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回顧録 ミニマム級シティカー対決 VWアップ vs トヨタiQ 前編

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回顧録 ミニマム級シティカー対決 VWアップ vs トヨタiQ 前編

もくじ

ー VWが作ったシティカー
ー わずか854kgの車重
ー 新開発のパワートレイン
ー 専用プラットフォームの恩恵
ー ライバルのiQとも比較
ー 明瞭かつ単純なデザイン

欧 VWアップに「Rライン・パッケージ」 GTIの成功受け 「R」の可能性は低

VWが作ったシティカー

(AUTOCAR JAPAN誌104号の再録)

ローマ──そこはシティカーの心の故郷である。この地でわずかでも時間を過ごす機会があれば、おびただしい数の小さなクルマたちに必ずや驚かされるはずだ。じわじわと流れていく交通渋滞や2重3重に駐車がひしめく道路脇の主役は、じつに多種多様なコンパクトカーたちである。

もはや少数派になった初代パンダやアウトビアンキY10から最新型のランチア・イプシロンにいたるまで、通りはまるでコンパクトカー史の動的展示空間といった風情だ。フォルクスワーゲンが新型シティカーのアップをローンチするのに、ここ以上に適した場所はあるまい。

新型シティカーとはもちろんアップのことだ。このクルマはいくつかのスイッチ類(ヘッドライトやウィンカー、ウインドウなどの操作)を除き、基本的にはすべてが根本からまったく新しくデザインされた。今どきの自動車業界では非常に珍しく、かなりのコストをかけられた、まさに事件ともいえるモデルである。

アップの寸法はオリジナル・ミニより全長がわずか50cm長いだけであり、全長3.54mで左右のサイドミラー間が1.9mしかない。現在の安全基準とパッケージングへの要求を考えると、感動を覚えずにはいられない小ささだ。

しかも、これでちゃんと4人の大人が乗れて、251ℓのトランクまで確保されているのだ。技術的な革新性はないが、エンジニアリングの大部分にごくごく細かいディテールにいたるまでの再検討とリファインを積み重ねたと、VWは強調している。

わずか854kgの車重

彼らが採ったエンジニアリング主導というアプローチの正しさは、エントリーレベルのアップの車重がわずか854kgに抑えられている事実でも証明されている。スティール製ボディシェルの重量にいたっては、たった270kgしかないのだ。

それでいて、衝突安全性については疑問の余地はない。このボディシェルの8%(フロアパンの前部とBピラー外側のシェル)は熱間成型の鋼鉄で造られているが、それによって普通のプレス加工では不可能な強度を実現しているのだ。

さらにこのボディシェルは、19800Nm/度と剛性も十分に確保されている。これはクラス最高に相当する数値だ。いうまでもなくこの剛性は、単に衝突安全性の観点から決定的に不可欠なだけでなく、乗り心地やハンドリングにもきわめて重要である。

サスペンションを取りつける構造体の剛性が高ければ高いほど、エンジニアがステアリングやスプリングやダンパーを正確にチューニングするのもそれだけ楽になるからだ。

VWによれば、これだけ相対的に軽量なボディシェルが出発点としてあればこそ、機械的なランニングギアの多くをそれに合わせてダウンサイジングできたという。その典型といえるのが、アップのために新設計された3気筒のガソリンエンジンだ。

新開発のパワートレイン

EA211型999cc12バルブのこのユニットは、なんと重量がわずか69kgしかない。アルミ製シリンダーヘッドは吸気マニフォールドまで一体となっており、これによってエンジンが動作温度まで暖まる時間を大幅に短縮できている。

クランクシャフトやコンロッド、ピストンなどが徹底して軽量化されたこともあり、通常なら3気筒に付きもののバランサーシャフトが、このエンジンには存在しない。また、内部摩擦を徹底的に減らすためにメインとコンロッドのベアリングも小型化され、メインベアリングの負荷を減らすために、クランクシャフトには6個のカウンターウェイトが取りつけられている。

カムシャフトはコグドベルト駆動されるが、ベルトがかけられるドライブホイールは真円から少しだけ扁平した形状にされた。エンジンを破損させる要因となる「ピーク応力」が、それによってスムーズにならせるからだそうだ。吸気側のカムには可変タイミング機構も備わっている。

さらにアップには、新開発されたMQ100と呼ばれる5段MTが搭載されており、これを収納するアルミ製ケーシングの重量はわずか3kgしかない。わずか34cmの奥行きにも驚かされるが、総重量はたったの25kgであり、しかもこの数値には1ℓのトランスミッションフルードも含まれているのだから驚愕するしかない。自動変速MTのSQ100もオプション選択可能だが、こちらはクラッチの制御機構が加えられて30kgだ。過去最軽量のオートマティックトランスミッションだというVWの主張にもうなずける軽さである。

専用プラットフォームの恩恵

サスペンション構成は、フロントが伝統的なマクファーソン・ストラット(厚さ1.8mmの高張力鋼製サブフレームに取りつけられている)、リアがトーションビームで、それに電動式パワーステアリングが組み合わせられている。

こうしたコンパクトな設計のドライブトレインと専用プラットフォームにより、アップのフロントのオーバーハングは極端なまでに短い。ポロのプラットフォームを短縮して造られた旧型ルポに比べると、優に14cmは短くなっている。

これこそ専用プラットフォームを作った利点であり、ルポとほとんど同じ全長にもかかわらず、アップのホイールベースは10cmも長く、その分だけキャビンスペースが広いのである。

おかげで前輪はノーズの先端近くに位置し、吸気マニフォールドの前端はノーズコーンの内側に収められた。ラジエターはエンジンの直前から少し片寄った位置に搭載され、エンジン全体はわずかに後傾しており、後方排気のエグゾーストマニフォールドはバルクヘッドに正対している。

ライバルのiQとも比較

われわれは今回、新型アップの実力を見極めるべく、ローマ市内の過酷な街路を舞台に選び、手合わせの相手としてすでに定評のあるトヨタiQを招いた。VWと同様、巧妙なエンジニアリングを駆使してさまざまな利点を引き出したモデルだが、こと過激さではiQがさらに上を行く。

3mを切る全長はアップよりはるかにコンパクトだが、その分だけホイールベースも切り詰められ、アップより420mmも短い2mしかない。

そこに3+1のシート配列を押し込むため、トヨタはトランスミッションと一体となったディファレンシャルをエンジンの前方に配置し、ステアリングラックをエンジンベイの高い位置に上げ、燃料タンクを前席シート下に配置し、さらにコンパクトな空調ユニットを開発して助手席の位置を思い切り前方に押し出し、その後方に3人目のシートをおく空間を確保した。

まったくもって過激な手法である。だが、努力は認めるが、正直なところ実用性では圧倒的に劣るといわざるを得ない。後席は1.5人分としかいいようがなく、荷室容量はほとんど使い物にならない32ℓなのだ。

一方のアップは、実物を見る限り、VWのデザイナー陣がいっていたとおりの仕上がりである。つまり、伝統的なスタイリングよりも、むしろ一個の製品としてのデザイン性を優先した結果だと見て取れる。全長/全幅/全高の寸法値ぎりぎりまでボディ面を膨らませたプロポーションで、前後バンパーは完全にボディ面とフラットだ。

明瞭かつ単純なデザイン

アップの表面には、iPadの裏面を連想させる仕上げの美しさがある。要するに、多額の予算をかけて“機械工作した”かのごとき見映えなのだ。ディテールへのこだわりは驚くほどで、接合部がまったくわからないボディ側面とルーフパネルの継ぎ目(実際にはレーザー溶接されている)の処理などはとくに見事である。

フロントフェンダーとバンパーのあいだのシャットラインは異常に細く、これに匹敵するクルマは、超高額なプレミアムクラスでもそう多くはないだろう。

渋滞のなかを走るアップは、そこにどれだけのスモールカーがひしめいていても、しっかりと目立っている。普通のスモールカーの美学とは離れたところで、じつにクレバーに、差別化を意識して造られている証左であり、小生意気でちょっと攻撃的っぽい感じを演出できているからだ。

室内を見ても、伝えるべき内容はまったく変わらない。すべてが最大限の明瞭さと単純さを目指して設計され、実装されており、そして品質は驚嘆すべき高水準を達成している。決して多額の予算を投じられているわけではないにもかかわらずである。乗員のための空間がたっぷりと確保された前席キャビンは幅が広く開放感があり、手足を伸ばせる余裕すらある。

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