クルマのカテゴリーにワゴン(ステーションワゴン)がある。
その人気は、蝉の一生に例えられるだろう。誕生から長い期間を経て、ようやく人気カテゴリーになれたが、ブームは短期間で終了した。
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近年、ワゴン人気が低迷するなか、特に3ナンバーのステーションワゴンは壊滅的な状態になっている。そうしたなか孤軍奮闘ぶりが光るのがスバル レヴォーグだ。
マツダ6やアウトバックが月販売台数200~300台と低迷するなか、レヴォーグのみがミドルクラス以上で唯一コンスタントに1000台以上の販売台数をキープ。
多くのワゴンが消滅し、また苦戦するなか、なぜレヴォーグは人々の心を捉えているのか? ワゴンの隆盛とレヴォーグの人気の秘密に迫る。
文:渡辺陽一郎
写真:編集部、SUBARU
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レガシィが火付け役! プリウス並みだったワゴン絶頂期の人気
レガシィツーリングワゴン(4代目=左)と、その系譜を持つレヴォーグ(右)。かつてワゴンブームを牽引したレガシィの大型化で日本の需要に応えたレヴォーグが生まれた
ワゴンの流れを振り返ると、最初の国産ワゴンは、1950年に発売された日産ダットサンDW-2型であった。以後、2代目マツダ ルーチェ(1972年登場)やクラウンやセドリック&グロリアもワゴンを用意した。
しかしワゴンは、人気のカテゴリーになれなかった。大半のワゴンには、同じボディを使った商用車(通称ライトバン)があり、「貨物車の派生型」と見られたからだ。
ワゴンが下積みの時代を終えて日の目を見たのは、1990年代に入ってからだ。
1989年に発売された初代レガシィツーリングワゴンがヒットして、1992年に登場した初代カルディナも好調に売れた。
驚いたのは初代カルディナの売れ方だ。1992年に発売されながら3年後の1995年に登録台数が急増。
1995年3月には1万3708台を登録して(2019年3月のプリウスに迫る台数だ)、対前年比は164.5%に達した。発売から3年を経たカルディナが、前年の1.6倍も売れたのだから、ワゴンブームにほかならない。
1990年代にワゴンがブームになった理由は、まずセダンやクーペの新鮮味が薄れて飽きられ始めたからだ。同時に1990年代には、欧州製の輸入ワゴンが注目され、ワゴンカテゴリーのイメージも変わった。
ライトバンの車種数は減り、商用車はハイエースやタウン/ライトエースバンのようなワンボックスタイプに移っていく。ワゴンはダットサンDW-2型の登場から40年以上を経て、ようやく注目された。
ワゴン人気が急降下した理由は?
2002年発売の3代目カルディナ。同車は2007年を最後に生産終了を迎えた
ところが1996年以降は、早くも売れ行きが下降する。
初代イプサム(1996年登場)、初代ステップワゴン(1996年登場)、初代エルグランド(1997年登場)といったミニバンが続々と登場して、抜本的に広い居住空間と荷室により、ワゴンの顧客を奪ったからだ。
また初代RAV4(1994年)、初代CR-V(1995年)といったシティ派SUVも人気を高め、これもワゴンの強敵になった。
その結果、前述のカルディナ、日産のステージアやアベニール、ホンダ アコードワゴン、三菱 レグナムなど、豊富に用意されていたワゴンは次々に生産を終えた。
同時に北米市場ではSUVの人気が高まり、1950~1970年代にはアメリカ車の象徴だったワゴンが衰退していく。北米は日本車の主要市場だから、北米でワゴンの人気が下がれば、国内のラインナップも削られるわけだ。
そうなると残るは欧州のみになってしまう。欧州はほかの地域に比べて走行速度が高く、以前は高重心の車種が敬遠された。
SUVが急増したのも、走りの技術が高まった2000年以降だ。その点でワゴンはセダンと同様に背が低く、安定性が優れているため、荷物を運ぶビジネスにも使われた。
苦戦続くワゴンの現状 3ナンバーは特に厳しく…
アテンザ改め現在はマツダ6ワゴン。2019年7月の販売台数はセダンの231台に対し、ワゴンは198台と苦戦が続く
今では少数になった国産ワゴンを見ても、ミドルサイズの価値観は欧州車的だ。レヴォーグとアテンザワゴンは、低重心による優れた走行安定性に特徴がある。
コンパクトなカローラフィールダー(近々フルモデルチェンジしてツーリングに変わる)は、運転のしやすさが一番のメリットだ。
背の高いコンパクトカーが嫌いなユーザーにとって、扱いやすい5ナンバーサイズのボディとスマートな外観を両立させたカローラフィールダーは、貴重な選択肢になっている。
シャトルはフィットのロング版で、荷室を約300mm伸ばしたことによる大きな積載容量が魅力だ。外観はカローラフィールダーと違ってズングリしてワゴンらしくないが、ミニバン的な実用性を持たせた。
このうち、ミドルサイズワゴンの売れ行きを見ると、レヴォーグが圧倒的に多い。2019年1~7月の1か月平均で1100台前後を登録している。
ほかの車種の場合、マツダ6(旧アテンザ)はワゴンだけなら240台前後だ。レガシィはツーリングワゴンを廃止して実質的にレヴォーグに変わったから、SUV風のレガシィアウトバックは330台にとどまる。
つまりレヴォーグは、マツダ6やアウトバックの3~4倍は売れているわけだ。
なぜレヴォーグだけが堅調に売れるのか
スバルらしい走りを持つレヴォーグ。全長4690×全幅1780×全高1500mmという「大きすぎないサイズ」も支持される理由のひとつだ
なぜミドルサイズワゴン市場では、レヴォーグの1人勝ちなのか。
理由の筆頭は、レヴォーグが日本でワゴンを欲しがるユーザーに向けて開発されたからだ。
全長は4690mm、全幅が1780mmのボディは、優れた走行安定性を確保しやすいサイズで、取りまわし性も損なっていない。デザイン的なバランスも良く、視界も優れているから、街中でも運転がしやすい。車内は後席を含めて広く、荷物の積載性も良好だ。
そして、ボディとサスペンションは入念にセッティングされ、水平対向エンジンの搭載と相まって重心が低い。全車に4WDが採用され、走行安定性も優れている。
エンジンは1.6Lターボと2Lターボだから動力性能が高く、ワゴンらしい走りの良さを満喫できる。STIスポーツも設定され、走行性能をさらに高めることも可能だ。
ワゴンの実用性と走りの良さを高次元でバランスさせたレヴォーグの特徴は、レオーネや初代レガシィツーリングワゴンから受け継がれたスバル車の中核的な魅力でもある。
従ってスバルが好きなユーザーであれば、実用性と走りの楽しさを兼ね備えるワゴンにも愛着があり、自然にレヴォーグを選ぶ。スバルのブランドイメージを最も色濃く反映させた車種がレヴォーグだ。
その点でマツダは、魂動デザインとスカイアクティブ技術を確立させたCX-5が中心的な存在だから、マツダ6は脇役的な立場になる。
レガシィアウトバックは、主流をレヴォーグに譲ったから、ボディの大型化も含めて今では選びにくい。そしてSUVが欲しいユーザーは、レガシィアウトバックではなく、適度なサイズでSUVらしさが濃厚なフォレスターを選ぶだろう。
改めてワゴンの魅力を考えると、セダンの派生型であることに価値がある。ミニバンに比べると荷室は狭く、走破力はSUVに負けるが、低重心だから走行安定性と乗り心地を向上させやすい。
そのためにハイパワーなエンジンの搭載も可能で、峠道などを走ると運転の楽しさも満喫できる。
レヴォーグはセダンベースのワゴンではないが、ワゴンカテゴリーの特徴に注目して磨きを掛けた。
スバル車の、そしてワゴンの代表がレヴォーグだから、好調に売れるのだ。
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