改良を受けた新しいメルセデス・ベンツの「Vクラス」は、全方位で進化していた! 試乗したサトータケシがリポートする。
ビッグなマイナーチェンジ
メルセデス・ベンツのVクラスがマイナーチェンジを受けた……と、書き出してはみたけれど、“マイナー”という言葉を使うには、その改良はあまりにも大がかりだ。
まず、フロントマスクを含めた顔が変わって、インテリアも一新されて、「ハーイ、メルセデス」と、呼びかける音声操作のMBUX(メルセデスベンツユーザーエクスペリエンス)が加わった。さらには、エアサスペンションも装備されるようになった。
ビッグなマイナーチェンジ、というのも大きな子犬みたいでヘンだけれど、とにかく新しいVクラスのモデル構成から紹介したい。
ボディは、標準(全長4895mm)、ロング(同5140mm)、エクストラロング(同5370mm)の3タイプ。ロングとエクストラロングにはハイエンドのEXCLUSIVEモデルが設定され、それぞれ「Platinum Suite(プラチナムスイート)」、「Black Suite(ブラックスイート)」と名付けられた。
大きく変わったなかでパワートレインだけは不変だ。最高出力163psを発生する排気量2.0リッターの直列4気筒ディーゼルターボエンジンと「9Gトロニック」と、呼ばれる9段ATの組み合わせのみ。駆動方式は後輪駆動となる。今回試乗したのがロングボディのEXCLUSIVEモデル、メルセデス・ベンツV220d EXCLUSIVE long Platinum Suiteだ。
ラジエターグリルがガバっと口を開けたような大きなものになり、そこに眼光鋭い新デザインのLEDヘッドランプが組み合わされるから、新しいVクラスのフロントマスクはかなり迫力が増した。また、EXCLUSIVEモデルとオプションのAMGラインを選んだ仕様は、ラジエターグリルの枠が光り輝く。もうひとつ、EXCLUSIVEモデルのボンネットには、スリーポインテッドスターのボンネットマスコットも備わる。
外観以上に大きく変わったのがインテリアで、最新のメルセデス各車と同様に、メーターパネルとセンターディスプレイが一体化したものになっている。
メルセデスのミニバン、頼りがいがあります。運転席に乗り込み、「ハーイ、メルセデス」と、呼びかけてナビゲーションの目的地とオートエアコンの温度を設定してから、試乗を開始する。
スタートして真っ先に感じるのは、エアサスペンションが効果的に機能していること。決してふわふわするわけではないけれど、荒れた路面からの衝撃を上手にいなしてくれる。
エアサスと連続可変ダンパーを組み合わせたメルセデスのAIRMATICサスペンションは、路面のコンディションや走行シーン、ドライバーの操作に合わせて乗り心地と姿勢変化を最適化する仕組み。単に快適なだけでなく、これだけ大柄で背が高いボディなのに、ワインディングロードをきれいなコーナリングフォームでクリアするのには舌を巻いた。
ここで後席の乗り心地を確認するために、運転を交代してもらう。はたして、2列目シートもコンフォータブルだった。広々とした空間で、ゆったりとした乗り心地に身を委ねることができる。運転席と助手席は乗り心地がいいのに2列目と3列目はいまいち……というミニバンも多いなか、Vクラスは後席の乗員も楽しく移動できる。
で、試乗を続けていくうちに、トヨタ「アルファード」や「ヴェルファイア」、レクサス「LM」、日産「エルグランド」、ホンダ「オデッセイ」といった日本のミニバンとはまるで異なる種類のクルマだということがわかってくる。
まずVクラスの美点は、速度を上げれば上げるほど、フラットで快適になること。ここでも、AIRMATICサスペンションがしっかりと機能しているようだ。
悪路を突破してもミシリとも言わないほどボディは堅牢で、硬くて丈夫な乗り物が抜群の安定感で高速で移動していると感じる。そしてこの印象が、絶大な安心感につながる。もちろんファミリーカーとして使ってもいいだろうし、VIPを乗せるプロフェッショナルもこの安心感には納得するだろう。
弱点は、加速中のエンジンノイズだ。高速クルーズで一定回転を保って走っているときには騒音も振動も抑えられているけれど、市街地やワインディングロードなどでアクセルペダルを踏んだり戻したりしていると、ノイズの大きさが気になる。救いは音質が耳障りではないことだけれど、音量はかなりデカい。
2.0リッター直4ディーゼルターボは380Nmという大きなトルクを1600rpmという低い回転域から発生しているけれど、いかんせん車重が2.5tを超えるから、アクセルペダルを踏み込む頻度も高くなり、ノイズを感じる機会も増える。
まぁ、クルマ業界には、「NVHでは人は死なない」という格言もある。NVHとはノイズ(騒音)、ヴァイブレーション(振動)、ハーシュネス(路面からの突き上げ)のことで、こうした快適性の指標よりも、安全に走ることができる性能のほうが大事だろうという意味だ。人をたくさん乗せるミニバンだからこそ安定性と安心感を最優先するという考え方があっても自然だ。
試乗前は、ミニバンは日本に任せなさい! と考えていた。けれども実際に乗ってみると、そもそもの考え方がまるで違った。メルセデスのミニバン、頼りがいがあります。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
ミニバンとは思えない仕様
そもそも「MINI VAN」とはVAN即ち箱商用車の、フルサイズよりMINI SIZEのものを言う。「ミニバン」という言葉が出来たのはシボレーアストロブーム。Full size VAN(ダッジVANが有名)が全長5.8m前後、全幅2m前後だったのに対し、全長4.8m、全幅1.9m程度だったからMINI SIZE。
しかし、日本ではボンネットがあり、商用車が無いものが「ミニバン」の称号を与えられた。から、Vクラスに対抗した商用車ベースのグランエースは全く売れなかった。エアサスは無いが、価格は半値だったのに。
Vクラスは3列目も2列目と同等のシートが屠られている。対してアルファードは畳むことを優先した、埋め込み式のヘッドレスト。「面倒くさい」と上げなかったら、追突されたら良くて鞭打ち、最悪頸部損傷で死ぬ。