2007年秋のポルシェの注目モデルは「911GT2」と「カイエンGTS」。中でも「911GT2」はポルシェのロードゴーイングのトップモデルとして911ファンから熱狂をもって迎えられた。ここではドイツ・ブレーメンで行われた国際試乗会の模様をとおして997型「911GT2」を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年12月号より)
ポルシェ 911シリーズの頂点に立つ
ポルシェ社の業績が上昇を続けている。そんなニュースを耳にしたことがある人は、もはや少なくないだろう。何しろこのメーカーはもう随分の永きにわたって、決算ごとに「過去最高の業績」を発表し続けているからだ。
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そしてまた、この期に及んでそうした記録が「更新」されたことが明らかになった。燃料代の高騰が続くアメリカでの販売台数こそ前年度比でマイナスとなったものの、それを中国やロシアといった他の地域での伸びが補い、2006~2007事業年度、すなわち2007年7月末日までの1年間の販売台数と総売上高がともに史上最高を記録したというのである。
そんなこのメーカーの好調ぶりが、まずはそこから生み出されるプロダクツの優秀さに由来することに異論がある人はいないはずだ。ポルシェの製品はとびきり高価。けれども、それを承知の上で自らの手に収め、幾ばくかの年月をともに過ごしてみれば、やはりそれが並大抵の代物ではないことは嫌というほどに教えられるのだ(それは自分自身、身を持って体験している事柄でもあるわけだが……)。
その一方で、そんなプロダクツとともにこのメーカーが備える際立つ能力が、実はその並外れたマーケティング戦略にもある、と気付いている人は少ないかも知れない。ポルシェ社のマーケティング部門にはこの先5年、いや10年先までの販売戦略について、綿密なるシナリオを描ける人が間違いなく存在していると、このところリリースされてきたモデル群を目にすると、そう感じる。現在へと続く「業績絶好調」は単にプロダクツが優秀であるだけではなく、そうした類まれなるシナリオ・ライティング能力があっての出来事と考えられるのだ。
そして今、2008年に向けて発表された最新モデルの内容を知らされると、そうした仮定が確信へと変わる。そんな思いを抱かせてくれた最新のポルシェとは、先般のフランクフルトモーターショーで発表された「911GT2」と「カイエンGTS」という2つのモデルである。
車両本体価格2607万円! すなわち、同じ911シリーズにありながら「素の911」たる「カレラ」からすれば実に2.3倍以上となるプライスタグが提げられているのが「911GT2」。これまで「最もホットな911」とされてきた「911GT3」との比較でもその価格差は軽く1000万円以上。「911ターボ」と比べても600万円以上も高価なのだから、まずは価格面からだけでもその「特殊ぶり」が印象に残るのがこの911GT2というモデルになる。
911GT2にそれほどの高価格が許される最大の理由、それは「史上最強・最速の911」というタイトルを有する点に尽きると考えられる。ポルシェ社のマーケティングセクションは、こうした「金看板」が備われば、かように高価であっても世界で商売になると踏んでいるに違いない。そして、そんな911GT2にとっての必然であった「最強・最速」のタイトルは、綿密なる計算の後に与えられたものであるはずなのも、また明らかな事柄なのだ。それは、他モデルとのデータ比較を行ってみれば明確になる。
F1マシンばりのカーボン製モノコックボディに、そもそもは「ル・マン24時間レースでの優勝」を狙って開発された(とされる)エンジンをディチューンして搭載したのが、2003年に発売されたカレラGT。発表された911GT2の最高速データはそんな「スーパー ポルシェ」ことカレラGTの330km/hという値にわずか1km/hだけ及ばない、329km/hという数字なのだ。
それだけではない。911GT2とカレラGTの「微妙な関係」は、0→1000mというスタンディング・スタートでの加速タイムを見ても興味津々だ。911GT2の20.7秒に対してカレラGTは20.0秒。「最速のポルシェ」のタイトルは911GT2がリリースされた後も、依然カレラGTの頭上に輝くことになるが、そうした数字上で表わされる両者のほんのわずかばかりの「速さの差」こそがまた、いかにもポルシェらしいマーケティング戦略の結果によるものと感じられる。
一方、これまで「最速の911」、「サーキット生まれの911」と称されてきた「911ターボ」と「911GT3」を交えての911シリーズ内での「3者比較」となっても、911GT2は興味ある立場をアピールする。
911ターボ/911GT3が奇しくも同数値を発表してきた310km/hという最高速度に対し、911GT2は前出のように329km/hで「圧勝」。また、21.1/21.0秒というターボとGT3の0→1000m加速タイムに対しても、やはり前出の通り1秒以上の差を付ける結果を示している。
911ターボからは1年半、カレラGTに対してはすでに丸4年というデビュータイミングの差を考えると、こうした「微妙なサジ加減」はやはり予めシナリオができていなければ不可能なことだろう。
すなわち、911GT2というのは現行モデルはもちろん、過去のモデルを含めても「911シリーズで史上最強・最速」、それでいながら、トップ・オブ・ポルシェとして鳴り物入りで発売されたカレラGTに対しては、わずかながらも下というポジションを与えられたのだ。このあたりに、類まれなるポルシェ社の「マーケティング能力の天与の才」が感じられるのである。
徹底した軽量化がもたらした驚異的な運動性能
そんな911GT2の走りをドイツは北西部の都市、ブレーメン近郊で開催された国際試乗会で堪能してきた。
オランダとの国境にもほど近いこの近辺は比較的平坦な地域。そのために、(パワーウエイトレシオわずかに2.72kg/psというモデルのテストドライブのためには幸か不幸か?)ワインディングロードの類はほとんど見当たらなかったものの、比較的交通量が少なく、かつ速度無制限区間も多数存在したアウトバーンで、その高速性能のほどをタップリと試すことができた。
とにかく、フルブースト状態での911GT2の加速力のほどは、速いクルマに慣れていない人であれば「それだけで気分が悪くなってしまうのでは?」と思えるほどに強烈だ。1速ギアはおろか、2速ギアにバトンタッチをしてからさえ、あり余るパワーはドライ路面上にある325/30というサイズのファットなシューズを、隙あらば空転させようと虎視眈々と狙う。
実際には、ついに標準装備化された「PSM」に含まれるトラクションコントロール機能がそれを監視するのでそうした事態には陥らないが、それでもチタン製マフラーが与えられ、エクスパンションインテークシステムなる新発想の吸気系が採用されたこのモデルの心臓は、それほどの怪力を発するというわけだ。6800rpmというレッドラインまで回り切ったところで最高速を発するギア比が与えられた第6速に入っていてさえ、フルブースト状態に達すれば「シートバックに押さえつけられる加速力」を感じると言えば、その凄さのほどを少しは理解して貰えるだろうか。911ターボ比で0.4バール高い1.4バールという最大過給圧を与えられた心臓が生み出す530psというパワーと680Nmというトルクは、それほどまでに強烈なのだ。
その一方で、アイドリング+αという1000rpm付近でもトコトコと走り続け、2000rpmも回れば「力強さ」も実感させてくれるというフレキシブルさも持ち合わせている点には半ば呆れるばかり。そんな低回転域での実用性はむしろ「911ターボ」の場合以上とも思えるものだったが、改めてチェックしてみれば前輪駆動系を「放棄」し、リアシートも取り去るなどした911GT2は150kg近くも軽量。このモデルの場合、「軽さはすべての運動性能に効く」というセオリーは、街乗りシーンでこそ最も実感ができるということだ。
電子制御の可変減衰力ダンパー「PASM」が標準装備されたのもニュースの911GT2だが、それでもさすがにその乗り味はハード。ボディ剛性感が際立って高く、振動をたちどころに減衰させてしまうので不快感は最小だが、それでもこのモデルを毎日の足にしなければならないとなると、それなりの覚悟が必要だろう。
2008年、ポルシェのもう1台の注目モデルはカイエンGTS
というわけで、カタログ上のデータだけではなく、ドライブをしても「史上最強・最速の911」らしさが実感として存分に味わえるそんな911GT2と共に、2008年の注目車として期待したくなるポルシェが、やはりフランクフルトモーターショーでお披露目した「カイエンGTS」というモデルでもある。
このモデルで注目に値するのは、911GT2のようなシリーズ最速のモデルではなく、「シリーズ中で最もスポーティなモデル」というキャラクターが与えられた点にある。カイエンシリーズ中の最速モデルは「カイエン ターボ」でも、最もスポーティなモデルは「カイエンGTS」、というのは、まさに911シリーズにおける「911GT2」と「911GT3」のような関係だ。
「カイエンS」用のものをベースとしたV8エンジンは、吸気システムのリファインなどで20ps増しの405psを発生。さらに注目すべきはその足まわりで、このモデルにはメカニカルスプリング+PASMという「スポーツカーレンジと同様の組み合わせ」をカイエンとして初めて実現している。5速AT(ティプトロニック)も用意はされるが、開発陣のオススメは6速MT仕様で、0→100km/h加速タイムは6.1秒とまさに一級スポーツカーと言ってもいい。残念ながらまだテストドライブがかなっていないが、見方によってはこの「最もポルシェらしいカイエン」と呼べそうなこのモデルもまた、2008年の幕開けには相応しいポルシェ発のモデルとなる。
同時に、911GT2とカイエンGTSの双方に共通して言えること、それはいずれのモデルもが現行型としては最後に投入されるグレードとなるのではないか、という点にもある。すなわち、それぞれのシリーズの完成形としてもまた注目に値するのがこの両車。そんなこのモデルたちを皮切りに「2008年のポルシェ」はどんな驚きを用意してくれるのだろうか。(文:河村康彦/Motor Magazine 2007年12月号より)
ポルシェ 911 GT2 主要諸元
●全長×全幅×全高:4469×1825×1285mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1440kg(EU)
●エンジン:水平対向6DOHCツインターボ
●排気量:3600cc
●最高出力:530ps/6500rpm
●最大トルク:680Nm/2200-4500rpm
●駆動方式:RR
●トランスミッション:6速MT
●最高速:329km/h
●0→100km/h加速:3.7秒
※欧州仕様
[ アルバム : ポルシェ 911 GT2 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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事故るような過激な走りをするより、
優雅に走りたいもんだ。