティック(欧州参考値)
価格:1080万円
全長×全幅×全高:4761×1884×1623mm
ホイールベース:2873mm
車両重量:2495kg
パワートレイン:非同期モーター2基
バッテリー種類:リチウムイオン
バッテリー容量:80kWh
最高出力:408ps
最大トルク:78.0kg-m
航続可能距離(WLTC):400km
充電時間(普通充電):約13時間
充電時間(急速充電):約180分
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