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のんびり走るのにうってつけの1台──新型シトロエンC3試乗記

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のんびり走るのにうってつけの1台──新型シトロエンC3試乗記

シトロエンのコンパクト・ハッチバック「C3」の改良モデルに今尾直樹が試乗した。フランス製コンパクトカーの魅力は?

シトロエンの真骨頂は、いまも昔も高速巡航にある

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走り出した途端、ピッチングが大きいことに驚いた。赤信号で減速するとノーズが下がり、アクセルを踏めばノーズが上がる。ストップ&ゴー、変速のたびにも船が押し寄せる波にどんぶらこと揺れるような現象があらわれる。いまどき、6速オートマチックで、6速なのはよいとしても、その変速はのんびりしていてショックがあり、ちょっと大袈裟に申しあげると、昔のシングル・クラッチの2ペダルを思い出させるギクシャクぶりなのだ。

すぐさま浮かんできたのは、こりゃあ、プジョーの新型「208アリュール」のほうが断然いい……、という感想だった。

ま、それはそうである。現行C3のワールド・デビューは2016年末。新型208は2019年3月で、3年以上も208のほうが新しい。プラットフォームからして新世代だし、新しい8速オートマチックを採用してもいる。なのに、C3は6速のままだ。

という具合にフェイスリフを受けて2021年早々に日本で発売となった新型C3の第一印象はあまりよろしくなかった。

ところがです。首都高速に上がるや、乗り心地が俄然フラットになり、いいんだなぁ、これが。やっぱりシトロエンの真骨頂は、いまも昔も、高速巡航にある、と、再認識した。レインボーブリッジを渡って湾岸線を横浜方面に走り、アクアラインを走っている頃には考えをあらためた。

あの街中でのピッチングは筆者の運転が悪かったのである、と。C3のソフトでストロークたっぷりの足まわりに対して、筆者の加減速の操作が乱暴だったのだ。直前にウルトラ・スムーズなモーター駆動のクルマに乗っていた影響もある。たぶん。

しかも、あちらはホイールベースが2920mmもある大きなセダンなのに対して、こちらは2535mmの小型前輪駆動車である。頭と体の切り替えができておらなんだ。

キリッとした顔

1.2リッター直列3気筒ガソリンターボと6速オートマチックは、最高出力110psと205Nmを発揮して、車重1160kgの小型実用車としては、必要十分な動力性能を提供している。記憶のなかのC3エアクロスより、重心が低くて軽い分、速いし、動きも機敏だ。

モデル・ライフの後半へといたる今回のマイナーチェンジでは、まず顔がキリッとした。上のデイタイム・ランニング・ライトと下のヘッドライトは、どちらもLEDになり、目つきがモダンで冷たくなっている。

フロント・マスク中央のダブル・シェブロンのマークからは上下の2本のクロームのバーが両腕、両足のように延びていて、これではダブル・シェブロンというよりナスカの地上絵みたいだ、と、筆者は思うのですけれど、このデザインが今後、シトロエン一族共通の顔として、これから出てくるモデルにも採用されるという。

外観では、ボディの側面に貼られるプラスチック製の保護パーツ「エアバンプ」の材質が変更になった。以前は触るとベコベコしていて、いかにも空気が中に入っている感じだったのが、新型では硬くなって凹まなくなった。と、シトロエンのひとが言っていた。筆者は、すいません、触り損ねました。

ふかふかなシート

インテリアでは、その名も「アドバンスト・コンフォート・シート」という、シート内部のスポンジの厚みをスタンダードの2mmから15mmに大幅に増やした、新しいシートの装着車を設定した。このシートは全車標準にではないので、お買い求めの際はご注意ください。

ちなみに「アドバンスト・コンフォート」というのは、2019年の創立100周年を機にシトロエンが打ち出した、彼らのクルマづくりの新しいテーマである。シトロエンは快適で先進的なクルマを生み出してきたことを再確認し、これからもそうあり続けることを、昔のように独創的であることは無理でしょうけれど、シトロエン自身が宣言したわけで、その観点から見ると、スポンジの厚みの大幅増は、単にスポンジの厚み増にとどまらない、大きな意味がある。

走行中、なんとなくこのシート、いいなぁ、と、思った筆者は、何気なくお尻の下に手をやり、そのふかふかなことを確かめた。スポンジの塊みたいだった昔の「GS」とか「CX」のシートのようではないけれど、1クラス上の「C4カクタス」のシートみたいだなぁ、と、思った。

ただ、なぜかこの「アドバンスト・コンフォート・シート」、C3の高いほうの、SHINE(シャイン)のなかでも、「エメラルド内装」という仕様のクルマしか装着していない。エメラルド内装はボディ色で組み合わせが限られている。ご注意ください。というのはそのことです。

和やかに走る

機械的な改良点としては、エンジンの制御を変更して、燃費をJC08モードで15%も向上させている。1.2リッター直列3気筒ガソリンターボ・ユニットの最高出力の数値は不変ながら、205Nmの最大トルクの発生回転数が改良前の1500rpmから1750rpmに上がっているところにポイントがありそうだ。

意外と速いけれど、わりと淡々としている。筆者の記憶では、プジョー208アリュールのほうが軽快感はあった。数値的には208は最高出力が100psと、いくぶん低いけれど、8速オートマチックのギア比が適切なのだろう。C3のタイヤ・サイズが205/55R16なのに対して、208アリュールは195/55R16という、ひとまわり細いタイヤを履いていることもある。

では、シトロエン C3は見どころがないかというと、そんなことはない。これはこれで味がある。ちょっと荒れた一般道を、タイヤが太い分、ドタドタ動いていることが感じられるのだけれど、それがサスペンションががんばっている、と思わせるだけでなく、「アドバンスト・コンフォート・シート」のおかげなのだろうか、乗り心地がそんなところでとてもよいのだ。まるで、(エロチックな意味ではなくて)柔らかな乳房に抱かれているかのよう。路面からの角張ったショックを伝えず、和やかに走る。

室内は静かではないものの、とくにうるさくもない。低音の、丸みのあるエンジン音が侵入してきて、国産車にはありがち、と、筆者は思うのですけれど、音をむりやり閉じ込めようとしていない。音が抜けている感じがして、しかも、その丸みのあるエンジン音が一貫していて、レッドゾーンの始まる5500rpmまで回してもガサツな音をたてない。

肩の力が抜けている、というのか。最新モデルでなくてもいいじゃん。どれを買っても、1年も乗っていたら、いずれは古くなるのだ。そういう達観みたいな境地になってくるほど、肩の力がいい感じに抜けている。

春を思わせる、暖かな陽の光を感じながら、内房のカントリー・ロードをのんびり走るのにうってつけの1台だ、と筆者は思った。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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