初代から数えて5代目になる「RAV4」を担当する佐伯禎一チーフエンジニアには、「SUV本来のワクドキ感が薄れているのではないか?」という危機感があった。でもって、その危機感を振り払うに十分な予算が新型RAV4にはあった。トヨタの元祖クロスオーバーSUV、RAV4はメチャクチャ売れているからだ。
【主要諸元(アドベンチャー)】全長×全幅×全高:4610mm×1865mm×1690mm、ホイールベース:2690mm、車両重量:1630kg、乗車定員:5名、エンジン:1986cc直列4気筒DOHC(171ps/6600rpm、207Nm/4800rpm)、トランスミッション:CVT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:235/55R19、価格:313万7400円(OP含まず)。ためしに2018年のグローバルの自動車販売台数ベスト・セラーをウェブで検索すると、1位:フォード「Fシリーズ(ピックアップ)」、2位:トヨタ「カローラ」、3位:ホンダ「シビック」に次いでRAV4の名前がある。その数、およそ80万台。3位のシビックとの差は5000台程度しかない。ちなみに5位は日産「エクストレイル」、6位はホンダ「CR-V」と続く。いうまでもなく、RAV4のライバルたちである。
自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第9回
現代SUVの潮流をつくった1台が1994年に登場した初代RAV4であるのに疑いはない。“オフロード用4WDはオフロード用なんだから強固なフレーム付きでなければならない”と、信じられていた時代に、初代RAV4はFF乗用車のプラットフォームを用いてアッケラカンとあらわれた。
マートラ・シムカ「ランチョ」とかフォルクスワーゲン「ゴルフ カントリー」とか、前例がなかったわけではない。けれど、RAV4ほど商業的に成功したクロスオーバーSUVは自動車史上、例がなかった。
初代RAV4とくらべ、快適性が大幅に向上したインテリア。なお、「アドベンチャー」グレードのインテリアは、各所がオレンジになる。2代目以降は北米市場を向けにボディが大型化し、国内では存在感を失っていき、2016年に販売が終了した。3年の空白ののちに復活したのが5代目新型RAV4である。開発コンセプトは「Robust Accurate Vehicle with 4 wheel drive」。“逞しくて洗練された4WD 車”という意味であるという。
開発陣も、SUVのトレンドが乗用車テイストで洗練・先進性に向かっていることはわかっていた。そこをあえてrobust(頑強)に逆ばりし、RAV4としての個性を際立たせようとした。
プラットフォームは、トヨタ「カムリ」などとおなじ、FF中型車用の「Kプラットフォーム」をベースにしている。2018年12月に販売開始されたレクサスのコンパクトSUV「UX」ともそうとう近いはずだけれど、サイズが若干異なる。
UXはホイールベースが2640mm、RAV4は2690mmで、RAV4のほうが50mmほど長い。早晩追加になる可能性は極めて高いけれど、いまのところレクサスUXのガソリンはFWD(前輪駆動)のみで、ハイブリッドにしか4WDはない。UXの最低地上高が160mmなのに対して、RAV4は190mm以上とられている。
数字よりわかりやすいのは、頑丈さで定評のあるトヨタのトラックとの血脈をひと目で感じさせるエクステリアだろう。「ハイラックス サーフ」みたいなコワモテの面構えと4つのタイヤがガッシと強調されている。
アドベンチャーのタイヤサイズは235/55R19。アルミホイールは専用デザイン。パワートレーンは2.0リッター直列4気筒自然吸気ガソリン・エンジンと「Direct Shift-CVT」なる組み合わせと、2.5リッター直列4気筒ガソリン・エンジン+電気モーターのハイブリッドの2本立てで、FWD(前輪駆動)の設定も一応あるけれど、4WDが主流であることは疑いない。
なお新型RAV4のガソリン車には2種類も4WD機構が用意されている。「ダイナミックトルクコントロール4WD」と、世界初の「ダイナミックトルクベクタリングAWD」である。
ハイブリッドモデルのボディサイズは全長×全幅×全高:4680mm×1855mm×1685mm。ハイブリッドモデルの駆動方式はFWD(前輪駆動)および4WD。4WDシステムは3種類も!今回、静岡県の富士山の麓の朝霧高原で開かれた新型RAV4の試乗会で、ハイブリッド用のE-Four(電気式4WD)を含めた3種類の4WDを砂利土の低ミュー路で試すことができた。
ダイナミックトルクベクタリングAWDには、リアの駆動軸に湿式の電磁クラッチがふたつ配されている。ジェイテクトという系列部品メーカーの「ITCC」という製品で、このふたつの電磁クラッチ(またの名を電子制御4WDカップリング)が左右輪のトルクを独立して制御する。前後のトルク配分は最大50:50、リアの左右トルクはそれぞれ0~100まで連続可変する。
アドベンチャーの4WDシステムは「ダイナミックトルクベクタリングAWD」。という4WDシステムを備えるRAV4で、円旋回しやすいようにパイロンが立ててある未舗装の空き地を左まわりで走る。ステアリングを左に切りながら、あるところでガバチョとアクセルを踏む。路面の砂利土がカンカン、ザーザーと音を立てる。さらに踏む。リアがドッと張り出してオーバーステアになる。FF乗用車ベースのSUVなのに! と、筆者はカウンターステアを軽くあてながら、SUVワクドキを確かに感じた。
ダイナミックトルクベクタリングAWDはアドベンチャー以外に、「G Zパッケージ」も搭載する。ダイナミックトルクベクタリングAWDの制御切り替えはダイヤルタイプ。ダイナミックトルクコントロール4WDの制御切り替えは、プッシュタイプ。左旋回の場合、荷重がかかる右側の後輪にトルクが多めに配分される。その結果生まれるオーバーステアは唐突ではなくて、コントローラブルだった。
後輪の左右独立トルクベクタリングというと、三菱「ランサー エボリューション」のAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)が有名だけれど、トヨタのエンジニアによれば、あちらよりシンプルな仕組みで同様の効果が得られるという。さすがトヨタ、と申し上げるほかない。
ダイナミックトルクベクタリングAWD搭載モデルには、急なくだり坂でも速度を一定に保つ「ダウンヒルアシストコントロール」も備わる。アドベンチャーのフロントグリルは専用デザイン。アドベンチャー以外のグレードのうち、エントリーグレード「X」以外のフロントグリルはガンメタリック塗装(Xはブラック塗装)。ダイナミックトルクベクタリングAWDはもうひとつ、燃費を稼ぐためにリアの駆動系をカットする機構を備えている。この機構こそトヨタが世界初と主張している「ディスコネクト機構」である。
発進時はつねに4WDだけれど、定常走行時はFWDとなり、必要に応じて4WDとなる。車速とアクセル開度で切り替えマップが設けられているのだそうだ。エコ、ノーマル、スポーツのドライブモードセレクトがついていて、スポーツにすると、50対50でつなぎっぱなしのFUN(楽しい)方向になる。
ダイナミックトルクベクタリングAWDは3つの走行モード((MUD&SAND/NORMAL/ROCK&DIRT)から選べる。ドリフトできる電気式4WDこれに対し、ダイナミックトルクコントロール4WDは、従来型の電磁クラッチをひとつだけ持っている4WDで、前後トルク配分を100:0から50:50まで変化させる。おなじことをこちらの4WDで試みても、アクセルオンでオーバーステアにはならない。アクセルをオフにするとリアが出る、ということはある。
このときも筆者は、ザーザーカンカンという大地の音を聴きながら、SUVドキワクを感じたけれど。まあ、でも、自分のクルマだったらだれもやらないよね、こんなこと。
ダイナミックトルクコントロール4WDは、ガソリン・エンジンの「アドベンチャー」「G Zパッケージ」以外のグレードが搭載する。4WDシステムの状況は、メーターパネル内のインフォメーションディスプレイに表示される。なお、エントリーグレードのメーターはアナログタイプ。エントリーグレード以外のメーターは、スピード計がデジタルタイプになる。また、インフォーメーションディスプレイも4.2インチから7インチに拡大される。ハイブリッド専用のE-Fourにもエンスーかつトヨタらしい仕掛けが施されている。E-Fourは、後輪を電気モーターで動かす。このリアのユニットを新設したというのだけれど、じつはプリウスのフロント用モーターを流用しているという。さすがトヨタである。
最高出力は54ps、最大トルクは121Nmであるが、この数値はエスティマのE-Four等と較べると下がっている。それを、ギア比を下げることで補い、従来比で1.3倍ほどの駆動力を得ているという。
ハイブリッド・モデルの4WDは電気式だ。ハイブリッドモデルのパワーユニットは2487cc直列4気筒DOHC(178ps/5700rpm、221Nm/3600~5200rpm)+モーター(フロント:88kW/202Nm、リア:40kW/121Nm)。新型RAV4のハイブリッド・システムは、カムリ等とおなじ2.5リッター直列4気筒ガソリン・エンジンと電気モーターが前輪を駆動する。2.リッター・エンジンは最高出力178psと最大トルク221Nmと、排気量2.0リッターの「M20A-FKS」ユニットとそう変わらない最高出力と最大トルクを、排気量に勝る分、低回転から生み出す。いわゆる中低速トルクに余裕がある。それに120psと202Nmを発揮するフロントの電気モーターが加勢したり、単独でEV走行したりするわけである。
ハイブリッドモデルのトランスミッションは、電気式無段変速機。ハイブリッドの上級グレード「G」のタイヤサイズは。225/60R18。アルミホイール・カラーはスーパークロームメタリック。新型RAV4のE-Fourは、前後トルク配分が最大20:80にまで変化して、つまり後輪駆動寄りになる。ダートの空き地での円旋回を試みると、ザーザーカンカン、アクセルオンでリアが出る。ドリフトできる電気式4WDなのだ!
いいものはいい試乗会ではオフロードの凸凹道も体験できた。新型RAV4には、MUD & SAND、NORMAL、そしてROCK & DIRTと、路面状況に合わせた4WDの制御モードが3択できるシステムを搭載する。足まわりの可変システムは備えていないので、車高が高くなったりはしないけれど、駆動力とブレーキを最適に統合制御し、走破性を向上させる。コントロールしやすいようにスロットル特性を変えたりもする。
ランドローバーやジープに代表されるオフロード志向の4WDなら珍しいものではないけれど、新型RAV4がそこにこだわってきたのがエンスージアスティックである、と筆者は思う。役に立たないことに情熱を燃やすのがエンスージアズムなのだからして。
ガソリンモデル(4WD)のWLTCモード燃費は15.2km/L。ハイブリッドモデル(4WD)は、20.6km/L。上り坂の発進時、自動的にブレーキを制御することで車両の後退を緩和する「ヒルスタートアシストコントロール」は全車標準。次に一般道を、2.0リッターガソリン・エンジン搭載の「アドベンチャー」という新型RAV4の看板モデルで走った。高速燃焼を意識した「ダイナミックフォースエンジン」シリーズの直噴2.0リッター直列4気筒エンジンは80.5×97.7mmのロング・ストローク型だけれど、よくまわる。
よくまわる印象を与えるのは、Direct Shift-CVTの役割も大きい。従来のCVTに発進用ギアを追加しているため、フツウのオートマチックみたいに加速する。1回ショックがあって、CVTにつながると、そこからは無段変速の世界となる。10速のシーケンシャルシフトも可能だけれど、ズボラな筆者は機械に任せて操作しない。
軽量化のため、ボンネット、フロントフェンダー、バックドアはアルミニウム製だ。ガソリンモデルが搭載するエンジンは1986cc直列4気筒DOHC(171ps/6600rpm、207Nm/4800rpm)。アクセルペダルはオルガンタイプ。車検証に見る前後重量配分は940:690kgのフロント・ヘビーだけれど、それを意識させない。ダイナミックトルクベクタリングAWDがいかほど作用しているのかは不明ながら、素直なハンドリング特性を持っている。
前ストラット、後ろダブルウィッシュボーンの乗り心地は、着座位置が高いのを除けば、乗用車並みに快適で、静粛性も高い。エンジンをまわしたときの音色も澄んでいる。235/55R19サイズのヨコハマAVID ASCEND GTのオールシーズンは、19インチだけど、SUV用ブランドではないこともあってか、ゴツゴツ来ない。同クラスの国産SUVとしてオススメの1台だと筆者は思う。車両本体価格は313万7400円。
アドベンチャーのシートは専用デザイン。もう1台のハイブリッドは、速い。前述のごとく、2.5リッターに電気モーターが加勢しているのだから、2.0リッターNAのあとにこちらに乗ると、その印象はいっそう強くなる。
だけど、エンジンを歌わせたいと思うような旧人類、守旧派にはアカンです。アトキンソンサイクルというのはやっぱり、スカスカな印象を受ける。それをモーターでアシストしても、速ければいいってものではない。
上級グレードのインテリアは、メッキ加飾が各所に施される。試乗車のほとんどはオプションのナビゲーションシステムを装着していたが、本来は全車オーディオレス仕様。エントリーグレード以外、運転席は電動調整式。エントリーグレードのシート表皮のみ、ファブリックだ(ほかは合成皮革)。回生ブレーキのフィールも人工的で、もちろん人工物ではあるけれど、制動以外のことに専念していないで、どこかでなんかやっているような気がする。全開にしないで、静かにアクセルを踏めるひとにとっては、その範囲で静かで速くて快適な1台であるのはその通りである。こちらは381万7800円である。
基本的におなじ2.0リッターの自然吸気エンジンとDirect Shift-CVTを搭載するレクサス「UX200」は390万円から、というレクサス・ブランドにふさわしいお値段で、トヨタRAV4は260万8200円からなので、トヨタ・ブランドはたいへんお得である。
アドベンチャーおよびエントリーグレード以外のステアリングはヒーター付き。電動テールゲートは、アドベンチャー以外のグレードに標準。オートマチックハイビームは全車標準だ。デジタルルームミラーはG Zパッケージのみ標準。ほかのグレードはオプション。筆者は、最近のクルマはどれもこれも特撮映画(って言わないか、最近は)とかアニメから出てきたみたいなカタチになっていることを日頃から苦々しく思っているクチでありまして、新型RAV4もひと目見て、ブルーに白いルーフの2トーンの仕様とか、映画「君の名は。」のポスターみたいではないかと乗る前は連想したりした。だから売れるのかもしれないけど……。
新型RAV4に試乗してみると、トヨタ的には力作で、それもベスト・セラーだからできることなのだった。ベスト・セラーをオススメするなんて自動車を語る上でどうなの? という声もあるでしょう。しかし、いいものはいい。新型RAV4はエンスーである。
新型RAV4のキャッチコピー通り“好きにまみれてください”。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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