2010年8月、今も現行モデルとしてラインナップされる3代目日産エルグランドが登場した。エルグランドは広く快適な室内空間と贅沢な装備、高い走行性能を備える高級Lクラスミニバンの元祖的存在だが、3代目ではそれまでのFRからFFへと大変身を遂げた。2010年のデビュー当時、3代目エルグランドはどのように市場に受け入れられたのか。Motor Magazine誌では販売開始と同時に試乗テストを行っているので、その時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年11月号より)
最大の変更点はFRからFFになったこと
エルグランドが8年振りにフルモデルチェンジを受け3代目となった。それにしても、なぜ8年もの間、この人気モデルが“放置”されていたのかという疑問が湧くが、いまの日産のビジネススタイルを見てみると、その理由がわかるような気がする。要は優先順位が低かったということだ。なぜならエルグランドは国内専用車だから、先に取り組むべきものが他にあったということだと思う。先に取り組むべきものとはグローバルな生産体制を整えて登場させたマーチかも知れないし、あるいは北米の主要モデルや中国事業だったかも知れない。
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結果的に満を持して登場となった3代目だが、2代目からの最大の変更点はFRからFFになったことだ。そして全高は10cmほど低くし、低床化、低重心化された。この手のミニバンを低重心化することは操縦性をよくするため非常に有効なことは言うまでもないが、ニューエルグランドの場合、その効果は顕著だった。低重心化によって、パッケージングとして運動性能全般が向上すると、サスペンションを柔らかくすることもできる。すると乗り心地もよくなるわけだ。
いいこと尽くしの低重心化だが、唯一、問題点があるとしたら、全高も低くなることでスタイリングの迫力が損なわれかねないということだろう。その辺りはもちろん対策済みで、それはヘッドライト下のバンパーの大きなふくらみなどに見てとれる。ボディ全体のマスが小さくなる分は、フロントマスクで睨みを効かせて迫力を補おうというわけだ。それにしてもこのデザインは凄い。国内専用車だから可能になったのだろう。マーチのような無国籍顔より、ずっといい。好感が持てる。
室内空間の贅沢さ、装備の充実度などは申し分ない
さて、初めに最高出力280psの3.5L、V6エンジンを搭載する350ハイウェイスタープレミアムに試乗した。ドライバーズシートに座って、まず驚いたのはそのポジショニングだ。着座姿勢はセダンに近く、これまでのエルグランドとは大きく異なる。また、アイポイントも高くなく、セダンより少し高いなと感じる程度だ。いかにも運転がしやすそうなのだが実際にそのとおり、走り出すと前方視界は良好だし実に気持ちがいい。
車重は2020kgもあるが、なにぶんエンジンは280psもあるので必要にして十分以上の加速性能を見せる。また、コーナーでは低重心化の効果が際立つ。しっかりと地に足がついた印象でボディのロールは最小限にとどめられている。トランスミッションは6速マニュアルモード付きCVTとなったが、これも合格点。そもそもCVTのフィーリングはあまり好きではないのだが、このCVTに違和感を覚える局面はほとんどなかった。
続いて最高出力170psの2.5L、直4エンジンの250ハイウェイスターにも乗ったが、3.5Lとの差が歴然とするのは急加速時くらいで、通常の市街地走行で、その差はほとんど問題にならないレベルだ。
室内空間の贅沢さ、装備の充実度などは申し分ない。もちろん内容に応じたコスト負担をしなければならないが、それにしても“すべてお金で解決できる”というのは凄いことだ。スペース的には2列目シートがVIP用ということになるが、3列目も決して窮屈なことはなく大柄な大人でも十分快適に過ごせるレベルにある。窓が大きいので視覚的な圧迫感もない。
さて、このエルグランドというクルマ、国内専用車であるためか、実に溌剌とわかりやすく個性を主張している。古き良き日産魂がためらいなく表現されている。“やっぱり日産車はこれでなくては!”と思うのだが、事はそう簡単ではないこともよくわかる。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之/写真:永元秀和)
日産エルグランド 350 ハイウェイスター プレミアム 主要諸元
●全長×全幅×全高:4915×1850×1815mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2020kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3498cc
●最高出力:206kW(280ps)/6400rpm
●最大トルク:344Nm(35.1kgm)/4400rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●車両価格:453万7500円(2010年当時)
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