現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 唯一無二の魅力 マツダはなぜロードスターを作り続けられたのか

ここから本文です

唯一無二の魅力 マツダはなぜロードスターを作り続けられたのか

掲載 更新 26
唯一無二の魅力 マツダはなぜロードスターを作り続けられたのか

 初代より「人馬一体」のドライブフィールを貫く、マツダ「ロードスター」。誕生から30年が経過した2020年現在は、4代目(2015年デビュー)が販売されている。

 この4代目は、大型化していた先代から、初代のコンセプト「ライトウェイトスポーツ」へと原点回帰を果たし、軽快な身のこなしで、永らくファンから高く支持されているモデルだ。

国産「最美」SUVにふさわしい走りか? マツダCX-30長距離試乗でわかった真価

 ライトウェイトスポーツカーといえば、CR-ZやMR2、シルビアなど、過去には多く存在した時代もあった。しかし当時から現在まで生き残っているのは、(S660やコペンなど、軽自動車で出てきたもの以外は)このロードスターのみ。なぜロードスターだけが、生き残ることができたのだろうか。

文:吉川賢一/写真:MAZDA、ベストカー編集部

【画像ギャラリー】これぞニッポンの誇り!! ロードスターの歴代モデルを写真でチェック!!

ロードスターの成り立ちを知る

 ライトウェイトスポーツカーとして確固たる地位を築いた「ロードスター」。意外にも、この初代誕生のいきさつは、あまり知られていない。

初代ロードスター。レッドのボディ色はこのクルマのメインカラー

 ロードスター誕生へと動き出したのは、1983年ごろ。日本車メーカーが軒並み、海外進出を始めた時代だった。当時、マツダ本社から、カリフォルニアでデザインスタジオを起こし、新しいクルマの提案を求められていたのが、デザイン本部長(当時)の福田成徳氏だ。

 当時、日本から見て、アメリカは日本よりもずっとクルマ大国で、テールフィンの生えたデカいクルマたちが、7レーンのハイウェイを行きかっている、というイメージが強かった時代であったが、福田氏によると、実際にカリフォルニアの道を走っていたのは、日本や欧州から来た、エコやセーフティの問題をクリアしたコンパクトカーたちが多かったという。

 コンパクトカーが多い市場、ということであれば、その市場向けには、コンパクトカーを造る、というのが一般的な流れだが「コンパクトカーが道を埋め尽くして走っているのはつまらない」と思った福田氏。「便利なクルマも大切だが、走って楽しくなる相棒の「ドライブミーカー」もあっていいのではないか」と考え、作られたプロトタイプカーが、「DUO101」だ。

 初代RX-7のサスを装着し、デフもついていて、実際に走れるクルマであった。このプロトタイプカーの効果もあり、マツダ本社は「GO」と判断、いよいよロードスター・プロジェクトが動き出すこととなった。

 しかし、無表情で背高のっぽ、ノーズ回りのデザインが石鹸箱のようで、プロポーションに面白みがない、など、デザイナーたちには、まだまだ改良したい部分が多くあった。

「楽しめるクルマ」を追求した、ロードスター

 初代ロードスター(NA)に携わる開発エンジニアには、社内で有志が募られた。その結果、スポーツカーに理解あるエンジニアが多く集まった、という。

 そして、集まったエンジニアたちは、お客様はロードスターに何を求めるのか? を真剣に考え、その結果、「楽しめるクルマ」だったら買ってくれるのではないか、と考えたそうだ(2代目3代目ロードスター開発主査貴島孝雄氏のコメント)。

 プロトタイプカーでは、フロントサスはストラット、リアサスはリジットであったが、初代ロードスターではダブルウィッシュボーン(DWB)に改修している。これは、お客様の好みにキャンバー調節してダンパー交換する、といった自由度を持たせるためだった。

 「ストラットでも成り立っていたじゃないか」という声には「ストラット並に安く、軽く造る」と宣言した。一般的に、DWBでは、ストラットの1.5倍はコストかかる。これをクリアするのは並大抵の努力では成しえない。メーカーエンジニア出身の筆者からすれば、ありえないことだ。

 重量についても、マツダの設計基準では板厚2.0ミリ以上取ることが規定だったが、板厚を1.8ミリまで薄くし、強い防錆対策を施し、クロスメンバーやその周辺部材を軽くした。その結果、DWBでもストラット並みに軽量にすることができた。エンジニアたちが「楽しめるクルマ」を追求した結果だ。

 また、車体のパワープラントフォームも、ドライビングの楽しさのために、最初からやると決めていたという。アクセルオンで即トラクションがかかり、背中からグッと押される加速感のために、デフと車体がねじれないようにした。

 しかも、エンジンミッションとデフを一つのフレームで繋いだため、ミッションマウントラバーは不要、デフマウントラバーも不要、とコストも下がり、軽くなった。一挙両得のアイディアだ。

 このように初代ロードスターは、スポーツカーを愛するエンジニアたちが、とことんまで「楽しめるクルマ」を追求し、開発されたのだ。

 そして、2代目のロードスター(NB)開発時には、こんなこともあった。

 NBへのモデルチェンジの際、ヨーロッパ側の規制でリトラクタブルヘッドライトが禁止となった。日本やアメリカではリトラでもよかったのだが、作り分けるとコストがかさむ。「楽しめるクルマ」を追求するためには、コストは出来るだけ抑えねばならない。その結果、固定式に統一されることになった。

2代目ロードスター。リトラクタブルヘッドライトを廃止したが、ロードスターらしさは残した一台

 しかしこれが意外な効果を生む。重たいリトラのユニットは、ヨー慣性の増大を招いていたため、廃止により軽量化になり、ヨー慣性低減に成功したのだ。

 その効果もあったのだろう、NBは、2003年のAUTO CAR誌にて、ポルシェを破って「ベストハンドリングカー」を受賞した。

逆境すら逆手にとって活かす

 このようなエンジニアたちの熱意は、4代目(ND)でも、しっかりと息づいている。NDでは燃費改善のため、ヘッドライトがLED化された。

 LED化したことで低いノーズにできるのだが、重量がかさむ。しかしマツダのエンジニアたちはそれを逆手にとり、ユニット本体を元よりも低い位置にレイアウト、重心を下げることに役立てたのだ。また、ライトユニットの奥行きが短くすむので、オーバーハングを短くでき、ヨー慣性も小さくできた。

4代目ロードスター。初代に比べると塊感が増したデザインだ

 初代ロードスターへ、ストラット並みのコストでDWBサスペンションを織り込んだように、エンジニア自身が納得するスポーツカーを、ちょっとだけ頑張れば買える、リーズナブルな価格で実現しようとする熱意の表れだ。

 作られた時代は異なるが、先人が築いてきた歩みを、後輩エンジニア達がしっかりと見てきたからこそ、「何か工夫ができるはずだ」という思考を繰り返すことができたのだろう。

変わらぬ熱意があったからこそ、生き残れた

 高性能スポーツカーでは、速さを得るためにアルミニウムやカーボンを使うことも多々あるが、コストが上がり、だれでも手に入れることはできなくなる。

 ロードスターは、コストを抑えながらも、あの小さくて低くて可愛らしいボディに、ぎちぎちに詰め込んだハードな走りのメカニズムをもっている点、走れば走るほどドライバーに馴染む奥深さを持っている点、こうした魅力があるからこそ、4代にもわたり作り続けられた。

 マツダは「ロードスターが4世代にわたって作り続けられたのは、ロードスターを乗っている方やオーナーズグループの皆さんの笑顔によって支えられてきたおかげだ」とし、これからも、お客様との対話を、続けていきたい、という。

 「このクルマを手に入れるほんの少しの勇気を持てば、きっと、だれもが、しあわせになる」――平成が始まった1989年に誕生した「ユーノス・ロードスター」のキャッチコピーだ。

 このキャッチコピーには、ロードスターを生みだした、マツダの技術者たちの想いが込められている。そして、それは4代目となった現行ロードスターにも変わらず織り込まれ、その想いがユーザーに伝わっているからこそ、ここまで生き残ってこれたのだろう。

【画像ギャラリー】これぞニッポンの誇り!! ロードスターの歴代モデルを写真でチェック!!

こんな記事も読まれています

スペインGPで大失速のRB、オーストリアGPのFP1で2台のマシンで比較テスト実施へ。角田裕毅「明確な説明が得られればいいんですが……」
スペインGPで大失速のRB、オーストリアGPのFP1で2台のマシンで比較テスト実施へ。角田裕毅「明確な説明が得られればいいんですが……」
motorsport.com 日本版
ホンダ「新型ヴェゼル」登場! めちゃ精悍「“スポーティ”仕様」がカッコイイ! デザイン刷新の「フル無限カスタム」も設定
ホンダ「新型ヴェゼル」登場! めちゃ精悍「“スポーティ”仕様」がカッコイイ! デザイン刷新の「フル無限カスタム」も設定
くるまのニュース
VW新型「ゴルフR」世界初公開! 333馬力・最高時速270kmの最強ゴルフは「光るVWエンブレム」初採用
VW新型「ゴルフR」世界初公開! 333馬力・最高時速270kmの最強ゴルフは「光るVWエンブレム」初採用
VAGUE
マツダとヤマハ発動機、型式認証不正で出荷停止のロードスターRFなど 7月以降に順次生産再開へ
マツダとヤマハ発動機、型式認証不正で出荷停止のロードスターRFなど 7月以降に順次生産再開へ
日刊自動車新聞
VWゴルフGTIのセダン版『ジェッタGLI』に改良新型、228馬力ターボに6速MT…米国発表
VWゴルフGTIのセダン版『ジェッタGLI』に改良新型、228馬力ターボに6速MT…米国発表
レスポンス
【公式動画】アストンマーティン F1アロンソの熱望から誕生したQ By Aston Martinビスポークのヴァリアント・ヴェラールが新たな系譜に加わる
【公式動画】アストンマーティン F1アロンソの熱望から誕生したQ By Aston Martinビスポークのヴァリアント・ヴェラールが新たな系譜に加わる
Auto Prove
トヨタ「アルファード/ヴェルファイア/プリウス」オーナーに朗報! 純正ナビのテレビ視聴やナビ操作が便利になるTVキットが新登場
トヨタ「アルファード/ヴェルファイア/プリウス」オーナーに朗報! 純正ナビのテレビ視聴やナビ操作が便利になるTVキットが新登場
Auto Messe Web
3週間ぶりのMotoGP! オランダGPのFP1はバニャイヤがトップタイム。来季チームメイトのマルケス2番手続く
3週間ぶりのMotoGP! オランダGPのFP1はバニャイヤがトップタイム。来季チームメイトのマルケス2番手続く
motorsport.com 日本版
ブガッティの新たなハイパースポーツカー「トゥールビヨン」が登場。V16エンジン+3モーターで1800psを発生!
ブガッティの新たなハイパースポーツカー「トゥールビヨン」が登場。V16エンジン+3モーターで1800psを発生!
Webモーターマガジン
[15秒でわかる]BMW『M2』改良新型…小さな車体でも中身は狂暴
[15秒でわかる]BMW『M2』改良新型…小さな車体でも中身は狂暴
レスポンス
本州―四国「しまなみ海道」高速バス攻めの“特急化” 運行ルートがらり変更! 新幹線接続 JR松山駅は“廃止”
本州―四国「しまなみ海道」高速バス攻めの“特急化” 運行ルートがらり変更! 新幹線接続 JR松山駅は“廃止”
乗りものニュース
7年ぶり全面刷新! 新型「迫力顔SUV」初公開! 斬新グリル&直6エンジン搭載の「大きめ高級車」! 豪華内装の「X3」欧州で発表
7年ぶり全面刷新! 新型「迫力顔SUV」初公開! 斬新グリル&直6エンジン搭載の「大きめ高級車」! 豪華内装の「X3」欧州で発表
くるまのニュース
テオ・プルシェールがインディカーで残した爪痕。復帰への道筋と後任ノーラン・シーゲルの才能
テオ・プルシェールがインディカーで残した爪痕。復帰への道筋と後任ノーラン・シーゲルの才能
AUTOSPORT web
ゴルフにポロにルポにup!に……VWの「GTI」はやっぱり熱いぜ! 時代時代のクルマ好きを歓喜させた歴代モデルとエキサイティングなその中身
ゴルフにポロにルポにup!に……VWの「GTI」はやっぱり熱いぜ! 時代時代のクルマ好きを歓喜させた歴代モデルとエキサイティングなその中身
WEB CARTOP
アルファロメオからセアトにVWまで! 凄腕デザイナー「ワルター・デ・シルヴァ」独自の手法と名車5台
アルファロメオからセアトにVWまで! 凄腕デザイナー「ワルター・デ・シルヴァ」独自の手法と名車5台
WEB CARTOP
新型電動ミニバン『L380』は航続824km、LEVCが中国発売…グローバル展開も計画
新型電動ミニバン『L380』は航続824km、LEVCが中国発売…グローバル展開も計画
レスポンス
トヨタが新型「アクア」発表! 新たな「小さな高級車“ラフィネ”」も追加された「大人気コンパクトカー」の優位点とは
トヨタが新型「アクア」発表! 新たな「小さな高級車“ラフィネ”」も追加された「大人気コンパクトカー」の優位点とは
くるまのニュース
2024年中の発表もあるか!? ホンダのおしゃれクーペ「プレリュード」誕生間近? 新型は「往年の名車ゆずり」の圧倒的な存在感が魅力的
2024年中の発表もあるか!? ホンダのおしゃれクーペ「プレリュード」誕生間近? 新型は「往年の名車ゆずり」の圧倒的な存在感が魅力的
VAGUE

みんなのコメント

26件
  • NCを割愛すんな
  • ロードスターが良い車なのは間違いないけど、「安いMG」として企画されたロードスターの誕生を語る上で、コンパクトなスポーツカー需要をマツダが発掘した!という書き方はかなり語弊があるんじゃないだろうか。
    重量もなんかめちゃくちゃ軽いような書き方してるけど、当時の基準からすれば別にそこまで軽い車じゃないよね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

289.9368.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

25.0586.0万円

中古車を検索
ロードスターの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

289.9368.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

25.0586.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村