「63」という数字はメルセデスAMG SLの中ではもっともパワフルなエンジンを積むことを意味する。しかしながら粗野や野蛮といった言葉とは無縁の、きわめて完成度の高いモデルに仕上がっている。(Motor Magazine2023年9月号より)
ソフトトップの採用で得たメリットは少なくない
個性的なパナメリカーナグリルのセンターにはスリーポインテッドスターのエンブレムが堂々とその存在を主張しているものの、フロントノーズの先端にあるのは、林檎の木にバルブなどの図柄をあしらった、メルセデスAMG社のエンブレムだ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
それは1954年に誕生した初代から数えて第7世代に相当する現行SLクラスの成り立ちを物語る何よりの証明だ。
SLクラスは、この第7世代からメルセデスAMGにその開発が移行した。メルセデスAMGにはトップモデルに一連のGTシリーズなどが存在するが、究極のパフォーマンスをカスタマーに提供することを目的に設立された同社にとって、伝統のSLクラスをホワイトペーパーから設計できる価値は大きかった。より多くのカスタマーにメルセデスAMGの世界を味わってもらえる新たなチャンスなのだから。
かくしてメルセデスAMGによって新設計された新型SLには、さまざまな特徴がある。まずはそのエクステリアデザインは、これまでのリトラクタブルハードトップ(バリオルーフ)に代えて、電動式のソフトトップを採用。このソフトトップは3層構造で、アウターシェルとインナーシェルの間に高品質素材によるアコースティックマットをサンドウィッチする構造が採用されている。
実際にクローズ状態で走行してみても、外部からのノイズがキャビンに届くことはほとんどない。オープン&クローズ時のプロセスに必要な時間は15秒。走行中でも60km/h以下であれば操作可能
という使い勝手の良さも魅力だ。
豪華な雰囲気に満ち溢れたインターフェイス
ソフトトップをクローズした時のボディシルエットにも、違和感を抱くことはない。今回のフルモデルチェンジで、ボディサイズは全長4705mm×全幅1915mm×全高1365mmと若干大型化されているが、その大きさを強く感じさせないのは、やはりデザインの妙といったところか。
軽量化や重心の低下を含め、ソフトトップへの回帰は正解だったように個人的には思う。参考までに新型SLのCd値は0.31。これも十分に評価できる数字といえる。
キャビンの仕上がりも、また現代の最先端を意識させるものだ。センターコンソールに11.9インチのタッチ式ディスプレイを備え、対話型のインフォテイメントシステム,MBUX(メルセデス・ベンツユーザーエクスペリエンス)を標準装備。他車からの情報をもとに交通インフォメーションを得るCar-to-Xコミュニケーションの搭載も実現している。
試乗車にはオプションのクリスタルホワイト/ブラックのナッパーレザーを採用したインテリアトリムやブルメスター製の高級オーディオが選択されており、キャビンはさらに豪華な雰囲気に満ちあふれていた。
さらにもうひとつ見逃してはならないのは、リアにプラス2シートが標準装備されたこと。過去に3代目、4代目のSLクラスで、オプションでプラス2シートを設定した例があるが、今回それが復活したのは実用面では非常に嬉しい話題であり、これもまたソフトトップ採用の副産物と言ってもいいだろう。
走りはパワフルだが繊細かつ完璧な制御で安心感がある
それでは実際の走りはどうか。今回試乗した新型「SL63 4マティック+」に使用されるエンジンは、M177型と呼ばれる4LのV型8気筒ツインターボ。90度のバンク角内にツインターボのメカニズムを搭載する、「ホットインサイドV」レイアウトで、最高出力585ps、最大トルク800Nmmを実現している。
組み合わせられるトランスミッションは9GトロニックATをベースに電制湿式クラッチ式としたスピードシフトMCT。同時に低負荷時には気筒休止を行うなど、環境面への配慮も忘れてはいない。
ドライブを始めてすぐに感じるのは、このエンジンが低速域から発揮する厚みのあるトルク。アクセルペダルを一気に踏み込めば、もはやそれを無駄なく路面に伝えることは不可能とも思えるが、実はこの新型SL63の駆動方式はSL史上初の4WD。
さらにリアには電子制御のLSDも装備されているから、実際に無駄になるトルクは、従来型よりはるかに少ない。1940kgの車重に対して3.6秒という0→100km/h加速はそれを証明する数字でもある。
「インディビジュアル」、「コンフォート」、「スポーツ」、「スポーツプラス」、「レース」の5種類の走行モードが用意される新型SL。メルセデスAMGが独自に新設計し、AMG GTロードスターよりも50%も高い捻り剛性を実現したというシャシの堅牢さは、もちろんどのモードを選んでも変わらずドライバーの身体に伝わってくる。
加えて油圧式のコントロールスタビライザーを組み合わせたAMGGアクティブライドコントロールサスや、リアアクスルステアリングなど、さまざまなメカニズムが走りをサポートしてくれるのだから、その安定感は絶品と表現できる。SL63、その魅力はあまりに大きい。(文:山崎元裕/写真:井上雅行、佐藤正巳)
メルセデスAMG SL 63 4マティック+主要諸元
●全長×全幅×全高:4705×1915×1365mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:1940kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●総排気量:3982cc
●最高出力:430kW(585ps)/5500-6500rpm
●最大トルク:800Nm/25000-5000rpm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・70L
●WLTPモード燃費:7.8-8.1km/L
●タイヤサイズ:前275/35R21、後305/30R21
●車両価格(税込):2890万円
[ アルバム : メルセデスAMG SL 63 4マティック+試乗 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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