ロックアップ機構と多段化がATのネガを払拭
8年前の2010年に、マツダがSKYACTIVに関する技術発表を行った際、変速機(トランスミッション)には従来からのトルクコンバーターを持つ自動変速機(AT)を使うと説明した。当時は、CVT(ベルト式無段変速機)やDCT(ツインクラッチ式変速機)が効率的にも上まわると考えられていたため、奇異に感じたことを覚えている。
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しかしその後、2012年に新世代商品群の第1弾としてSUV(スポーツ多目的車)のCX-5が発売されると、ATが本来持つトルクコンバーターによる滑らかな発進と、6速という多段の変速による変速ショックの少なさ、なおかつトルクコンバーターを使いながら滑りを感じさせない的確な加速に驚かされたものだ。
同様の感触は、ATを使い続けるメルセデス・ベンツやBMWにもあって、ATが備える技術の奥行きの深さを改めて実感させられるのである。
CVTは、無段変速であるがゆえにその効果を有効にするなら、エンジン回転数を効率の良いところで一定に保ち、無段の変速によって加速させるのがよい。だが、それでは、速度が上がっていくのにエンジン回転数の変化が少なく、違和感につながる。近年では、違和感を緩和する制御が組み入れられている。
DCTは、変速の滑らかさでは群を抜いているが、発進に乾式クラッチを使うと唐突な動きが出やすい。湿式クラッチを使えばその点は緩和されるが、耐久性や保守管理という点で乾式クラッチを使うほうが距離を走るクルマには適しているだろう。
そうした中で、ATがあらためて見直されるようになった。ATの性能が飛躍的に高まった背景に、ロックアップと多段変速がある。ロックアップは、流体を使い変速を滑らかに、かつトルク増大させるトルクコンバーターの機能を一時的にとめ、クラッチのオン・オフを使いエンジン出力を直接変速機に伝える仕組みである。もちろん、変速の際にはクラッチを離さなければ変速できない。そこは、マニュアル変速機と同じ理屈だ。そのオン・オフを負荷に応じて自動化している。
ロックアップ機構そのものは1980年代からあるが、それをより緻密に、なおかつエンジン回転数が低いところでも使えるようにすることで、ATであっても滑りを意識させない変速を実現している。さらに、変速段数を多段化することによって、格段の変速比が接近することから、変速した際のエンジン回転数の差が縮まり、より滑らかかつ素早く変速できるようになってきている。
それらによりATの伝達効率もあがり、燃費への悪影響が減った。なおかつ本来の滑らかで上質な変速を実現できることから、AT回帰とでもいうべきATの価値の見直しが進んでいると思われる。
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