レシプロケーティング(往復)に対するロータリー(回転)。容積変化部がすべて回転運動によるエンジンのノッキング耐性はどうなっているのか。
「そういえばロータリーエンジンってノッキングはどうなっているんだろう」
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編集会議中にメンバーのひとりがふと漏らしたこのひと言が、全員の興味を引いた。容積比(幾何学的圧縮比)についても、上死点と下死点がはっきりしているレシプロエンジンに比べてイメージしにくい。2018年現在では、市販車で最終的に搭載されていたのはRX−8の13B RENESISであるが、かつてRX−7に搭載されていた13B過給仕様は、やはりレシプロと同じく容積比は下げているのだろうか。RE(ロータリーエンジン)の構造と動作から考えてみると、燃焼室が扁平で表面積があることから冷却損失も大きく思え、したがってノッキングは同容積のレシプロと比べれば起きにくそうだ。そんなイメージを抱きつつ、マツダを訪ねた。
パワートレイン開発本部の清水律治氏は、1986年の入社以来RE一筋のエンジニアである。一通り、REの構造について説明を受けたあとに、率直にREにもノッキングが生じているかを訊いた。
「起きています。ただし、別の現象もあって、それを『疑似ノック』と呼んでいます。REにとってはむしろ、こちらのほうが問題なのです」
疑似ノックという言葉は、当然初耳である。なぜ疑似なのかといえば、ノック音は聞こえてくるものの、それが自着火によるものなのか急速燃焼によるものなのか切り分けがきわめて難しいからである。REは先述のとおり燃焼室が扁平であるうえ、常に燃焼室が動いている。点火プラグで混合気に着火しても火炎伝播に時間がかかり、しかもローターがハウジング内を回る際に非常に狭いエリアが生じるクランクアングルがある。火炎がそのエリアに届いていないうえに、押しつぶされることで圧力が高まり急速燃焼が起きているのではないかと、清水氏は言う【図1】。つまり、レシプロエンジンにおける上死点でのスキッシュエリアのようなものが、膨張行程が始まってから現れるようなものである。
「ノッキングと疑似ノッキングが起きる理由はレシプロさん(RE一筋のエンジニアらしい言葉だ)と同じで、熱と圧力の関係から着火点に達するというメカニズムです。低回転高負荷域で起こるのも同じ。圧縮比によって左右されるのも同様です。ただし、エンドガスの温度がレシプロほど上がらない。ノッキングにはそれほど厳しくないというのがREの特徴です」
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