突出していないけれどバランスが良い、そんな「80点主義」的なトヨタ車が多いなかで極めて異例!? トヨタ車の“幅”を拡げた尖ったクルマは?
2020年に国内で販売された小型/普通車の内、トヨタ車が51%を占めた(レクサスを含む)。軽自動車を加えた市場全体では33%になる。
電動化しかないのか!? モータースポーツの近い将来はどうなる?
トヨタは大量なクルマを販売しているから、商品も不特定多数のユーザーに受け入れられるものが多い。その結果、保守的なメーカーと見られやすい。しかしなかには、少数ではあるが、個性的な商品も見受けられる。
本稿ではそんな良い意味で尖っていてトヨタらしくないクルマを紹介したい。
文/渡辺陽一郎 写真/TOYOTA
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■初代MR2/1984-1989
まさかトヨタがと誰もが思ったコンパクトミッドシップのMR2
クルマ好きのユーザーが「トヨタもここまでやるのか!」と驚いたのは、1984年に登場した初代MR2であった。コンパクトな2人乗りのスポーツカーで、エンジンをボディの中央に搭載するミッドシップ方式を採用している。
コンパクトなミッドシップスポーツカーとして、1973年に登場したフィアットX1/9がすでに有名だったが、それでも当時、ミッドシップは貴重なレイアウトであった。
初代MR2が発売された時のボディサイズは、全長が今のコンパクトカーと同等の3925mmで、全幅は1665mmに収まる。全高は1250mmと低い。フロントマスクには電動で昇降するリトラクタブル式ヘッドランプが装着されて外観は鋭角的だ。
エンジンは直列4気筒SOHC 1.5Lと、DOHC 1.6Lの2種類をそろえる。1.6Lは最高出力が130馬力(6600回転)、最大トルクは15.2kgm(5200回転)で、高回転域の吹き上がりが活発だ。
車両重量は940kg(5速MT)と軽く、サスペンションは前後ともストラットによる4輪独立懸架になる。ややクセが強いものの、軽快に曲がる運転感覚が特徴だった。
5速MTの価格(東京地区)は、1.5Lの「S」が139万5000円、1.6Lの「Gリミテッド」は179万5000円だ。
1983年に登場した同じ1.6Lを搭載するカローラレビン3ドア「GTアペックス」が154万8000円だったから、MR2はミッドシップスポーツカーとして割安だった。トヨタらしくないスポーツ性と、トヨタならではの買い得感を両立させた。
■iQ/2008-2016
独創的でかわいらしい外見のiQ。小さなボディと実用性を両立させた
革新的なトヨタ車として、2008年に発売されたiQも記憶に残る。独自のトランスミッションにより、前輪駆動車ながらもフロントオーバーハング(ボディが前輪よりも前側に張り出した部分)を短く抑えた。
この構造により、狭いながらも後席を備えた4人乗りの3ドアハッチバックでありながら、全長は2985mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2000mmと短い。最小回転半径は3.9mで、小回りの利きも抜群だ。
類似したクルマには、1997年に欧州で登場したスマートがあったが、エンジンを後部に搭載する2人乗りだ。荷室もきわめて小さい。その点でiQは4人乗りだから、後席の背もたれを倒すと荷室を拡大できる。全長が3m以下の短いボディと実用性を両立させた。
外観とレイアウトは独創的でトヨタらしくないが、使いやすい車内の造りにはトヨタらしさを感じた。
なおボディが極端に小さいこともあり、iQはエアバッグを9個装着する。運転席と助手席に加えて、左右席にサイド/カーテンエアバッグも備わる。
さらに運転席のニーエアバッグ、助手席には衝突時に座面の前側を持ち上げて乗員を固定させるシートクッションエアバッグも採用した。世界初とされる後面衝突に備えたリアウインドウカーテンエアバッグも装着されていた。
これらを装着したこともあり、発売時の価格は、最も安価な「100X」でも140万円と高めだった。売れ行きはいま一歩だったが、工夫の詰まった先進的なクルマであった。
■WiLLシリーズ
異業種合同プロジェクトとして発売されたWiLL Vi。横から見ると弧を描くような個性的なデザインだ
トヨタ、アサヒビール、花王、近畿日本ツーリスト、松下電器産業(現在のパナソニック)は、1999年に異業種合同プロジェクトの「WiLL」を立ち上げた。アサヒビールは「WiLLスムースビア」、花王は「WiLLクリアミスト」、松下電器産業は[WiLL・PC」という具合に各社が「WiLL」を冠した商品をそろえた。
トヨタはまず2000年にWiLL・Viを投入している。「かぼちゃの馬車」からイメージしたコンパクトなセダンボディは、横方向から見ると円弧を描くようにデザインされている。
リアウインドウは、通常とは逆向きに傾斜させ、後席は狭いが外観を個性的に仕上げた。キャンバストップも用意している。プラットフォームは初代ヴィッツと共通だ。
2001年にはWiLL・VSを投入した。外観はサイドウインドウの下端を後ろに向けて大きく持ち上げた。後方視界は悪いが、外観は戦闘機のように精悍だ。インパネも航空機をモチーフにしたもので、メーターはレーダー、ATレバーはスロットルレバー風の形状になる。
Viとは対照的に精悍なイメージに仕上げられたWiLL・VS
プラットフォームはカローラと共通だが、エンジンは直列4気筒1.8Lだから、スポーティな運転感覚を特徴としていた。
2002年にはWiLLサイファを投入した。プラットフォームはViと同じく初代ヴィッツと共通化され、丸みのある外観が個性的だ。通信機能に力を入れ、20年近く前のクルマなのに、ネットワーク接続を可能にした。
この機能を使ってWiLLサイファは「P-way/走行距離課金型リース」を実施した。代表的なコースだと、月々のリース料金(税金なども含む)は5500円で、1km当たり45円を課金する方法だった。
ただし、この設定だと、5年コースでもリース料金はわずか33万円だ。使われ方が1日当たり5kmの通勤や買い物だった場合、5年間/1825日でも9125kmに過ぎない。走行課金は約41万円だから、リース料金を加えても、5年間に税金まで含めて74万円しか払ってもらえない。
また1km:45円では、片道100km/往復200kmのドライブに出かけると、それだけで9000円取られてしまう。そこにガソリン代などは含まれないから、安いレンタカーよりも割高になる。つまりリース料金が安すぎて、走行距離課金額は高すぎた。
その結果、利用者はWiLLサイファの使用を控えるようになり、しかもトヨタカローラ店やトヨタビスタ店(現在のネッツトヨタ店)は「走行距離が短い人ほどオトク!」と宣伝を始めた。その結果、P-wayは短期間で終了している。
トヨタらしくないクルマに加えて、トヨタらしくないサービスの失敗まで見受けられた。
■初代プリウス/1997-2003
世界初の量産ハイブリッド車となったプリウス。培われた技術は今もトヨタの根幹を支える
ハイブリッドが大成功した今、初代プリウスは近年のトヨタ車の出発点のように見られるが、当時はトヨタらしくないクルマと受け取られた。なぜならトヨタは、新しいメカニズムには概して慎重な態度を取っていたからだ。
例えば後輪駆動は、他メーカーがひと通り採用した後に手掛けている。ターボエンジンの搭載などにも比較的慎重であった。
ところが初代プリウスは違った。エンジンとモーターを組み合わせる複雑な制御を1997年に市販車で実現させ、世界初の量販ハイブリッド車となった。しかも初代プリウスが採用したTHSの基本的な機能は、今でもトヨタのハイブリッド車にTHS IIとして生き続けている。
初代プリウスは、トヨタの優れた先見性を明確に表現している。将来的に有望な技術だから、早い時期から力を入れて開発を進め、20年後の今日を支える基幹技術になっている。燃料電池車のMIRAIも、プリウスと同じ道を歩むに違いない。
■C-HR/2013~
攻めたデザインでSUVをスポーツカー化させたC-HR。後方視界をある程度犠牲にしてデザイン性を優先させた
現行型でトヨタらしくないのはC-HRだ。外観は攻めたデザインで、C-HRコンセプト(モーターショーのコンセプトカー)をそのまま市販化した印象を受ける。未来的なデザインで、SUVのカッコ良さも明確に表現した。
その替わりに後方視界は劣悪だ。試しに駐車スペースに車両の前側から入り、後退しながら出てみたが、率直にいって怖かった。後ろを振り返っても、ほとんど何も見えない。カーナビ画面に後方の様子を表示する機能を備わるが、見える範囲は限られるから、目視と併用しないと不安だ。
開発者にトヨタの社内的な視界の基準がどうなっているのか尋ねると「C-HRはギリギリでクリアできた」とのこと。いろいろな意味でトヨタらしくないクルマだ。
しかし、このような個性的な車種があるから、トヨタに関心が集まり、主力車種が売れ行きを伸ばせた。その結果、小型/普通車で51%のシェアを獲得している。いつの時代でも、トヨタらしくないクルマが、トヨタのブランドイメージを高めているのだ。
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