マニア垂涎のモデルが多く展示
イタリアでもっとも新しい自動車博物館であるFCAヘリテージHUBや、創立75周年記念の企画展が行われているフェラーリ・マラネロ博物館。そしてジャンパオロ・ダラーラさんの手掛けたクルマを一堂に会させたダラーラ・アカデミー。それぞれ特徴的なイタリアの3つの自動車博物館を紹介してきましたが、今回は少し趣向を変え、ドイツ ミュンヘンにあるBMWの企業博物館、BMW博物館を紹介しようと思います。
100年以上の歴史を持つ名機 直6エンジンの技術と歴史を振り返る
特徴的なデザインの建屋はミュンヘン市内のベンチマークに
BMW博物館は1973年に開館し、新たにBMW Welt(BMWウェルト=BMWワールドの意)が建設されるタイミングで数年間をかけてリニューアル工事が行われ、2008年に再オープンにこぎつけています。BMW関連の建築物といえば、ドイツ語で4気筒を意味する“Vierzylinde”の愛称を持つ本社ビルが有名ですが、それに隣接するBMWミュージアムの建屋もユニークなデザインです。
こちらの愛称は、ドイツ語でサラダボウルを意味する“Salatschüssel”なんだそうですが、日本食で育ってきた身には、下膨れのお味噌汁椀と呼ぶべきデザインに映りました。そのベースエリア=お椀の糸尻の部分が直径20m、上の縁で直径40mというサイズで、ベースエリアのエントランス(これは切高台と言うべきか?)から入った観覧者はらせん状に展示コーナーを見ながら登っていき、最上層部まで登り切ったら中央部に設けられたエスカレーターでベースエリアまで下りてくるのが観覧コースとなっています。
こう書くと展示スペースが“ウナギの寝床”のようで狭っ苦しい印象となるかもしれませんが、実際の展示スペースはスクエアで広々とした印象がありました。これは建屋のデザインを、スマートなご飯茶碗でなくお味噌汁椀のような下膨れのデザインとした好影響であることは間違いありません。
BMW Weltは入場無料で見学ができる
BMW博物館のリニューアルオープンに合わせてオープンしたBMW Weltについても触れておきましょう。こちらにも自動車博物館的なところも見られますが、博物館というよりはむしろショールームです。BMWの最新ラインアップの多くが、それこそ4輪のスーパーセダンやスポーツカーから2輪の高速ツアラーやエンデューロモデルまで、じつに数多くのBMWが展示されていました。
その中には戦後、BMW復活の礎となったBMWイセッタなども展示されています。例えていうなら横浜のみなとみらい地区にある日産グローバル本社の1階にある日産グローバル本社ギャラリー。日産のニューモデルが展示されるだけでなく、ヘリテージコレクションから招いたヒストリックカーも展示されることがありますが、BMW Weltは、その展示車両の数を倍増した、と言えば想像してもらえるでしょうか。
そんなBMW Weltは入場無料で、現在のBMWに加えてその歴史の一部も短時間に振り返ることができます。2018年に訪れた際には若いミュンヘンっ子のカップルで賑わっていて、どうやらここは、待ち合わせスポットとなっているように見受けられました。
そのBMW Weltの2階にある自由通路からBMW博物館に向けてペデストリアンデッキが伸び、大きなお味噌汁椀のようなBMW博物館の建屋と、脇に見える“4気筒”のBMW本社ビルを目指していくと、自然に高揚感が増してくるという訳です。
いずれにしても、市内のオリンピック・エリアに整備されたBMWの3つの建築物、お味噌汁椀のようなBMW博物館と“4気筒”のBMW本社ビル、そしてそれらとペデストリアンデッキで繋がったBMW Weltは、ミュンヘンのベンチマークで、BMWファンやクルマ好きだけでなく旅行客の集まるランドマークとなっています。
各種エンジンから2輪4輪とバラエティに富んだ展示品
BMW博物館の展示内容は、航空機用のエンジンメーカーとして創業し、後に2輪、そして4輪の自動車メーカーとして発展してきたBMWらしく、様々なエンジンにオートバイ&クルマの各種製品が展示されています。初めてBMWを名乗った1930年代のBMW 3/15や、第二次世界大戦前のスーパースポーツカーで各種仕様のBMW328も見逃せませんが、個人的には戦後のBMW復興をけん引し、ドイツの復興とモータリゼーションの普及拡大にもひと役買った“バブルカー”、イタリアのイソ社からライセンス供与を受けて生産したBMWイセッタに注目すべきだと思っています。
とくにイソ版と似たルックスの初期型と、BMWオリジナルのデザインとなった後期型の違いには興味深いものがありました。そして、そんな状況下でもスーパースポーツのBMW507を製作せずにはいられなかった技術者の気概を感じ取ることもできます。
またオートバイやクルマに関しては、市販のロードモデルだけでなくレーシングモデル……クルマに限って観ていってもBMW製エンジンを搭載したブラバムやザウバーのF1マシンからツーリングカーなどの“ハコ車”レース用までさまざまなレーシングマシンが展示されていました。
注目はレーシングモデル
とくにツーリングカーレース用のBMW 2000 TI(1966年のETC用Typ.121)やBMW 3.0 CSL(1975年のIMSA用Typ.E9)、BMW320(1977年のWCM用Typ.E21)、BMW M3(1989年のBTCC用Typ.E30)、そしてBMW M3 GTR(2004年のニュルブルクリンク24時間用Typ.E46)など栄光を築き上げてきたツーリングカーレース用の強力なマシン群が展示され、ツーリングカー王者の矜持をアピールしていました。
個人的にBMW博物館には思い入れもあります。というのも今ではライフワークともなった海外の自動車博物館行脚の第一歩として2009年に訪れていたからです。取材メモを見直してみても、ホッケンハイムで行われ、中嶋大祐選手が参戦していた英国F3選手権とル・マン24時間、そしてセパンで開催されたSUPER GTシリーズ。3週連続の海外レース取材の合間に10箇所の自動車博物館、さらにはシビック・タイプRの試乗、と盛りだくさんの3週間でした。
しかもその前後にはもてぎと富士でスーパーフォーミュラを取材するという、今では考えられないようなハードスケジュール。この時はレースの合間に自動車博物館を巡る、というのが海外取材行の基本コンセプトでしたが、いつの間にか軸足がレース取材から自動車博物館詣でに移行しています。
今では自動車博物館詣での“序に”レースも取材する、というスタンスに変わっていきましたが、今回の記事で紹介したBMW博物館は、4年前に2度目の訪問となった時の展示風景をメインに振り返っています。ちなみにこの時の取材ツアーは約3週間で30カ所の自動車博物館を巡り、FIAマスターズ・ヒストリックF1&スポーツカーを1戦とタイ・ブリーラムのSUPER GTを取材していました。
こちらもハードスケジュールでしたが、何とか無事にスケジュールを消化することができました。ただし馬齢を重ねた今では、ハードスケジュールはもう無理かな、とも。などと言いながらも、次はどの自動車博物館を訪ねて行こうか、とまだ見ぬ土地に思いを馳せる日々が続きます。
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