2019年9月17日に発売開始した新型カローラの全幅は1695ミリを超え、1966年のデビュー以来、約53年にわたって守り続けていた全幅1.7m以下の5ナンバー枠をついに超え、1745ミリになってしまった。
3ナンバーになってしまったカローラを嘆く方もいれば、プリウスですら全幅1760ミリなのだから当然だ、と言う方もいる。
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また、現行VWゴルフ7も全幅1799ミリ(日本仕様は1800ミリ)と、代を追う毎に拡幅しており、1800ミリ越えが目前だ。ポロのいたっては現行モデルで全幅を65ミリ拡大して1750ミリとなり、3ナンバーになってしまった。。
そこで、クルマの全幅を拡大し続けているのは何か理由があるのか? メーカー側は全幅についてどう思っているのか? 今後どうなっていくのか? 元日産自動車開発技術者の吉川賢一氏が徹底解説する。
文/吉川賢一
写真/ベストカーWEB編集部
【画像ギャラリー】拡大し続けるカローラの全幅を写真で振り返る
1/クルマの全幅は開発者目線でどうしたいのか?
新型カローラセダンは全幅が1700ミリを超え、1745ミリとなり、歴代初の3ナンバー化
なぜ、クルマの全幅拡大が止まらないのだろうか? 新型車開発のなかで、クルマの全幅が決定される要素には、さまざまな要件が絡んでいる。
その前に、5ナンバー車の定義とはなにか紹介しておく必要がある。5ナンバー車は小型乗用車に分類されていて下記の基準を満たしている乗用車を指す。
排気量:2000cc以下
全長:4700ミリ以下
全幅:1700ミリ以下
全高:2000ミリ以下
例えば、車室内の居住性を上げたいパッケージング担当、側面衝突時の安全性確保のためにドアのなかに太いビームを入れ込みたい衝突性能担当、伸びやかで流麗なデザインを織り込みたいデザイン担当など、直接的に車幅を拡幅したいわけではないが、結果的に拡幅を要望することになる性能がある。
筆者の経験上、全幅を直接コントロールしたいと提案するのは、デザイン担当チームだけだった。
対して、日本の狭い道路事情を考慮し、5ナンバーの車幅はキープしてほしいという現場やお客様の声は、当然優先しなくてはならない。
主に国内市場中心に販売しているクルマは1695ミリを守っているクルマが多い。シエンタやアクア、フリード、シャトル、セレナやヴォクシーやステップワゴンなどのミドルクラスミニバンもベースグレードは1695ミリだ。
また、そのクルマが、グローバル戦略車なのか、ローカル特化のクルマなのか、によっても設計事情は変わる。
昔と比べ、現代は国内専用車として登場するクルマが確実に減っている。販売台数の絶対数が少ない日本市場よりも、北米や中国やインドなど、数倍もの需要がある海外市場で勝負するのが当たり前の時代だ。
例えばカローラの場合、日本仕様と海外市場ではボディサイズは異なっている。全幅は10代目から11代目日本仕様のカローラアクシオの全幅は1695ミリだが、海外仕様は、10代目1760ミリ、11代目1780ミリ。現行12代目は海外仕様は1780ミリだが、日本仕様カローラのみ1745ミリに狭くしている。
となると、海外での競争力を持つためには、日本とはクルマの使用環境が異なる海外車に合わせ、デザインや安全性などを踏まえて、全幅を広げていくのはやむを得ないのだ。
12代目で初めて全幅1700ミリを超えた
2/自動車メーカーは全幅をどれくらい重要視しているのか?
5ナンバー枠の「1700ミリ」という数字は、あくまで目安でしかない。1705ミリになると、通れなくなる道があったり、側面衝突実験がNGとなる訳ではない。
1700ミリという数字にこだわるのは、5ナンバー車と3ナンバー車を、今よりも大衆車と高級車として隔てていた時代を知っているお客様に対して、敬意を払っているものだと考えられる。
「それならば1705ミリでも良いではないか?」というのはナンセンスだ。お客様へ心理的に安心感を与えるのも、自動車メーカーの仕事だからだ。
期待があればそれに答えるよう、設計エンジニア達は、自身の持つ目標を達成するために、全幅1700ミリのなかで全力を尽くす。
ひとつ事例がある。あるクルマにて、側面衝突性能の目標が高かったが、ドアの厚みを増やせずに目標達成の目途が立っていなかった。
考え抜き、シートフレームもバリアの一部として活用し、乗員傷害度を下げる新構造を編み出したエンジニアがいた。かえって「縛り」があったことで、「火事場の馬鹿力」的な大発見をすることもあるのだ。
3/コンパクトカーを除いて全幅1700ミリ以下の5ナンバーサイズにすることは難しいのか?
先代のクラウンから全幅が1800ミリとなり、現行クラウンも1800ミリを踏襲した
やればできる。そういうコンセプトのクルマが出れば、コンパクトカーでなくても全幅1700ミリのクルマの開発は当然可能だ。
とはいっても、フルモデルチェンジで、ボディサイズを縮小したクルマはあるのかといえば、ないというのが現実だ。
しかし、全幅の拡大が止まったクルマはある。例えば、日本専用の高級車として1955年に誕生したクラウンの全幅は、5ナンバー枠を使い切る1680ミリからスタートした。
2代目から5代目までは1690ミリと5ナンバーを維持していたが、1979年の6代目から全幅1715ミリの3ナンバー車両が設定された。
続いて1720→1745→175ミリと代ごとに拡大を続け、9代目から全車3ナンバーとなった。
10代目のロイヤルシリーズでボディ構造をペリメーターフレーム式からモノコックボディに一新した際に、全幅は1760ミリとなった。
11代目で1765ミリ、ゼロクラウンとして知られる12代目で1780ミリ、13代目で1795ミリと確実に増加。2012年発表の大型グリルを採用した14代目で最大の1800ミリに達したが、2018年に登場した現行クラウンで、全幅の拡大がパッタリと止まった
全幅1830~1850ミリの多い欧州セダンのなかにあって、日本専用のクラウンが1800ミリにとどまったのは、歴代モデルを乗り継ぐオーナーや需要の多い法人顧客からの声を反映したものだろう。そうした声を聞いてきたからこそ、現在の成功があるのだ。
4/全幅拡大のメリットとデメリット
全幅を広げることのメリットは、室内の居住性が良くなる、ドアパネルの厚みが増えて側面衝突安全性を確保しやすくなる、あわせて側面からのノイズが入りにくくなる、
車両のロールが減りコーナリング時に安定する、幅広のタイヤが装着できコーナリング限界が上がる、(トレッド拡大により)前輪の転舵角が大きくなって小回りが利く、そしてなによりデザインの自由度が増す、と、ざっと挙げてもこれだけある。
対するデメリットは、クルマが重たくなる、空気抵抗が増えて燃費が不利になる(前面投影面積が増えるため)、狭い道や駐車場でのクルマの取り回しがやりにくくなる、などだ。
もちろん、全幅の広げる度合いによるし、フェンダー部分を広げるのか、ドアパネルを広げるのかによっても、変わるので一概に当てはまる訳ではない。
まとめ
全幅1700ミリ以下の5ナンバーサイズを守り続けている日本のミニバンは多い
昨今の欧州Bセグメントは1750ミリ(※VWポロは1750ミリ)、Cセグメントでは1800ミリ(※VWゴルフ7は1799ミリ)、Dセグメントでは1830ミリ(※ベンツCクラスは1810ミリ、BMW3シリーズは1825ミリ、アウディA4は1840ミリ)あたりが、全幅における暗黙のガイドラインになっているようだ。
このクラスに該当する海外戦略向けの日本車は、この全幅まで拡幅されていくだろう。
しかし、ガラパゴス化している日本の1700ミリが、決してダメなわけではない。すべてのクルマが海外を向く必要はないはずだ。
全幅が狭い制約のなかで、高い性能を誇っていることは、日本車の魅力の一つでもあるからだ。
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