Ferrari F8 TRIBUTO
フェラーリ F8 トリブート
V8ミッドシップ最終章「フェラーリ F8 トリブート」試乗! フィオラーノで感じた大谷達也の印象
雨のフィオラーノで初試乗
ピスタ・ディ・フィオラーノでの試乗はテストドライバーの手による同乗走行で始まるのがフェラーリの流儀だ。インストラクターによる先導もなければ助手席からのアドバイスも期待できない“完全単独走行”が基本のフェラーリ試乗会においては、この同乗走行がテストカーのパフォーマンスを見極めるためのひとつの鍵となる。
助手席に収まった私は、この日もテストドライバーのファブリツィオ・トスキが操るフェラーリ F8 トリブートの挙動をつぶさに観察するつもりだった。コースコンディションはウェットからハーフウェットに移行する過程。おそらく何千周もフィオラーノを走ったことがあるはずのファブリツィオは、朝一番の走行でタイヤも自身の身体も冷え切っているせいか、それとも私への戒めとして見せるためか、ステアリング上のノブでマネッティーノをウェット・モードに設定してから全長2948.50mのコースを走り始めた。
この後で私が体験したのは、実に意外なできごとだった。これまで私は、マネッティーノのウェット・モードもしくはスポルト・モードではリアが滑り始める前にシステムが介入し始め、オーバーステアになることは決してないと信じていた。とりわけウェット・モードではグリップ限界のかなり手前でエンジン・パワーを抑制するため、リアタイヤがスライドする兆候さえ感じ取ることができなかったのである。
ところがファブリツィオが操るF8トリブートは、ウェット・モードでさえリアがむずがり始める様子を明確に伝えてくる。実際にオーバーステアになることはなかったものの、はっきりとその兆候が感じられたのだ。
走行が2周目に入ると、ファブリツィオはマネッティーノをスポルトに切り替えた。すると案の定、さっきまで限界と思われたペースのその先で、F8 トリブートは軽やかなオーバーステアの姿勢を示したのである。それも、瞬間的にリアのグリップが失われる感じがしない、実に落ち着きのあるスライドである。ファブリツィオはさらにCTオフで派手なドリフト走行も披露してくれたが、私がそこまでのリスクを犯す必要はない。スポルト・モードでオーバーステアを体験する。これを目標に、私はF8 トリブートのサーキット走行に臨むことにした。
雨の中でも自身を持って操れる
一旦ピットに戻ってファブリツィオと交代し、今度は私がドライバーズシートに収まった。初めて乗るクルマなのにすべてがしっくりとくる。そういえば488スパイダーを初めて走らせたのも雨の富士スピードウェイだった・・・。そんなことを目まぐるしく思い出しながら、私はマネッティーノをウェット・モードに戻すとパドルシフトで1速を選び、フィオラーノのコースに躍り出た。
当然のことながらファブリツィオとはだいぶ腕前に差があるようで、ウェット・モードではさっき感じたようなテールスライドの兆候は掴めない。まあ、リアタイヤの限界はおいおい見極めるとして、まずはF8 トリブートの基本的な性格を把握することにしよう。
ウェット・コンディションのサーキットを走っても、ステアリング・ゲインの立ち上がりが穏やかなため、神経質な挙動はまったく示さない。いや、“穏やか”という表現は不適切だ。その証拠に、F8 トリブートはかすかなステアリング操作にも的確に反応するし、そのレスポンスは極めて鋭敏。ただし、488GTBのように切り始めでオーバーシュート気味な反応を示すことがないので、雨の中でも自身を持って操れる。スーパースポーツカーとして模範的なハンドリングといっていいだろう。
そこから操舵量を次第に増やしていってもステアリングのリニアな特性は保たれ、リアタイヤはしっかりと路面を捉え続ける。コーナリング中にどこかに飛んでいってしまいそうな素振りは皆無といっていい。
それにしても、このボディ剛性の高さはどうしたことだろう。タイヤの接地面からドライバーを支えるシートに至るまで、あいまいな要素は完璧に排除されている。それゆえにタイヤが路面を捉えている様子がじかにドライバーに伝わってくるし、ドライバーの操作がタイヤから路面へと瞬間的に伝達されることが実感できる。458イタリアはおろか、488GTBでさえ、その剛性感はF8 トリブートの足下にも及ばない。おかげでクルマとの強烈な一体感が味わえる。2009年にデビューしたこのプラットフォームに、まだこれだけのポテンシャルが残されていたことは驚き以外のなにものでもない。
ターボエンジンらしからぬレスポンス!
エンジンのレスポンスも見事だ。488GTBもターボエンジンとは思えない俊敏な反応を示したが、F8 トリブートはもはやターボエンジンであることさえ忘れさせてくれるほどシャープなレスポンスを示す。まるでエンジンのスロットルバルブを右足でそのまま押し開けているような感触なのだ。
試乗前夜のディナーで同席したエンジン担当エンジニアに、F8 トリブートが488GTBに対して50psものパワーアップを果たした主な理由を訊ねたところ、彼はこんなふうに説明してくれた。
「吸排気抵抗の低減とアグレシッブなカムプロファイルの採用が大きく貢献しています」
これを聞いて、私は自分の耳を疑った。なぜなら、彼が説明してくれた内容は自然吸気エンジンで充填効率を高める手法とまったく同じ。ターボエンジンであれば、こんな手間がかかることはせず、ブースト圧を高めて無理矢理シリンダーに混合気を押し込めばこと足りるはずなのに、フェラーリがそうしなかったのはなぜか?
「ブースト圧を上げれば簡単にパワーを上げられますが、そうすればエンジン・レスポンスや信頼性が低下します。私たちは、そんな特性のエンジンを作りたくはなかったのです」
このエンジニア氏の言葉こそ、720psを瞬時に生み出す3.9リッターV8ターボエンジンのすべてを言い表しているといっていいだろう。
720psで操るカウンターステア
そんなことを観察している間に、フィオラーノにおける私の試乗は2ラップ目を終えようとしていた。残るは1周とインラップのみ。なかなかリアタイヤの限界を掴めない私は、しびれを切らしてマネッティーノをウェットからスポルトに切り替えることにした。
その瞬間にすべてが変わった・・・とは残念ながらならなかった。けれども、低速コーナーを中心にジワジワとペースを上げていくと、立ち上がり側で“ジワリ”とリヤタイヤがアウトに流れる素振りを見せ始めた。サーキットでのラップタイム優先のレース・モードに対して、スポルト・モードは「ファン・トゥ・ドライブ優先」、つまりオーバーステアを引き出しやすい設定との説明を受けていたが、それにしてもこの落ち着いたスライド感には驚かされる。
いや、まだ緊張感が完全には解けていなかったため、滑らかにカウンターステアを当てられたというつもりはないが、姿勢を大きく崩すこともなくコーナー出口に向けて加速していくことができた。そのとき味わった多幸感は筆舌に尽くしがたかったとしかいいようがない。
快適性も向上、フラットな姿勢を維持する
フィオラーノでのテスト走行を無事終えた私は公道での試乗に臨んだが、そこでF8 トリブートは信じられないほどの快適性を示したのである。路面からの鋭角なショックを滑らかに消し去ってしまうだけでなく、ボディはフラットな姿勢を崩さない。それが、ワイド・トレッドと低い重心高、それに優れたボディ剛性によってもたらされていることは間違いないが、ダンパーのチューニングというかクォリティも488GTBより1段か2段ほど向上したように感じられる。
そして、ここでも活躍したのがマネッティーノのウェット・モードだった。公道試乗のときにはすでに路面は乾いていたが、ウェット・モードではダンパーの設定がスポルト・モードよりもソフトになり、サスペンションは柔軟に路面に追随する。しかも、そのままアウトストラーダを走ってもダンピング不足は一切感じない。ウェット・コンディションのサーキット走行を含め、F8 トリブートのウェット・モードはまさに万能といってよさそうだ。
次期モデルはハイブリッドに
F8 トリブートは、1975年デビューの308GTBに始まるV8リヤミッドシップ・モデルの系譜にひとつのピリオドを打つモデルと位置づけられている。一般にこれは、純粋なエンジン・モデルの終焉を意味しており、今後はハイブリッド・モデルにその伝統が受け継がれていくと理解されている。今年のジュネーブショーで行われた記者会見において、この点に関して私が「F8 トリブートは最後の純エンジン・モデルですか?」と質問すると、コマーシャル&マーケティング担当シニアバイスプレジデントのエンリコ・ガリエラは「これが最後ではありませんが、次に登場するのはハイブリッドです」と答えてくれた。
この含みを残した回答は、ハイブリッドのSF90ストラーダが次に発表され、続いてF8 スパイダーが登場したことで謎が解けたが、それにしても不思議なのはフェラーリがF8 トリブートとわざわざ8気筒エンジンへのオマージュを示した点にある。だとすれば、F8 トリブートに続くミッドシップ・スポーツのパワートレインはV6ハイブリッドになると考えたほうが自然ではないのか? 事実、フェラーリは新しいV6エンジンを開発中であることを公言している。
V8エンジンを愛して止まないフェラーリ・ファンに告ぐ。F8 トリブートはフェラーリV8ミッドシップ・スポーツの最高峰に位置するモデルだ。私に確信はないものの、これを逃すと永遠に悔やみ続ける可能性もゼロとはいえない。その点は十分に留意していただいたほうがいいだろう。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
【SPECIFICATION】
フェラーリ F8 トリブート
ボディサイズ:全長4611 全幅1979 全高1206mm
ホイールベース:2650mm
トレッド:前1677 後1646mm
乾燥重量:1330kg
前後重量配分:前41.5 後58.5
エンジン:90度V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3902cc
圧縮比:9.6
最高出力:530kW(720ps)/7000rpm
最大トルク:770Nm/3250rpm
トランスミッション:7速DCT
ブレーキ ローター径:前398×223×38 後360×233×32mm
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(9.OJ) 後305/30ZR20(11J)
最高速度:340km/h
0→100km/h加速:2.9秒
0→200km/h加速:7.8秒
100→0km/h制動距離:29.5m
フィオラーノ・ラップタイム:1分22秒5
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