中国のEV戦略を取り上げた全4回の短期集中連載。連載1回目では“脱炭素の波”に乗った「BYD」の躍進。2回目では“NEV(新エネルギー車)”を次世代産業の核として進める国の動きを追った。
3回目の今回は「ファーウェイ」に焦点をあてる。世界最大の通信システム会社が自動車業界へも触手を伸ばす。それはつまり、日本のEVにも少なからず影響を与える、ということになる!?
中国EVの全世界を見据えた大攻勢がはじまった トヨタ ホンダ 日産… 国内メーカーはどう受けて立つ??【第3回/全4回】
※本稿は2022年3月のものです
文/近藤 大介、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年4月26日号
■「航続距離を一気に伸ばせる」特許を取得したファーウェイ
「特許番号CN114083977A」──2月25日、ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)の子会社として、昨年6月7日に発足した「ファーウェイ・デジタルパワー・テクノロジーズ(華為能源技術)」が、有力な特許を取得した。
そのニュースは、中国の自動車業界関係者の間で、ひとしきり話題になった。
それは、EV(電気自動車)の駆動システムに関する特許。この駆動システムを使えば、車内の電動効率が格段に改善され、航続距離を一気に伸ばせるという。
話は3年前に遡る。2019年5月下旬、私は中国広東省市区にある、通称「坂田(バンティエン)」と呼ばれる地域を訪れた。
隣接する香港の2倍以上にあたる人口1750万人を擁する巨大都市・深圳。そこで「坂田」と言えば、世界最大の通信システム会社のファーウェイ本部を指す。広大な本社の敷地と、それを囲うようにタワマン社宅群が広がり、視界の及ぶかぎりファーウェイだ。
巨大なファーウェイ本社/写真右はガラス張りの巨大なファーウェイ本社ビル(写真手前はヤシの木)。左はその本社を囲うように並ぶ社宅群。この規模はハンパない!
ファーウェイは、1987年に元人民解放軍の技師、任正非CEO(現在77歳)が創業した。今では世界170カ国に19万人以上の従業員を抱え、世界の5G(第5世代移動通信システム)覇権を握ろうとしている。
それに危機感を強めた米ドナルド・トランプ政権が、なりふり構わぬファーウェイ叩きに走ったことは、まだ記憶に新しい。
そんな「坂田」地域で行われていたのは、スマートシティの実験だった。街を俯瞰した大型映像パネルの前で、ファーウェイの担当者はこう言った。
「我々は龍崗区(人口400万人)から委託を受けて、ここ5年近くスマートシティの実験を繰り返しています。2023年頃に5GがloT(モノのインターネット)とつながると、スマートシティは一気に加速していきます。そしてその中核をなすのは、家とクルマなのです」
スマートシティとは、早い話が「すべてがインターネットでつながった都市」という意味だ。
まず自宅のあらゆる家電製品が、インターネットで一体化される。同じように、移動手段としてのクルマも、一体化されていく、というわけだ。
「これまでの概念では、クルマはモーター製品です。ところがスマートシティの概念では、クルマは、『家の外へ出た、インターネットでつながった家電製品』なのです。
そのため、ガソリン車をEVに置き替えていくことが第一段階になります。第二段階は、それが自動運転車に代わっていくことです」(同前)
■EVというのは、言ってみれば『走るスマホ』です
トヨタが「スマートシティ構想」を発表したのは、翌2020年1月7日のことだ。静岡県裾野市で実際に造成工事を始めたのは、昨年3月。その時点で、ファーウェイより5年以上も遅れている。
自動車メーカーがスマートシティの運営を目論むのなら、通信システム会社が自動車の走行を運営したほうがスムーズにいくのではないか?
そう思った私は、前出のファーウェイの担当者に、「自動車分野に進出する予定はないのですか?」と聞いてみた。すると意味深な笑みをたたえながら、こう答えた。
「いまのところ、その予定はありません。なぜなら我が社の創業者・任正非CEOは、『金融・不動産・自動車産業には進出しない』という経営哲学を、以前から持っているからです。
しかし、個人的な見解を言わせてもらえば、金融と不動産業に行くことは、今後ともないと思いますが、クルマに関しては不透明です。なぜならEVというのは、言ってみれば『走るスマホ』だからです。
我が社はすでに、中国を代表するスマホメーカーなのですから、EVはその延長として考えればよいわけです」
この担当者の予見は、昨年4月になって現実のものとなった。
4月19日に開幕した上海モーターショーで、ファーウェイは自動車業界への進出を宣言。これが昨年の上海モーターショーで最大の話題のひとつとなった。
具体的には、ショーの開幕前日の18日、ファーウェイは上海で、クルマ関連の製品発表会を開催した。そこで王軍(おう・ぐん)スマート車解決方案BU総裁が、こう述べたのだ。
「ファーウェイは今後、毎年10億ドルを投入し、5000人の自動運転研究者を養成していく」
この発表会を、私は東京からオンライン中継で見た。中国国内では、「世界の5Gの覇者が、ついにEVに参入」というニュースでもちきりとなり、そのニュースは世界に拡散していった。
こちらはトヨタが進めるスマートシティ「ウーブン・シティ」。東京ドーム15個分の土地に2000人が暮らし、技術やサービスの開発・実証を行う。壮大な計画はすでに始まっている
■「アップルやグーグルも自動車業界への参入を表明しています」
そこで翌5月、ファーウェイジャパンの王剣峰(おう・けんほう)会長に、緊急インタビューした。
これまでマスコミ嫌いで知られたファーウェイの日本代表が、日本人記者のロングインタビューに応じたのは初めてのことだった。
そのなかで、EV進出についての一問一答は、以下のとおりだ。
* * *
近藤 ファーウェイがついに、クルマを作るんですか?
王 作りませんよ。EVを作るのは、あくまでも自動車メーカーです。ファーウェイは、一部の技術や部品などを提供するということです。
考えてみてください。我が社はICT(情報技術)を核とした会社です。今後世界で主流になっていくであろう自動運転車というのは、ICTのようなものではないですか。
近藤 それはまさに、ファーウェイが最も得意とする分野ですね。
王 そうです。実際、アメリカでも、アップルやグーグルが自動車分野への参入を表明しています。
近藤 自動運転車用の3次元立体地図も、ファーウェイが作るんですか? やはり上海モーターショーで、ファーウェイの幹部が、『今年中に中国全土の高速道路および北京・上海・広州・深圳の一般道の高精度地図の商用化を実現し、2022年には20都市以上をカバーする』と発表しました。
王 地図に関しては、2018年に専門の会社と提携して、開発を進めています。自動運転には高精度地図が欠かせないから、推し進めています。
* * *
以上である。
王会長の話ぶりから、ファーウェイ内部では、自動車分野への進出を、かなり用意周到に進めてきたことが窺えた。
かつ、私は「深圳の常識」と現地で言われたことを思い出した。
■20年後、家からドローンに乗り込んで会社や学校へ行く
まず1次元のスマホが、基本として存在する。それが2次元になって動き出したら、自動運転のEVになる。さらに3次元になったら、ドローンになるというものだ。
やはり深圳に本社を置く世界最大最強のドローンメーカー、DJI(大疆創新)の幹部は、こんな見解を述べた。
「おそらく20年後には、自宅の玄関はベランダになるでしょう。毎朝、会社や学校へ行く時、ベランダで靴を履き、ドローンに乗り込んで、『行ってきます!』と家族に挨拶するわけです。
そこへ至るEVも、自動運転車も、ドローンも、中国が世界最先端の技術を有しています。そのため20年後には、世界中の人々が中国製の『未来のクルマ』を愛用していることでしょう」
私はこの話を聞いた時、22世紀のドラえもんがもたらしたタケコプターの世界が、21世紀の中頃に実現することに、心を躍らせた。ドラえもんは正しかったのだ!
■中国製「未来のクルマ」を愛用するのは楽観的すぎやしないか
それと同時に、世界中の人々が中国製の「未来のクルマ」を愛用するというのは、楽観的すぎやしないかと思った。なぜなら、いま日本の国会で法案が審議されている経済安全保障の側面が入ってくるからだ。
現在主流のガソリン車が、やがてEVに代わっていき、それが自動運転車になっていくというのは理解できる。だがそうなった時のクルマは、重ねて言うが「走るスマホ」だ。ということは、そのデータを誰が握るのかということが重要になってくる。
仮に日本のある町に、ファーウェイがスマートシティを構築し、中国の自動運転EVを走らせたとする。そうすると、EVのデータを始めとするスマートシティ全体のデータが、中国に行ってしまうリスクが出てくる。
実際、中国人観光客が日本で使用したアリペイやウィチャットペイの決算データは、中国へと渡るのだ。
ファーウェイも中国のEVメーカーも、「そんなことにはならない」と言うだろうし、実際には中国へ行かないのかもしれない。だがその町に住む日本人に、疑心暗鬼になる人は出るだろう。町には警察署もあれば税務署もあるのだ。
そうしたことを勘案すると、日本の近未来には、私たちが乗るEVにも、経済安全保障法が関わってくるかもしれない。
少なくとも、これまでのガソリン車以上に、政治問題が絡んでいきそうな気がする。
(全4回の第3回。第4回(13日(金)20時公開)に続く)
●近藤大介…1965年生まれ。東京大学卒業、国際情報学修士。講談社『現代ビジネス』『週刊現代』特別編集委員、編集次長。主著に『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』(講談社現代新書)、『アジア燃ゆ』(MdN新書)ほか
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みんなのコメント
将軍ちゃま怒っていたぞ!
ミサイル行くぞ
ダメだダメだと言いながら国内を軽視してきたからダメになっているんですよ。
国別で見れば決して小さい市場でも無いし生産能力も小さくは無いのに軽視する意味が本当に理解出来ないですよ。