クール&サイレントでも力感を表現
EVという新しい市場を開拓した日産リーフが、新型にフルモデルチェンジ。そのエクステリアはダイナミックでありながら、大人の落ち着きを感じさせるスタイリッシュなデザインへと生まれ変わった。その狙いについて、プログラム・デザイン・ダイレクターを務めた森田充儀さんは次のように語る。
「世界初の量産EVである初代リーフは世に初めて問うEVとして、まずはその存在をしっかりと主張し、街なかで『ここにリーフあり』ということを表現するためにあえてユニークなデザインを狙ったという面がありました。アイキャッチーな縦型ヘッドランプをはじめ、スロープダウンしたリヤデザイン、ウェーブしたウエストラインなど、ほかのクルマではあまりやっていない表現も多く取り入れていました」
「ですが、リーフ登場から時間が経った現在、EVはまだまだ特別なクルマではあるものの、他社さんからもEVの登場がぞくぞくと予告されてくるなど、世のなかのEVへの認識や理解が確実に深まった状況になっています。そこで新型のデザインでは、もう少しクルマ本来のスタイリングとしての本質的なカッコよさやバランスのよさ、心地よさといったところに軸足を置いてトライアルしています」
新型リーフのエクステリアのデザインコンセプトは、“スリークなシルエットとクール&ハイテック表現”というもの。それを実現するための3つのキーワードとして、“サイエンティフィックな感情表現” “クリーン” “精緻な作り込み”が掲げられた。
「キーワードが意味するのは、理性的で技術的な裏付けのある理論的な形作りに合わせて、EVならではのダイナミックなスタイリングを実現するということです。これまでのガソリン車のデザインセオリーには、たとえば、ダイナミックな走りを予感させるための立体のボリュームの付け所や姿勢、あるいはタイヤがパワフルに地面を蹴って走るための力感表現として、マッシブなフェンダーのデザインなどといった手法があります」
「ですが新型リーフでは、そうしたダイナミック表現やパワフル表現について、パワーユニットとタイヤが電気的な繋がりによって駆動しているという『軽さ』や『効率のよさ』などを、形としてしっかり表現したいと考えました。従来のような熱をともなう走りや力感の表現ではなく、クールでサイレントな『走り感』みたいなものをエクステリアでどう表現するか、そのあたりについて何度も何度もチームのディスカッションを重ねて模索していったんです」
EVならではの走りを表現するデザインは、いわばガソリンエンジン車の呪縛から解き放たれたデザインでもあると語る森田さん。そんなデザインの実現は、デザインチーム全員が一丸となって成し遂げたものだ。デザインチームの皆さんにも開発を振り返っていただいた。
●デザイン・プログラム・マネージャー/杉谷昌保さん
「EVが『スタンダードなクルマ』となりつつある今、新型リーフでは普遍的な表現をしたいと考えました。そのために重要だったのは、デザインに込められたデザイナーの意図を、いかに深く設計サイドに理解してもらうかということでした」
「先進技術を開発したエンジニアとしては、新しい技術をカタチとしてもアピールしてほしいと考えるのは当然の気持ちだと思いますが、それがお客さまにとっての使いやすさや親しみやすさを損ねることになってはいけません。どんなに新しい技術でもすごく使いやすいという『やさしさ』は、初代からのリーフのデザインの味です。そこはしっかりと守るべきと考え、開発を進めました」
●エクステリアデザイン担当/渡辺和彦さん
「EVだからこそ可能な表現がある一方、EVならではの難しさもありました。たとえば充電ポートまわりがそのひとつです。非常にタイトに作られている部分であることから、デザインを実際の立体に落とし込むのは本当に苦労しました。強電用ケーブルは太くて硬いためにすごく曲がりにくく、当初はなかなかそれをデザインして収められませんでした」
「生産サイドからも、こんな形状を工場で組み付けるのは不可能だという声が挙がりました。そこでデザイナー自身が工場の試作現場に立ち会って、ケーブルがどこまで曲がるかの限界を確認したりしながらミリ単位でデザインを詰めていったんです」
●チーフモデラー・峯岸昭男さん
「面質の表現や細部の作り込みには徹底的にこだわりました。グリルやランプなどは自分自身のモデラー経験のなかでも、非常にハードルの高いデザインだったと思います。コンマミリ単位でのブラッシュアップを重ねました。ランプでは形状だけでなく光り方にもこだわり、ランプサプライヤーさんのもとへ出向いて、光り方の解析をしながらその場でデジタルデータを作るといったことまでやっています」
●エクステリア・クレイモデラー/秋山結太さん
「新型リーフのエクステリアでは航続距離に大きく関わるCd値も非常に重要な要素です。風洞実験の現場に赴いて、その場で立体を修正しながらCd値の向上を図っています」
●感性品質デザイン担当/羽深太郎さん
「最新の自動運転技術を活用した『プロパイロット パーキング』などを備えていますが、そのために追加されたカメラやセンサー、レーダーなどは、普通に付けただけではクルマのあちらこちらに出っ張りができてしまいます。ですが、シンプルでクリーンなデザインのあちらこちらに凹凸が目立ってしまっては、せっかくのスタイリングが台なしです。設計生産と連携しながら、すっきりと目立たなく搭載することに強くこだわりました。最後の最後まで微妙なチューニングを重ねて最終的な形を実現したんです」
●エクステリアカラーデザイン担当/フランソワ・ファリオンさん
「エクステリアカラーでとても気を配ったのは、EVらしいキャラクターをしっかりと立たせつつ、クルマ本来のカーライクなカッコよさをどうバランスさせるかといった部分です。また、日本市場でのコンペティターを考えることにもこだわりました。全14色のカラーバリエーションがありますが、それはEVとしてのコンペティターだけを考えるではなく、コンパクトハッチバックのコンペティターも視野に入れた競争力を付けようと考えた結果なんです」
室内のコンセプトは「リラックスとクール/ハイテックの共存」
インテリアデザインにも目を向けてみよう。デザインコンセプトは「リラックスとクール/ハイテックの共存」だ。目指したのは、先進的なハイテク感の表現に加え、長く乗っていても疲れないリラックス感を重視したデザイン。近年の日産車のデザインテーマの1つである「グライディング・ウィング」で空間性と機能性を両立させながら、過剰な装飾を排して静的な質感の高さを表現。さらには薄さや軽さを表現した立体構成と色や素材の使い方によって、広がりを感じられる空間の実現を狙っている。
●インテリアデザイン担当/松尾才也さん
「EVはもともと車内が静かなんですが、新型は初代以上に静粛性に優れています。車内でいかに気持ちよく過ごしてもらえるかということに重点を置いてデザインしました。たとえば、プロパイロットによって単一レーンで自動走行する場合、従来の運転に比べてわりと景色がきちんと見えたりするんですが、背の低い女性ユーザーでも気持ちよく景色を見ながら運転できるようにメーターバイザーのボリュームを抑え、インパネ上部からAピラーまでブラックアウト化してガラスの端から端まですっきりさせています」
「スイッチ類のデザインも使いやすさを大事にして、機能的にグルーピングしたり、配置にミリ単位でこだわったりしています。こうしたことの積み重ねによって心地いい空間を目指しました」
●インテリア・デジタルモデラー/山野圭一郎さん
「デザインを損なうことなく設計要件を収めることに苦労しましたね。大まかなデジタルモデルを作ってデザイナーに見せ、そこでのやりとりの結果を設計に渡すということを繰り返し行って、生産につなげていきました。作っては壊すというトライ&エラーの回数は、私がほかのプロジェクトで経験したものよりもはるかに多かった気がします」
●インテリアカラーデザイン担当/イ・ミョンウンさん
「カラーデザインもリラックス&クールテックのムードを作ることにこだわっています。初代では明るくクリーンで、それでいて少しソフトなイメージでしたが、今回は黒をコントラストさせることで、よりシャープでモダンな上質感を狙いました。マテリアルやディテールそのものだけで考えるのではなく、お客さまがリラックスして楽しんでいるさまざまなシーンを想像しながらデザインすることを大切にしました」
「使っていただくお客さまに寄り添うという考え方は、デザインのあちこちに貫かれています。たとえば給電ポートの角度を決める際にも、デザイナーが設計サイドや生産サイドのスタッフと街なかに出ていって、実際にリーフに充電しているユーザーを見つけて使いにくさがないかといったことをインタビューしているんです。先代のリーフではコネクターを繋げるときに姿勢を屈まなければいけませんでしたが、新型では充電する人が普通に立っている状態でコネクターを挿せる角度に合わせているんです」(デザイン・プログラム・マネージャー/杉谷昌保さん)
どんなに新しい技術が搭載されても、変わらず大切なのは、使う人が心地よく感じられること。新型リーフのデザインからは、そんなデザイナーたちの想いが伝わってくる。
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