欧州マツダが2020年5月20日に公式リリースを発表。同社初の世界戦略EV「MX-30」市販モデルのスペックを明らかにした。また2020年5月19日から、宇品第1工場(広島県)で生産を開始しているという。
すでにヨーロッパでは受注を開始しているMX-30だが、このスペックから読み取れる、現在の国内でのライバル車である日産「リーフ」やホンダ「ホンダe」と比較した場合どうなのか? 発表されている200kmという一充電走行距離は、SUVという実用性重視のモデルにあって適当なのか?
ついにモデル存続決定!マツダ CX-3 新エンジン追加で復調なるか
注目されるMX-30の性能や実用性について、自動車ジャーナリストの御堀直嗣氏が分析する。
文/御堀直嗣
写真/MAZDA、HONDA、Mercedes-Benz
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■明かされたスペック その実用性はライバルと比較してどうなのか
2019年の第64回東京モーターショーで公開された、マツダ初の電気自動車(EV)である「MX-30」の欧州向け詳細が、発表された。
前輪駆動で、モーターは107kW(キロ・ワット=145ps)、35.5kWh(キロワット・アワー)のリチウムイオンバッテリーを搭載し、一充電の走行距離はWLTCモードで200kmである。
外観の造形は、東京モーターショーで公開されたとおりで、SUV(スポーツ多目的車)であり、前後のドアはマツダ「RX-8」や、BMW「i3」などのように、前後のドアが観音開きのように開く。
MX-30には、マツダの新しい電気駆動技術である「e-Skyactiv1」が搭載されている
観音開きドアは、RX-8でも乗降性のよさが魅力だったが、より開口部の広いSUVのMX-30では使い勝手に大きく貢献しそうだ
2010年に日産「リーフ」が発売されて以降、10年の間にEVの一充電走行距離は300~400kmに落ち着きをみせはじめてきた。一方で、2019年春のスイスのジュネーブショーで公開され、同年秋の東京モーターショーでも出展されたホンダ「ホンダe」も、MX-30と同様に一充電走行距離は200kmとされている。
2010年の初代リーフが同じ200kmで、それでは長距離移動に不安があると消費者の声が多く寄せられ、今日の300~400kmがひとつの目安となった。2代目のリーフではさらにバッテリー搭載量を増やし、322~458km(バッテリー容量=40~62kWh)となって安心して購入できるEVとなり、販売台数を増やしている。
なぜ、MX-30やホンダeは、200kmとしたのだろう。
MX-30とホンダeのリチウムイオンバッテリー容量は、35.5kWhであるとされる。一方、初代リーフのバッテリー容量は、24kWhで、2/3ほどである。
また、200kmという走行距離について、初代リーフ時代はJC08モードによる数値であり、MX-30とホンダeはWLTCモードだ。どちらのモード測定も、空調は使わない数値ではあるものの、実用燃費との差を縮める目的で設定されたWLTCモードによる200kmという一充電走行距離は、実用に近い性能とみることができる。
日本でも2020年内に発売予定のホンダ「ホンダe」は、後輪駆動を採用する、全長4m未満のコンパクトEVだ。搭載するリチウムイオン電池の容量は35.5kWh、モーターのチューニングは2種類ある
初代リーフのJC08モードでの200kmは、空調を使う現実の走行において実質120km前後といえ、これではたちまち電力を使い果たしてしまうし、充電容量の減り具合をメーターで示されれば、不安にもなる。そこで、マイナーチェンジでバッテリー容量が30kWhへ増やされ、JC08モードながら一充電走行距離が280kmへ増えた。これをWLTCモードに換算すると、約220kmとなって、MX-30やホンダeが示すバッテリー容量および一充電走行距離に近づく。
そしてEVを利用し慣れた消費者からは、初代リーフの後期型の一充電走行距離があれば、日常的には問題ないとの認識が広がっている。たとえば、片道100kmを通勤する人も、家で充電すればぎりぎり往復できる。
ちなみに東京から100kmというと、栃木県の宇都宮や、静岡県の御殿場あたりまでの距離になる。これほどの長距離を毎日通勤している人はそう多くはないのではないか。ということは、200km走れると実用性が出てくるということだ。
DC(直流)急速充電を使用することで、約40分以内に80%まで充電できるという
もちろん、以上は一例であり、2代目の「現行リーフe+」の460km近い距離に安心したり、使い勝手に期待したりする消費者があっていい。だが、バッテリー容量が増えれば当然車両価格も高くなっていく。
メルセデス・ベンツの「EQC」は、MX-30同様にSUV(スポーツ多目的車)として発売され、その一充電走行距離は400kmだ。SUV同士という商品性からすると、MX-30の200kmは、SUVとしての実用に足りるのかとの疑問は残る。
ダイムラーが立ち上げたEV専用ブランド「EQ」の第一弾となる量産モデル、クロスオーバーSUV仕立ての「EQC」。前後車軸に1基ずつ駆動用モーターを搭載した4WDで、日本での販売価格は「EQC 400 4MATIC」が1080万円となっている
しかし、MX-30は前輪駆動として発売される予定であり、開発責任者に取材した印象からすると、人気のSUVの姿をしていながら、日常的に通勤や生活の中で使うEVとしての位置づけに重きを置くようであった。観音開きのドアとし、センターピラー(前後ドア間の支柱)がない車体構造は、未舗装路での過酷な走行には向かないのではないか。
一方のEQCは、前後にモーターを備える四輪駆動車であり、前後のモーターの駆動力制御も別に行っていて、日常性と、高速や未舗装路での扱いなど広く視野に入れたEVである。しかもMX-30の2倍以上の80kWhというバッテリー容量を搭載しながら、一充電走行距離は2倍にとどまる。
速度無制限区間を持つアウトバーンがあることにより、より高速での連続走行を視野に入れながら、モーター2個を搭載した四輪駆動性能を満たすためバッテリー容量を増やした結果、車両重量が重くなり、バッテリー容量を増やした分の距離を、比例的に延ばすことができなくなったといえる。
ここが、EVの走行距離とバッテリー容量(および重量)との調和の難しさである。効率を高める技術の進化・向上があるとしても、電力と重さとのしがらみは、バッテリーにとって切り離せない要件になる。
■ロータリーエンジン採用のレンジエクステンダーにも期待
そこで、考えられるのが、エンジン発電機を搭載することによるレンジエクステンダーという発想だ。マツダは、2013年に「デミオEV」で試作を行っている。
デミオEVのレンジエクステンダーは、ロータリーエンジンを使い、デミオという小型車の荷室下に搭載できる寸法で、180kmの走行距離を確保できる性能を持っていた。JC08からWLTCに換算したうえで、これをMX-30に当てはめれば、200+140で340kmへ走行距離を延ばすことができる。
レンジエクステンダーという着想は、BMW「i3」でも用いられている。そしてi3の発売当初、ドイツではレンジエクステンダーを装備しないEVのほうが台数で上回った。つまり、日常のクルマ移動を想定できる人であれば、レンジエクステンダーさえ不要だということだ。
そのうえで、万一の不安があるなら、レンジエクステンダーを装備すればよい。日本人は、万一の場合を気にする国民性もあり、i3のレンジエクステンダー仕様のほうが多く売れたと聞く。
マツダなら、レンジエクステンダーの効用は実証済みであり、伝統のロータリーエンジンを使って実現できる。しかも、デミオEVで試作されたレンジエクステンダーは、ロータリーエンジンを水平に搭載し、振動も騒音も少なく快適であった。このことは、マツダが「ロータリーエンジンの開発を続けている」としたこれまでの発言とも符合する。
CX-30をベースとしたプロトタイプEVの発表時に存在が明かされた、ロータリーエンジンを採用したレンジエクステンダー。今のところその詳細はつかめていないが、話題性、静粛性などほかの発電用エンジンと比べて強みがある
MX-30のバッテリー冷却方式はまだ明らかでない。それでも日常の用途を基準とした速度と距離を前提に、空冷式を採用できれば、EV後のバッテリーに二次利用をしやすくなる。
一方、ホンダeやドイツなどのEVは、液体冷却を前提としているようだ。それでは、EV後の二次利用がしにくく、EV後にまだ60~70%容量を残すリチウムイオンバッテリー資源を無駄にすることにつながる。
EVが、ただ排出ガスゼロで環境によいだけで済まない時代となっており、単にクルマとして最高の性能や効率を追求するだけでなく、社会へいかに貢献し、限りある資源を無駄にせず、快適な生活と地球環境を守れるかが、EV開発の肝である。
日産は、初代リーフの発売からそこまで配慮し、バッテリー再利用をすでに事業化している。マツダも、「SKYACTIV(スカイアクティブ)」で世界にエンジンの可能性を示したように、EVにおいてもSKYACTIVの名に恥じない戦略で挑戦してほしいと願う。
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みんなのコメント
品質と価格次第だなぁ〜