新型シビックは、フォルクスワーゲン・ゴルフなどがひしめく、Cセグメントトップクラスの「操る喜び」を追い求めたという。その動機は、世界のCセグメント競合車の飛躍的進化に対する危機感だった。では、新型シビックは「ホンダの走りを変える」と言わしめるほどの性能を本当に持っているのか? 車のハンドリングを司る“サスペンションフェチ”のレーシングドライバー・自動車ジャーナリスト、松田秀士が論理的に解説する。
文:松田秀士/写真:編集部
ベストカー2017年11月26日号
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“後ろ足”の一新で理想的な車の動きを手に入れたシビック
後輪のサスペンションを、よりコストのかかる形式に一新した新型シビック
新型シビックの進化の証となったのが、リアサスペンションにこれまでのトーションビーム式に換えてマルチリンク式を採用したこと。
トーションビーム式とは、左右の車輪がひとつのクロスビーム(棒のようなもの)で繋がったサスペンション形式のこと。部品点数が少なく安価なのと、タイヤの接地面のコントロールが容易なので、多くのFF(=前輪駆動)車のリアサスに採用されている構造だ。
ただし、左右の車輪が繋がっているので、必ずなんらかの影響を受ける。これが、コーナリングや乗り心地など車の動きの精度に影響する。そこで、新型からは左右輪が独立した方式で、ロールセンター(車の傾く際の軸)を理想的に設定できるマルチリンク式としたのだ。
とはいえ、タイプRにかぎっては、先代はトーションビーム式だったのだが、初代から先々代まではダブルウィッシュボーン式だったのだ。ダブルウィッシュボーン式を基に、さらに進化したものがマルチリンク式。つまり、新型では本来のサスペンション形式に戻ったといってよい。
“前足”の強化も相まってソフトな乗り味と走りを両立
走りの肝となるサスペンションを前後ともに変えた新型シビック。その進化は走りにどう表われるのか?
そして、先代からフロントサスペンションに採用されたデュアル・アクシス・ストラット式サスペンション。普通、ストラット式はフロントダンパーが、タイヤやブレーキが取り付けられている土台に直結しているため、転舵時にダンパーが同時に動いていたものをセパレートしたシステム。
これによって、センターオフセットを短くできトルクステアが激減。さらにキャスター角などの自由度が広がるので、転舵時の外輪キャンバー変化を強くでき、コーナーでのフロントタイヤグリップがより高まっている。ダンパーも回転しないから素直に動く。新型ではこのセンターオフセット量をより短くして、癖のないハンドリング特性を実現しているのだ。
高くなったフロントのグリップに対して、リアもマルチリンクによって安定したグリップと乗り心地のバランスを図っている。だから、新型に乗ると、これまでよりブッシュ類もバネ類もハードになっているのに、以前よりもよく動くソフトな足に感じるのだ。
タイプRだけじゃない!! シビック全車一体の開発が走りの質を上げた
手前から順にシビックハッチバック、セダン、タイプR
新型からはタイプRだけ専門チームを設けるのではなく、セダン&ハッチバックの同一同時開発としている。
つまり、スポーツモデルが要求する走りのテイストと、一般モデルが必要とする乗り心地やスペースを共通の課題として取り組むことで、互いの質を上げることに成功しているのだ。
私自身、2016年に米国でセダンモデルに試乗しているのだが、1.5Lターボエンジンの豊潤なトルクと、これまでのシビックとは思えないほどよく動くサスペンションによる乗り心地とハンドリングのよさには感動した。さらに、つい先日発売された軽自動車のN-BOXのハンドリングと乗り心地、静粛性。明らかに、今、ホンダの車作りの方向性が成熟期に入ってきたと言ってもいいだろう。
FFを知り尽くしたホンダのスポーツドライビングテイストが、ほかのモデルに順次移植されていくに違いない。
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