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最上級コンバーチブル ロールス・ロイス・シルバークラウドIII キャデラック・シリーズ62 前編

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最上級コンバーチブル ロールス・ロイス・シルバークラウドIII キャデラック・シリーズ62 前編

人生における勝者が乗るトップ・モデル

贅沢な暮らしを象徴する乗用車として、60年前にこの2台が同じ土俵に並ぶことはなかっただろう。だとしても、壮観な眺めだ。

【画像】最上級コンバーチブル 1960年代のロールス・ロイスとキャデラック 現行モデルも 全103枚

優雅で堂々としたロールス・ロイス・シルバークラウドIIIは、世界最高のクルマとして今以上にブランドが認知されていた時代に、最上級モデルとして生み出された。極めて高価で、我がモノにできる人はほんの一握りだった。

同時期のキャデラックも、アメリカの自動車産業を代表する最高のブランドとして、多くの人に理解されていた。特にコンバーチブルは、技術力や工業力、文化力といたものを雄弁に表現していた。人生における勝者が乗る、トップ・モデルといえた。

フォードの上級ブランド、リンカーンと、クライスラーのインペリアルの販売台数を合算しても、当時のキャデラックには及ばなかった。1960年には、リンカーンの5倍も多く売れていた。

キャデラックに乗ることが、アメリカでは夢の暮らしの1つ。より大きく、より贅沢なものが、新時代だと考えられていた頃を象徴していた。

とはいえ、シリーズ62のサルーンやクーペなどと比べて、コンバーチブルを熱望する人は限られた。超豪華なエルドラド・ビアリッツと、若干控えめなシリーズ62 2ドア・コンバーチブルの2種類から選べたとしても。

1959年にモデルチェンジした6代目のフェイスリフト版として、1960年にも頂上部に君臨していたのがシリーズ62だ。尖ったテールフィンは少しマイルドになり、フロントマスクもシンプルになっていたが。

特別な製造ラインで作られたキャデラック

シャシーは、130インチ(3302mm)という長いホイールベースを持つ、Xフレーム。ボートのように巨大な2295kgのボディを、390cu.in(6.4L)という大排気量のV8エンジンが押し出した。最高出力は329ps、最高速度は193km/hがうたわれた。

1960年に生産されたキャデラックは、14万2184台。そのうち、約1万4000台をシリーズ62の2ドア・コンバーチブルが占めた。

ロールス・ロイスのように丁寧に職人が仕上げることはなかったが、1959年式と変わらず、注意深く組み立てられていたことは間違いない。アメリカの自動車製造ラインとしては、最も流れる速度が遅かったという。

エンジンも精巧さが求められた。ゼネラル・モーターズ(GM)のなかでも、特に厳しい精度で組まれている。

メカニズムも、高い洗練度が目指されていた。そのため多くの部品がブランドの専用。ドアロックやシート、ヘッドライトの角度調整などは電動化され、ラジオもオートチューニングが内蔵されていた。ロールス・ロイスの技術者が、想像した以上といえた。

ソフトな乗り心地を支えたのが、オプションのエアサスペンション。ただし、不具合も少なくなく、1960年で廃盤となっている。

それ以外の構成は、保守的でもある。大きく堅牢なリジッドアスクルもその1つといえるが、大きく重いセパレート・シャシーが与えられた当時のモデルにとって、バネ下重量を軽くしても目立ったメリットがなかったことは事実だ。

サルーンのボディシェルを職人が加工

一方で、ロールス・ロイスは1955年から1965年にかけて生産されたシルバークラウドに、キャデラック譲りのハイドラマティックと呼ばれるオートマチックを採用。従来以上に高速道路へ最適化されたモデルとなった。

やや小さめのシルバードーンとは異なり、シルバークラウドは不足なく大きく、アメリカの一般道でも他を圧倒する存在感を放った。何しろ当時は、普通のフォードやシボレーですら、5mx2m以上のフルサイズだった。

新しい6230ccのV8エンジンを搭載した1960年式シルバークラウドIIは、裕福なアメリカ人にとっても不満のない動力性能を与えた。実際、コンバーチブルの多くは、大西洋を超えて北米市場へ輸出された。

俳優のサミー・デイビス・ジュニアやトニー・カーティスも、オーナーの1人。裕福な英国人も、雨がちな風土の中で楽しんではいたけれど。

多くのロールス・ロイスと同様に、1959年から1963年にかけて作られたシルバークラウドのアダプテーション・ドロップヘッド・クーペには、見た目以上の内容が与えられている。特にその美しいボディは、注目に値する。

最初からルーフレスで作られたのではない。プレスド・スチール社からノーサンプトンのコーチビルダー、HJミュリナー社へサルーンのボディシェルが運ばれ、職人が加工したものだった。専用のスチールパネルで、見事に仕上げられていた。

V8で人気を掴んだシルバークラウド

HJミュリナー社では、ルーフとBピラーを切断。フロントドアを延長し、ソリッドマウントでボディをシャシーに固定して、クルーへ送り戻した。

そこで塗装と配線、内装のトリミングなどが施されると、再びHJミュリナー社へ。PVC製のリアウインドウと内張りが付いた、ソフトトップが架装された。電動の開閉機構は当初オプションだったが、後に標準装備となっている。

ダッシュボードはサルーンと共通。ベンチタイプのフロントシートも同様だが、約100mm幅の狭いリアのベンチシートにアクセスしやすいよう、約100mm前方にずらされている。

1959年4月のニューヨーク・モーターショーで、直列6気筒エンジンのシルバークラウドIと、エンブレム違いのベントレーS1のドロップヘッド・クーペがデビュー。だが短命で、ロールス・ロイスが13台、ベントレーは2台しか作られていない。

その半年後にV8エンジンを載せたシルバークラウドIIとS2が登場。アメリカでの人気が上昇し、ロールス・ロイスが74台、ベントレーは30台届けられた。

最初にドロップヘッド・クーペのスタイリングを手掛けたのは、ロールス・ロイス・グループに属していたパークウォード社。既存の4ドアサルーンをベースに、短時間で効果的に、最上級のオープン仕様を作ることが目指された。

しかし同社はあまり乗り気ではなく、1958年3月にベントレーS1のプロトタイプ1台のみが形になった。その後、1959年にHJミュリナー社がグループとして合併。カタログに載る量産モデルとして、アダプテーション・ドロップヘッド・クーペの販売が決まった。

この続きは後編にて。

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