2008年4月、プジョー207SWが日本上陸を果たした。ハッチバック、クーペ&カブリオレのCCに続いて、SWが登場したことで、207シリーズが完成したことになる。ではこの207SWにはどのような狙いがあったのか。今回は1.6L NAエンジンを搭載したベーシックな207SWの試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine2008年6月号より)
リアセクションの重さを感じさせないアローライクフォルム
デビュー時の5ドアハッチバック以来、スポーツハッチのGT、ホットハッチのGTi、クーペ&カブリオレのCCと意欲的にそのバリエーションを増やしてきた207シリーズ。欧州市場では発表2年もたたないうちに、既にミリオンセラーを記録するヒット作となっている。
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人気の理由としては、Bセグメントでありながらひとつ上、Cセグメント級の実力を備えるという、近頃流行りの「ワンランクアップ作戦」が効いていること、そして個性溢れるスタイリングを挙げることができる。
そんな207シリーズだが、日本仕様において、このたびラインアップにひとまずの完成を見た。プジョーで定番となっている、人気のSWシリーズが追加されたのだ。
SWの位置付けは「ハッチバック以上」というもので、スタイリッシュさが命のプジョーデザインにはうってつけのカタチ。SWという名称には荷室を広げただけのステーションワゴンではないという意味が含まれている。ドイツ車好きならば、アウディのアバントを思い出せば、わかりやすい。
新型207SWに関しても、やはりリアセクションのデザインに注目が集まりそうだ。206SWには取って付けたかのような違和感があったが、今回はそれもまったく感じさせない。206とは違って、ハッチバックと同時にSWの開発も進められたからだ。
大型リアランプと逆方向に切れ込んだリアウインドウが作り出す「アローライクフォルム」が印象的だ。SW化に伴ってハッチバックよりリアオーバーハングを120mm伸ばしているが、そのことによるリアセクションの見た目の重さを打ち消すようデザインされている。全体のシルエット的にも荷室が長くなった、ワゴンっぽくなったという印象はほとんどない。普通のハッチバックモデルとまったく変わらない印象を持つほどだ。
実際、207ハッチバックがその場になければ、SWと気付かない人もいるかもしれない。ルーフ面が巨大なガラスで覆われているのも外観上の見どころのひとつだ。
足まわりのチューニングはモデルごとに細かく設定
日本仕様として用意されたのは今のところ2グレードのみとなっている。いずれも搭載されるのは既にお馴染みの、PSAグループとBMWとの共同開発1.6Lガソリンエンジンで、グレードとしては120ps自然吸気+4速ATの207SWと、175psターボ+5速MTの207SW GTiとなる。前者には特徴的なデザインのアルミニウムルーフレールが備わっている。
インテリアはデザインこそ変わり映えしないものの、ハッチバックとはかなり違う空気が漂っているように感じる。それもそのはず、天井が高くなり、その上、巨大なガラスルーフで覆われているから、室内の開放感がまるで違うのだ。前席だけではない。後席もシート位置を後方にずらしたことで、足下スペースに余裕ができ、リラックスして座れるようになった。この広さと居住性なら、あえてミニバンなど買う必要はないと感じる人もいるだろう。
注目のラゲッジスペースはどうか。後席はワンタッチでフルフラットにすることができる。5名乗車で337Lの荷室が、2名乗車+フルフラット状態では1258Lにまで拡大する。その上、ハッチゲートのウインドウは単独で開閉可能。小さな荷物ならば、わざわざハッチゲートを開けずとも出し入れが可能だ。
さらに、機能性にも気を遣っている。荷室の左右やフロア下に充実のスペースがあり、また荷物を隠すシェルフは使いやすい3分割。頻繁に大きな荷物を運ぶようなヘビーユーザーを除けば、これで十分ではないだろうか。
今回、試乗に用意されたのはベーシックなSWのみ。GTiは少し遅れてデリバリーとなる。スペック的にはハッチバックよりも全長と全高が大きく、重量もやや多くなっている。
足まわりのチューニングはプジョーの常で、SW専用のものになっている。プジョーのシャシまわりへのこだわりは尋常ではなく、ダンパーやスプリングなど構成パーツの組み合わせが、ボディタイプやグレード、エンジン、トランスミッションなどの違いによってこと細かに変えられている。見かけは全く同じでも、モデルによって設定が少しずつ異なっていて、しかもそれが全車に共通した乗り味にまとめられているのは見事というしかない。
リアの重量増が走りに粘り腰をもたらしている
結論から言って、プジョー207SWの走りは、207シリーズ中最良で、最もプジョーらしいと思えるものだった。動き始めの硬くちょっと物足りない印象に始まり、それが100mも走れば全身に血が回ってしなやかさが増して、路面からの入力をきっちり受けつつもジワッといなしてしまう独特の乗り心地を味わうことができる。
ひとたびワインディングに入れば、路面を掃きながら撫でて走るかのごとき粘り腰で、「これぞプジョー」と唸さらせるものだった。リアの重量増も安定したコーナリングに寄与していると思われる。
ここ数年のプジョーシリーズの中では抜きん出て「ネコアシ」だ。古くからのプジョー乗りで、最近のはちょっといただけない、と思っていた方もぜひ一度試して欲しい。
エンジンパワーはちょっと物足りないぐらいだが、これがプジョーのキャラクターにはあっている。ATのセッティングも、かなり良くなった。もっとも、国産車も含めた最新レベルで比較すれば「まずまず」の部類である。それでもクルマが気持ちよく走るということは、それだけネコアシが気持ちよいということの証拠と言って良さそうだ。
207SWの躍動感あるスタイルは、ワゴンというより、むしろハッチバックと言って通用するもので、そのSWを気持ちよく走らせていると、ハタと気づくことがあった。サイズ的に見れば、ほとんど307のハッチバックと同等。そういえば、価格的にもSWの2グレードと307ハッチバックの2グレードが見事に対応している。
そして、これが肝心なのだが、307後継の308シリーズがひと回り大きくなっているという事実。そう、207SWは307の実質的な後継モデルなのではないかということだ。
エンジン排気量は小さくなっているが、これはダウンサイジングの賜物だ。1.6L直噴ターボはNAの2.0L以上にも相当する。実用に限った話でいけば、207シリーズSWを実質的なCセグメントとして見ることができるのではないかとも思う。
そうなると、207シリーズは広いユーザー層に対応するものであり、新たに登場する308シリーズは307の代替ではなく、まったく新しいハッチバックモデルの価値を持ち込むことになるはずだ。そして、そこが308シリーズの成功の鍵となるだろう。
もうひとつ、207シリーズがプジョーラインアップの中心となるのであれば、望みたいモデルがある。それは、207シリーズよりも小さなモデルだ。1007とは別に、キュートなコンパクトカーの設定が必要となってこないか。107はトヨタとの関係があって日本導入は難しいか。(文:松本雅弘/Motor Magazine 2008年6月号より)
プジョー207SW 主要諸元
●全長×全幅×全高:4150×1750×1535mm
●ホイールベース:2540mm
●車両重量:1320kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1598cc
●最高出力:120ps/6000rpm
●最大トルク:160Nm/4250rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:4速AT
●車両価格:269万円(2008年)
プジョー207SW GTi 主要諸元
●全長×全幅×全高:4150×1750×1510mm
●ホイールベース:2540mm
●車両重量:1330kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1598cc
●最高出力:175ps/6000rpm
●最大トルク:240Nm/1600~4500rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:5速MT
●車両価格:335万円(2008年)
[ アルバム : プジョー207SW はオリジナルサイトでご覧ください ]
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