2018年6月22日、21年ぶりにフルモデルチェンジして3世代目となったトヨタ センチュリー。1967年のデビュー以来50年にわたり日本を代表するショーファーカーとして認められてきたが、最新型は時代とともに、どのように進化したのか。(Motor Magazine 2018年10月号より)
ため息の出るボディの深い艶や眩い輝き、乗り心地も秀逸
2017年開催の東京モーターショーで初めてお披露目された、実に21年ぶりのフルモデルチェンジとなる新型センチュリーの注目度の高さを憶えている方は多いだろう。
思うにあれは決して物珍しさみたいな視点ではなかったはず。堂々とした外観に、理屈抜きに引き込まれるような魅力、強い説得力があったからに違いない。
路上で眺めるセンチュリーも、やはり存在感は際立っていた。ボディの深い艶、眩い輝きだけでも、まずはため息。先代よりCピラーが立てられて、リアシート重視というあり方が見た目にも強調される一方で、フードとトランクの長さ、前後フェンダーに対するキャビンのベルト部分の比率といった文法が継承されたことで、フォルムは紛れもなくセンチュリーと呼べるものに仕上がっている。
ディテールの美しさも思わず息を飲むほどだ。凝った七宝文様を敢えて内側に、外側に縦格子を置いた二重構造のグリル、手彫りの鳳凰エンブレム、灯籠に見立てたというテールランプなどなど、どの部位にも必ず語るべき何かが込められているのである。
室内に乗り込むと、ダッシュボード上面はフラットで、フロントウインドウ越しに見えるフードもやはりフラットだから、視界は水平線を眺めるかのようにすっきりと落ち着いている。ウッドの艶にも思わずうっとりさせられる。ナビゲーションシステムの画面は特段大きくなく、その下にずらりとスイッチ類が並ぶ様も先進感とは無縁だが、これもまた日本の応接間的な寛ぎに繋がっている。
標準ではウールファブリックとなるが、試乗車のシートは、傷のない部分を厳選して柔らかく仕立てたオプションの本革仕様「極美革(きわみがわ)」。クッションにコイルバネが採用されていてまるで高級ソファの座り心地である。
停車中にエンジンをかけずにエアコンを使うことができる
しずしずと発進させると、乗り味は想像どおり、とても静かで滑らかで、ふんわりとしている。けれど路面がうねっていても、姿勢をスッとフラットに整え、揺り戻しがないから不快感は皆無。タイヤのエアボリュームの大きさも効いているのだろうか。柔らかなタッチを味わいながらの高速巡航は、まさにクルージングを楽しんでいるかのようだった。
走りを楽しめるのは良好な直進性、そして意外やリニアな操舵感のおかげでもある。ご存知のとおり車体の基本骨格は先代レクサスLSの流れを汲むだけに、正直そこまで期待していなかったのだが、入念な作り込みがポテンシャルをフルに引き出したようだ。
ハイブリッドのパワートレーンも普段は非常に静粛性高く、パワフルだが品のある加速感を実現している。アクセルペダルを踏み込むとやや低めのエンジン音が聞こえてきてV12が恋しくなるが、トータルでの満足度は高い。
この手のクルマではとくに、停車中にエンジンをかけずにエアコンを使用できるメリットも大きいはず。またACCの加減速、車間の取り方などがセンチュリーらしくジェントルな躾けとされているのも、ハイブリッドの恩恵に違いない。
ハンドルを握ってばかりではなくリアシートも試したが、こちらもさすがの快適性を満喫できた。左側後席に陣取り電動オットマンに足を伸ばすと、前方は助手席ヘッドレストが折り畳まれて視界が開けているし、折り上げ天井ゆえに頭上もゆったり。一方で、側方はCピラーがいい具合に外からの視線を遮ってくれ、とても落ち着く。フロア振動の類いの一切ない乗り心地も秀逸のひと言で、これならVIPに、長距離移動もクルマでという気にさせそうである。
ここに展開されているのは純日本式の“高級”だが、丹念に磨き上げられたそれは、日本人の心に響く珠玉の快適性に繋がっている。もし私がリアシートに乗れる立場ならレクサスLSより断然コレを選ぶ。いや、ハンドルを握る立場だとしても、きっとそうしてしまうに違いない。(文:島下泰久)
トヨタ センチュリー 主要諸元
●全長×全幅×全高=5335×1930×1505mm ●ホイールベース=3090mm ●車両重量=2370kg ●パワーユニット=V8DOHC+モーター ●エンジン排気量=4969cc ●エンジン最高出力=381ps/6200rpm ●エンジン最大トルク=510Nm/4000rpm ●モーター最高出力=165ps ●モーター最大トルク=300Nm ●トランスミッション=CVT ●駆動方式=FR ●車両価格=1960万円
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