ロールス・ロイス初のピュアEV「スペクター」が発表された。イギリス・グッドウッドにある本社で実車を見た『GQ JAPAN』ライフスタイル・エディターのイナガキがリポートする。
間違いなくロールス・ロイス
新型ロールス・ロイス スペクター、ついに登場──超高級車の歴史が変わる
10月17日、ロールス・ロイス初のピュアEVが、イギリス・グッドウッドにある同ブランドの本社でひと足さきにメディア向けに披露された。
実車はどこからみても間違いなくロールス・ロイス。メーカーじしんは「ファントム・クーペ」の後継と謳うけれど、シャープなフロントまわりや流麗なCピラーなどからは「ゴースト」をベースにした「レイス」を彷彿とさせる。
“ロールス・ロイス史上もっともワイド”と謳うフロントグリルは、実車で見ると、現行モデルとそれほど大きくは変わらない。おなじグループ内のBMWだと、新型7シリーズと現行5シリーズの「キドニーグリル」を比べれば、あまりの大きさの違いに驚くばかりであるが、ロールス・ロイスではそれほどのインパクトはなかった。伝統的な高級車ゆえ、大きな冒険はしなかったのだろう。
このフロントグリルには新型7シリーズとおなじくLEDライトによってほのかに照らされる。薄型のヘッドライトと相まって、夜間、遠くからでもスペクターであることを主張する。
組み合わされるタイヤはピレリの「P ZERO」で、フロントは255/40R23、リアが295/35R23。これほど薄くて、でっかいタイヤは履いたクーペは類を見ない。参考までにアウディの超高性能SUV「RS Q8」のタイヤが前後295/35ZR23である。車両重量が2975kgに達するからSUV並みのタイヤとなるのも致し方ないのだろう。
これだけスポーティなタイヤを履いているにもかかわらず、凹凸をしなやかにいなしていく「マジック・カーペット・ライド」を実現すると約束するのだからすごい。発表会場で、筆者が、「このタイヤで本当に市販化されるのか?」と、技術者に訊いたところ「オフコース!」と一蹴された。
トランクルームはキャビンと独立しており、リッドは開閉式。あいにく、中には荷物がぎっしり積んであったので容量はわからないけれど、レイスと遜色なさそうだ。上質なカーペットで覆われているのもおなじである。
室内に乗り込むと、ヒップポイントが高めのドライビング・ポジションはゴーストやファントムと変わらない。シフトセレクターはコラム式で、エアコンのスイッチも見慣れたダイアル式を採用。最新のゴーストやファントムとの違いはパッと見、さほどないので、多くの既存ユーザー(ショーファーたちか)が難なく運転出来るはず。
ただし、展示車は完成度98%。それゆえ、たとえばシステムのスタート/ストップスイッチに、本来搭載されていないはずの「ENGINE」の文字が刻まれていた。現行モデルからテスト用に流用した部品はほかにもあるはずなので、市販時には、多少の変更があるだろう。
そういえば取材時、会場に入る際にスマートフォンには撮影禁止のシールが貼付されたのは、未完成部分があったからのように思う。
プレスリリースには運転支援装備について触れられていなかった。フロントウインドウ上部にカメラを、フロント下部にレーダーを設置していたから、衝突被害軽減ブレーキやACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)などは搭載されるはずだ。
リアシートにも座った。クーペとはいえ身長170cmの筆者には十分すぎるスペース。レイスと比べても遜色はない。ロールス初のピュアEVは実用性を犠牲にしていないのだ。
ブラックバッジも投入へ発表会場では、ふたりのキーパーソンに話を訊けた。ひとりはエンジニアのディレクターを務めるMihiar Ayoubi氏。もうひとりは高経営責任者のTorsten Müller-Ötvös氏である。
まずはMihiar氏とのと質疑応答から紹介する。
Q:なぜクーペボディを採用したのでしょうか?
Mihiar:当初からスーパークーペの電気自動車をつくることは決まっていました。これまでに発表した2台のコンセプトカーで培った経験をもとに、クーペボディに知見を付け替えただけです。
Q:バッテリーについて教えてください:
Mihiar:詳細はまだ話せないが、バッテリーサイズを大きくするだけでは重量が重くなるので良くない。ロールス・ロイスらしい乗り味を実現するにはハードウェアの最適化も必要です。
Q:駆動方式は?
Mihiar:AWDです。後輪操舵システムを採用したため、2モーターによるトルクベクタリング機能はありません。
Q:おなじBMWグループには「i7」という大型セダンのピュアEVがありますね。
Mihiar:i7とスペクターでは大きく違います。そもそも、アーキテクチャーがまったく異なります。ただし、テクノロジー面ではいくつかの共通点もあります。
Q:今回展示された車両の完成度は?
Mihiar:98%ですね。
Q:ロールス・ロイスのピュアEVで重要な点は?
Mihiar:アクセルを踏んだときの身体の動きを最小限にとどめたい。クルマが浮かぶような感じといいますか、クルマの重量感を感じられないような乗り味にしたいです。くわえて、ノイズレス。エンジニアは直接ユーザーと話し、フィードバックを得ているので、人間感覚に基づき、最良の静粛性を実現いたします。
Q:すでに一部のVIP顧客には案内しているのか?
Mihiar:はい。すでにデポジットを支払ったユーザーもいます。
次にTorsten Müller-Ötvös氏とのインタビューを以下に記す。
Q:スペクターの開発にあたりCEOとしてどんな注文を出しましたか?
Müller:マジック・カーペット・ライドの実現とロールス・ロイスらしいフィーリングです。
Q:スペクターの次のピュアEVはどういった車型を考えていますか?
Müller:(苦笑)われわれは2030年までにフルEVのライナップ実現を目指します。ですから、クーペのほかコンバーチブル、リムジン、SUVなどが考えられます。内燃機関はなくなりますから、未来のファントムやゴーストなどはすべてピュアEVとなります。
Q:スペクターのように新しい名前となるのか?
Müller:われわれは歴史を捨てません。ですからファントムなどの名前を諦めることもありえません。
Q:スペクターのモデルライフはどれくらいを想定しているのか?
Müller:10年を考えています。われわれのユーザーはすぐの変化や改良を好みません。腕時計のコレクターとも似ていて、長い期間、乗る人が多いです。スペクターはロールス・ロイス初のピュアEVということで価値がある。台数もたくさん出ません。バッテリーを交換すれば長く乗れますから、投資の面でも有意かもしれません。私たちのユーザーは、クルマを単なる移動手段として購入されるわけではないのです。
Q:ハイブリッドにしない理由は?
Müller:ピュアEVの特徴として静粛性の高さがあります。ハイブリッドを選ばなかったのは、エンジンを搭載するゆえ静粛性で劣るからです。“電気”が一番、ロールス・ロイスには合っています。それに遠く、エジンバラまで乗っていくような人はいませんから航続距離も問題ありません。
Q:スペクターにもブラックバッジは設定される?
Müller:はい。発表はまだ控えていますが、いずれ登場します。
Q:ほかのロールス・ロイスとおなじ乗り味を本当に実現できるのか?
Müller:それは心配していません。スペクター開発にあたってソフトウェアの技術者を多く採用しました。投資は惜しみません。
Q:水素を使う可能性は?
Müller:水素の活用も悪くないと思います。BMWグループは、燃料電池などを含むさまざまな実験に取り組んでいますから。
文・稲垣邦康(GQ)
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