ライバルを凌駕するパワーと電費のSUV
7月4日、メルセデス・ベンツ初となる市販EV(電気自動車)モデル「メルセデス・ベンツEQC」を日本市場で発表した。すでにEQモデルとしてハイブリッドを設定しているが、このEQCはEVのSUVである。急速充電のチャデモ方式を搭載して日本上陸を果たすというメルセデス・ベンツのEVを、モータージャーナリスト河口まなぶが欧州でテストドライブを行なった。
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メルセデス・ベンツ初の電気自動車(以下EV)である「EQC」をノルウェーのオスロで試乗した。この地が選ばれた理由は欧州随一の”エレクトリック・シティ”であるため。水資源が豊富なノルウェーは、国の電源構成比で水力発電が約95%を占め、EVにすればCO2の排出量は発電の段階からゼロになる。まさにEVの試乗に相応しい環境だ。
オスロ空港にはEV専用の巨大な駐車場があり、ここには世界中のEVが無数に並ぶ。EVには様々な優遇がなされ、かなりメジャーな存在。この駐車場の一角にEQCの試乗会場があった。簡単なレクチャーを受け、鍵をもらって早速駐車場を後にする。
走り出した瞬間に「いままでのどのメルセデス・ベンツよりもメルセデス・ベンツらしい」と直感。付け加えるならその乗り味走り味は、フラッグシップサルーンのSクラスと同等かと思えるほど、緻密さ濃密さ重厚さが存分に感じられる「メルセデス・ベンツの味」だった。
EVは内燃機関を搭載したクルマに比べ、「静かで滑らかで力強い」特性がある。モーターを用いるために騒音や振動が極めて少なく、継ぎ目のないシームレスな加速があり、アクセルを踏むと全くタイムラグなしで瞬時に最大トルクが得られるモーターの特性が、そうした印象を走りに与えるためだ。
EQCはそんなモーターの特性を、メルセデス・ベンツが130年以上に渡って培ってきた経験やノウハウを存分に活かした「走る曲がる止まる」に見事融合した。結果、冒頭のような印象を筆者に与え、思わず深く唸ったのだった。
なお、EQCは同社が販売するDセグメントSUVのGLCと基本部分を共有し、生産に関してもGLCと同様にドイツのブレーメン工場となり、同じラインを流れる。もっとも基本部分は共通だが部品レベルでは85%が異なり、床下には80kWhという容量のリチウムイオンバッテリーを搭載。重量650kgに及ぶバッテリーは、衝突時に影響ないよう強固なアルミ押し出し材のフレームで囲われる構造とされる。
ボディの3サイズは全長4761mm×全幅1884mm×全高1624mmでホイールベースは2873mm。GLCと比べると全長で約90mm長く、全高は約20mm低い。このフォルムは空力性能を追求したからで、アンダーフロアもフラットな構造でCD値は0.27を実現。テスラ・モデルXの0.25に次ぐ優秀な数値を実現した。
バッテリーの容量は80kWhとライバルより控えめ。だが、最高出力は前後のアクスルに一つずつ備わる合計2つのモーターで300kW、一方最大トルクは760Nmとライバルを遥かに凌ぐ値を発生。さらに航続距離はNEDCで445~471km、WLTPでは約417kmとされ、電費はNEDCで20.8~19.7kWh/100km、WLTPで18.7kWh/100km。EQCは”電費”でライバルに対してアドバンテージがありそうだ。そして0-100km/h加速タイムは5.1秒。ライバルと比べるとパワーは同等、トルクは最も太く、電費も優れ動力性能も良好…と、かなりバランスに優れる商品力を備えた印象だった。
走りは優れたスペック以上に、乗るほどに体にじんわりと染みる、メルセデス・ベンツらしい良さが存分に詰まったもの。しかもそうしたメルセデス・ベンツらしさは、バッテリーとモーターによってこれまでのどのメルセデスよりも緻密かつ濃密に感じるものに仕上げられており、かつてから素晴らしいフィーリングに支えられた世界観が、ある意味究極的に表現できたといっても良いだろう。
そしてインテリアも基本的にGLCと共通だが、ダッシュボードとドアトリム周りが新しい。目の前には巨大な液晶パネルが横たわる新世代のそれで、加えてエアコンの吹き出し口は、これまで見たことのない新デザインが採用される。随所にカッパー(銅)色でアクセントが入るのも特徴だ。
気になる価格は、導入記念の特別モデル「EQC Edition 1886」が1200万円。「EQC400 4MATIC」は1080万円とアナウンスされている。試乗レポートとしての締めの言葉を記すとするならば、「電気自動車になってもやっぱりメルセデス・ベンツ」といえる一台だったし、これまでのどのメルセデスよりもメルセデスらしい、ともいえる一台だった。
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