■既存のガソリン・ディーゼル以外にディーゼルハイブリッド・燃料電池(FCEV)・電気自動車(BEV)も提案! 「誰一人取り残さない」ハイラックス群とは
1968年に登場したピックアップトラック「ハイラックス」。
現行モデルは2015年に登場した8代目です。
日本では特別仕様車「Z“Revo ROCCOEditionが登場したばかりですが、タイで3台の“特別”なハイラックスに試乗してきました。
そのキーワードは「マルチパスウェイ」です。
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ハイラックスは一つのプラットフォームを用いて多様なニーズに合わせて生産を行なうIMVシリーズの中核を成すモデルで、新興国のみならず日本/欧州などでも販売される世界戦略車。
現在のパワートレインはガソリン/ディーゼルが主ですが、将来に向けて電動化は避けて通れない道。そこでフレームボディの汎用性を活かし、様々なパワートレインの提案と言うわけです。
マルチなプラットフォームにマルチなパワートレインを搭載。実は現在のトヨタの中で最も最先端と言っていいでしょう。
まずは電気自動車(BEV)の「ハイラックスRev e」です。
昨年タイトヨタ創立60周年記念式典で発表された電気自動車(BEV)の量産に近いモデルです。
シングルキャブをベースに、エクステリアは白/イエローのボディカラーに加えて、小さめの開口部を持ったグリルレス風のRevo e専用デザインのフロントマスクを採用。
インテリアはフル液晶メーターやシフトダイヤル(bZ4Xと同デザイン)と電子式パーキングブレーキに変更、少しだけ先進性がプラスされています。
パワートレインは駆動用モーター(150kW/260Nm)をリアアクスル付近に搭載(フロントは補器類のみ)。それに伴いリアサスは車軸式からド・ディオン式に変更。
バッテリーはフレームの間に「カセット式」と呼ばれるブラケットを介して搭載。バッテリー容量は未公表ですが航続距離は300kmだとか。
続いて、燃料電池車(FCEV)の「ハイラックスFCEVコンセプト」。元々英国トヨタが開発を進めていたそうですが、途中からトヨタも関わって鋭意開発中のモデルです。
ダブルキャブをベースにしたエクステリアは白/ブルーのボディカラーに加えて、ハイラックスのヘキサゴングリルの下部のみ開口部を設けたFCEV専用デザインのフロントマスクを採用。インテリアは電子シフト(MIRAI同デザイン)と電子式パーキングブレーキに変更されています。
パワートレインは駆動用モーターをリアアクスル付近に搭載、それに伴いリアサスは車軸式からド・ディオン式に変更まではBEVと同じですが、バッテリー搭載位置に水素タンク、フロントにはFCスタックが搭載されています。
タンク容量は未公表ですが、航続距離は600km。BEVに対して航続距離の長さはもちろん、1500kgのトーイングが可能な点も強みとなっています。
この2台に乗ると同じモーターを動力源にしながらも似ているようで似ていないから面白い。
アクセルを踏むとモーター駆動の強みである「アクセル操作に対する応答性の良さ」、「加速力の強さ」は共通ですが、アクセルを踏んだ瞬間からパワーが湧き出るけど頭打ちになるBEVに対して、発進時は若干穏やかだけど伸びのあるパワー感を持つFCEVと、特性が若干異なります。
どちらも基本的にはビジネスユースで使うことを想定していますが、BEVはショートレンジ、FCEVはロングレンジと考えると、この特性は偶然なのか必然なのか分かりませんが、用途とマッチしているような気がしました。
フットワークの印象はどうでしょうか。
シングルキャブ/ダブルキャブの違いはありますが、基本的には共通です。恐らく低重心化や前後バランスの適正化、更にはド・ディオンアクスル式のリアサス採用に加えて電動パワーステアリング(EPS)への変更などが、走りに良い影響を与えています。
ハンドリングは良く言えばワイルド、悪く言えば荒々しさがあるハイラックスとは別格の仕上がりです。
もう少し具体的に言うと、ステア系は直進時の座りの良さや操舵した際の応答性/正確性、スッキリとした操舵感は乗用車と比べてもそん色ないレベル。
取り回しの良さはもちろん、一体感/コントロール性が大きく引き上げられており、乗りやすさは格段にアップしています。更に前後バランスの適正化も相まって、旋回時もステアリングで強引に曲げるのではなく、4輪を上手に使って旋回してくれるので、とにかく自然で扱いやすいハンドリングに仕上がっています。
具体的な違いとして、BEVは床下のバッテリー搭載による低重心化が効いているのか、ドッシリした安定感とシットリとした足の動きを実感。
一方、FCEVはBEVよりも身軽でキビキビと動く感覚とスッキリとした足の動きを実感。乗り心地はどちらも空荷にも関わらずハネやバタつきはかなり抑えられ、ピックアップトラックと言うよりSUVに近いレベルです。
個人的にはド・ディオンサスは通常のモデル(ガソリン/ディーゼル)にも設定があってもいいかなと感じました。
静粛性や振動の少なさはどちらもピックアップトラックを忘れるレベルですが、基本的には無音に近いBEVに対して、FCEVはアクセル操作によってMIRAIに似た音(吸気音!?)が聞こえてきます。
ただ、どちらも「エンジン搭載をしていないから静か」でなく、振動の多いディーゼル車で色々な対策を行なってきたハイラックスの基本素性が、電動化によって証明された部分もあるのかなと。
■さらには身近なエコモデルとも言えるディーゼルハイブリッドはどんな感じ?
そして3台目は現実解の電動化モデル「ハイラックス・ディーゼルHEVコンセプト」です。
このモデルは12月4日にトヨタヨーロッパが2024年半ばに欧州市場向けに発売すると発表しています。こちらはBEV/FCEVとは異なりプライベートユースが主となります。
エクステリアは白/グリーンのボディカラー以外は発売中のモデルと大きな違いはありませんが、インテリアはフル液晶メーターとランクル250と同じ意匠のステアリングを装着。質実剛健なハイラックスのインパネとも上手くマッチしています。
パワートレインは2.8リッター直列4気筒ディーゼルターボ(1GD-FTV)にモータージェネレーターとDC-DCコンバーター、48Vリチウムイオンバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムをプラス。
加えてトランスミッションは現行モデルの6速ATから8速ATに変更されています。航続距離は1200kmと発表。トーイング能力はFCEVの倍以上となる3500kgです。
現行ハイラックスに搭載されるディーゼルはターボラグが大きいドッカンな特性なのと、ギア比がワイド過ぎてシフトアップ後のトルクの落ち込みが気になっていましたが、ディーゼルHEVはその辺りがほぼ解消。
モータージェネレーターは12kW/65Nmと出力はそれほど高くないので電動車感ありませんが、NA領域から過給までの不感帯を上手にアシストしてくれているようで、現行モデルのピーキーさは影を潜め、より自然、より滑らかな印象です。
加えて、エンジンの美味しい領域をキープしてくれる上に素早いシフト制御の8速ATにより、良くも悪くもワイルドだった特性が、ジェントルかつ質の高い特性に生まれ変わっています。
フットワークは大きな変更はありませんが、BEV/FCEVと同じく採用されたEPSがハンドリングの一体感/コントロール性に大きく貢献しています。
これなら乗用車から乗り換えても違和感なく乗れると思います。これは通常モデル(ガソリン/ディーゼル)にも水平展開すべきでしょう。
総じて言うと、どのパワートレインも完成度が高く、まさしく用途や地域、インフラの得意不得意などに合わせて使い分ければいいでしょう。
豊田会長が常日頃から語る「選択肢を狭めない」、「誰一人取り残さない」を実践したハイラックス群と言えるでしょう。
ただ、欲を言えば、この3台に加えて「ガソリン車+α」のパワートレインがあるといいなと。個人的に現在トヨタのラインアップにあるHEVとPHEV間をカバーする、「10-15km程度EV走行が可能な自家発電できるHEV」などはどうでしょうか。
PHEVよりアフォーダブルでプラティカルなBEV、ワークホースにもプライベートカーでも活用されるハイラックスにはいい選択肢かなと。
以前、CTOの中嶋裕樹副氏にトヨタの電動化戦略について聞くと、このように教えてくれました。
「現在議論しているのは『BEVを作ったらFCEVになるようにしましょう』と言う事です。
同じモーター/周辺部品で構成するが、水素で供給してほしい地域、ダイレクトに充電したほうがいい地域に合わせて2台開発することができます。
トヨタは新車領域で色々なパワートレインバリエーションを持っていますが、ベースが繋がっていませんでした。
しかし、今後は根っこが繋がっていれば、同じラインで何でも作れるようになります。
今は過渡期なので、何がどう変わるか我々も解りません。だから、マルチは大事なんです」
※ ※ ※
そんなマルチパスウェイの最先端を行く電動車のハイラックスシリーズ。
個人的には「eハイラックス」と呼びたいなと。ちなみに現行モデルの登場から8年が経過しており、次期モデルの動向も気になる所。
先日タイで発表されたハイラックス・チャンプが「原点回帰」を行なった事を考えると、9代目ハイラックスは少し上級移行するのではないかと予想しています。
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