打倒ハーレーをもくろみ、クルーザーセグメントに猛攻を仕掛けるBMW。今度はワイルドでクールなバガーカスタムスタイル「R18B」が登場した。ドイツ・フランクフルトでの取材試乗レポートをお届けする。
●文:ヤングマシン編集部(青木タカオ) ●外部リンク:BMWモトラッド
―― 【テスター:青木タカオ】ツーリングモデルを長年所有してきたほか、『ウィズハーレー』誌編集長も務めるバイクジャーナリスト。クルーザーに造詣が深いのは言うまでもない。
―― 【BMW R18B FIRST EDITION】■全長2560 全幅970全高1400 軸距1695 シート高720(各mm) 車重398kg(装備) ■空冷4スト水平対向2気筒OHV4バルブ 1801cc 91ps/4750rpm 16.12kg-m/3000rpm 変速機6段 燃料タンク容量24L ■タイヤサイズF=120/70R19 R=180/65B16 ●色:黒 ●価格:341万7400円~ ※写真は欧州仕様
フォークオフセットで軽快性と安定感を両立
BMWの”クルーザー攻め”に、いよいよ拍車がかかってきた。同社2輪史上最大排気量となる1801ccのOHV空油冷ボクサーツインを積む「R18」で、R1200C(’04年まで生産)以来となるクルーザーセグメントに殴り込みをかけたのが’20年(日本導入は秋)。’21年春にはウインドスクリーンやレザー製サドルバッグを装備する「R18クラシック」を追加し、早々に2本立てとしたが、今度はバガーの「R18B」、そしてトップケース付きの大陸横断ツアラー「R18トランスコンチネンタル(TC)」がデビュー。強力なカルテットで盤石の構えとし、打倒ハーレーに血気盛んだ。
最大の市場は北米で、両車はアメリカ全土からハーレー乗りたちが集まることで知られるスタージスラリー(サウスダコタ/8月)で発表、お披露目。道場破りを決め込んできた。
今回試乗したのはR18Bファーストエディション。その出来栄えはBMWらしさを存分に伴いつつ、コアなクルーザーファンを唸らせるものとなっているから文句のつけようがない。フランクフルト近郊を約260km走ったが、際立つのは安定感を伴いつつも軽快でクセのないステアリングフィールだったから意表を突かれた。
ウインドプロテクションを向上した本格派クルーザーということで、アウトバーンでの高速クルージングを延々と味わうつもりでいたが、コーナリング性能によほどの自信があったのか、先導車が我々ジャーナリストをひたすらワインディングへ案内したこともいま思えば合点がいく。
試乗するまでは、大型フェアリングをハンドルマウントし、10.25インチと大きいカラーディスプレイやスピーカー、4連装にしたアナログ計器をコクピットに備えるなどで、ステアリングまわりはさぞかし重くなっていると見込んだが手強さは皆無。一体どういうことなのか…。
この謎を解明するカギは、ハンドリング特性を大きく変える要素のひとつ、フォークオフセット量にある。通常のフォークブリッジでは、フロントフォークがステアリングヘッド(操舵軸)の前に配置されるが、R18B(TCも同様)ではフォークがステアリングヘッドの後ろ、つまりライダー寄りにネガティブオフセットされた。
フォークアングルは対地角57.3度から62.7度になり、トレール量は33.5mm増の183.5mmになるなどジオメトリーが変更され、コーナーでの安定性と軽やかさをバランスよく両立するようステアリングフィールを徹底追求してきたのだ。
コーナーのアプローチでは切れ込みを感じず、いたってニュートラル。ボクサーツインならではの地を這うような低重心を活かしつつ、直進安定性の強いクルーザーでは意識しがちな逆操舵も必要としないまま旋回にスムーズに入っていけ、あとはオン・ザ・レールで落ち着いたまま。つづら折れの山岳路も積極的にアクセルを開けられ、楽しくて仕方がない。
シートも専用設計され、体重移動がしやすくガンファイタータイプだから加速にも堪えやすい。フットペグは欧州仕様ではワイドステップだが、日本仕様では快適性を重視したフットボードが標準装備される。休憩時、先導役のライダーとステップ裏のバンクセンサーが擦り減っているのを確かめると、顔を見合わせニンマリ。グータッチを交わすのだった。
―― 【BMW R18B FIRST EDITION】※写真は欧州仕様
卓越した安定感と居住性。ACCで高速巡航がより快適に
もちろん、本格派クルーザーとして生まれたR18Bが真骨頂を発揮するのは高速巡航だ。ゆとりある大排気量ボクサーツインは、150Nm(16.12kg‐m)ものトルクを2000~4000rpmの常用域で引き出し、ハイペースで流れる高速道路の追い越し車線も、シルキーで上質な回転フィールを味わいつつ悠然と流していける。
シャシーは装備重量の増加に合わせ、メインフレーム/バックボーンを強化し、ネック部に鋼板を追加するなどして剛性をアップ。R18/クラシックではクロススポーク仕様だったホイールはキャスト化され、足まわりも武装。φ49mmの正立フォークとカンチレバー式のモノサスペンションはダンピングに腰があり、突き上げなどまったく感じない。
スタイリッシュなバガーであるからウインドスクリーンは短くカットされているが、防風効果はとても高い。風の巻き込みがなく、フェアリングの整流効果は秀逸としか言いようがない。グリップ/シート/フットレスト、どこからも振動はなく、アウトバーンでの走行は物足りないほど。もっと長距離を、もっと速度を上げてみたいと思えるほど余裕たっぷりだ。
クルーザーにこそ欠かせない装備になっていくと確信が持てたのが、標準装備になったアクティブクルーズコントロール(ACC)。ヘッドライトの上に設置されたレーダーセンサーによって前車までの距離を計測し、自動的な加減速で車間距離を保つ。
ACCセット後も車速を1または10km/h刻みで設定でき、操作に慣れればコンスタントなライディングで重宝する。このセグメントにACCをいち早く導入したことは、大きなアドバンテージとなるに違いない。
車体の上質感も際立つ。流麗なフェアリングを起点に、テールエンドにかけて美しいボディラインを描き、その迫力ある巨体は躍動感とエレガントさが同居している。プッシュロッドを持つビッグボクサーはもちろん、ティアドロップ型のタンクやオープンドライブシャフトなどBMWの伝統も感じられ、特に今回乗ったファーストエディションではピンストライプが施されるほか、随所にクローム仕上げのパーツが散りばめられている。
トラディショナルなアナログ式メーターと最新のTFTカラーディスプレイ、新旧のテクノロジーが融合したインストゥルメンタルも見事だ。もちろんキーレス化され、スターターボタンを押せば水平対向2気筒エンジンが、ブルンと震えつつ目覚める。
乾式単板クラッチのつながりは良く、レバー操作も軽い。ギヤチェンジもなんて滑らかなのだろう、操作系すべてに精巧さを感じ、扱いやすい。
ブレーキやスロットルといったバイクを運転するための基本的な機械操作だけにとどまらず、インフォテインメントシステムも直感的に操れた。左グリップの付け根にはマルチコントローラーがあり、ハンドルを握りながら回したり押し込めばオーディオの音量やライダーモードなど各種設定を即座に調整可能。英国の老舗アンプメーカー・マーシャルのスピーカーが上質な音楽を奏で、居住性、走行性、全てにおいて抜群に快適と言っていい。強敵を打ち負かす準備が着実に進んでいる。
―― 【BMW R18B】※写真は欧州仕様
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