走行距離はなんと741km!
2023年11月4日、RMサザビーズがイギリス・ロンドンで開催したオークションにおいてベントレー「ターボR ドロップヘッドクーペ Byピニンファリーナ」が出品された。今回はいくらで落札されたのか、同車について振り返りながらお伝えしよう。
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当時のベントレーを救ったといわれる大ヒットモデル
歴史を書きはじめるととんでもない長文になってしまうのでごく簡潔にいってしまうが、ロールスロイスとベントレーはもともと兄弟会社として存在していた。その違いはロールスロイスがショーファーカーであり、ベントレーはオーナードライブのクルマ、というところにある。いまはもう完全な別会社となってしまったが、そのキャラクターに変化はない。
そういったキャラクターの違いがあるとはいっても、どちらも顧客のために最善を尽くしたクルマづくりをしているところには違いがない。自分だけの1台がほしいという顧客のためには、そのリクエストを最大限実現するべく、さまざまな手段を尽くしてクルマを仕上げてくれる。当然販売価格はうなぎ登りとなるわけだが、こういったクルマを手に入れようとする人たちは、こういう言い方もなんだが「金に糸目はつけない」わけで、中にはそんなことまで、というリクエストをする顧客もいたりする。
今回ロンドンで開催されたRMサザビーズオークションに出品された、1991年モデルのベントレー ターボR・ドロップヘッドクーペは、ブルネイ王室がベントレーに発注したものだ。ベース車はベントレー ターボRなのだが、これは堂々たるセダンボディモデル。ターボエンジンと優れたロードホールディングからターボRと名付けられたこのモデルは、当時のベントレーを救ったといわれる大ヒットモデルだった。
ところが発注主であるブルネイ王室は、このターボRをベースとした2ドアと4ドアのコンバーチブルをリクエストしたのだ。これはいかにオーダーメイドに慣れているベントレーとはいっても、簡単に実現できる話ではない。ベントレーはこの難題を解決するにあたって、ピニンファリーナの協力を得ることを考えた。その結果生まれたのが、このクルマである。
このコンバーチブル化にかかった費用は100万シンガポールドル(約1億1100万円)で、それは現存する請求書からあきらかとなっている。また、ベントレーとピニンファリーナ、そしてオーナーも出席した打ち合わせの模様や、車両の製作過程なども記録写真として残されている。
こうして完成した2ドアと4ドアのコンバーチブル・ターボRのうち、4ドア・ターボRブルネイ王室へと納車されたのだが、もう1台の2ドア・ターボR、シャシーナンバー44366はシンガポールにあったホンセ・モータースに納車された。
ナンバーマッチングも確認済み
この個体は2022年初頭までシンガポールで保管されていたが、その後英国に輸送され、2022年3月には油圧ラバーの全交換やエアコンコンプレッサーの交換、シリンダーヘッドのオーバーホールとガスケット交換、サスペンションのリフレッシュなどというメンテナンスを、7万6057ポンド(約1410万円)かけておこなっている。
さらに2023年1月にはトランスミッションのリビルトやステアリングシステムのオーバーホール、燃料タンクや電動フードの修理に2万3343ポンド(約430万円)をかけ、6月には1万8825ポンド(約350万円)をかけてボンネットを修理している。
そこまでの費用をかけて状態を維持し続けているのは、この個体が新車当時から同じエンジンを搭載し続けている、オリジナルモデルであるからだ。クラシックカーの世界ではマッチングナンバー、あるいはナンバーマッチングといわれるこれは、シャシーナンバーやエンジンナンバー、トランスミッションナンバーなどが、工場出荷時に記録されたものと一致していることを意味している。
走行距離はなんと741km。日本風にいえばワンオーナー車でもある。そんな貴重なモデルのエスティメートは37万5000ポンド~47万5000ポンド(邦貨換算約7000万円~8800万円)となっていた。製作にかかった費用と希少性からいえば、かえってロープライスともいえる値付けだ。そしてオークションでのハンマープライスは40万ポンド(邦貨換算約7420万円)であった。
当時のベントレーの魅力とピニンファリーナの職人技がなせるものがはっきりと感じ取れる1台である。
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また乗ってみたい珠玉の逸品だと思う。