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時を重ねても楽しさは変わらない! アバルト595コンペティツィオーネ試乗記

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時を重ねても楽しさは変わらない! アバルト595コンペティツィオーネ試乗記

アバルト595コンペティツィオーネに今尾直樹が試乗した。登場から10年以上が過ぎても変わらぬ魅力とは?

初代ポルシェ911との共通点

マクラーレンの勢いは止まらない──720S試乗記

2008年に新生アバルト500が登場してから12年。さすがに古びているだろう。と思いつつ、ダッシュボードの赤い丸いボタンを押した。かっちゃんかっちゃん、という音が聞こえてきて、あ、ハザードのスイッチだった、ことに気づいた。スターターはステアリングホイールのコラムの右側のキイだった。

ひねったら瞬間、思わずエエッと声が出て、頬がゆるんだ。1.4リッターの直列4気筒ターボが筆者の予想を上まわる豪快な爆裂音をはなって、目を覚ましたのだ。軽くアクセルをブリッピングしてみると、グオングオンッと野太いエグゾースト・ノートを聞かせてくれる。なんたる快音!

Hiromitsu Yasui現行アバルト595は3年ほど前にマイナーチェンジを受けており、それを機に全車、500ではなくて、595という1960年代のヌオーヴァ500ベースのアバルトに使われていた名前に統一された。下部にドライビング・ライトを抱いたフロント・バンパーと、ミドシップ・フェラーリをちょっと思わせるディフューザー付きのリア・バンパーはこのとき採用されたもので、スタイルはグッと精悍になった。

595シリーズのスタンダードが145ps、ツーリズモが165psであるのに対して、最高性能モデルであるコンペティツィオーネは、おなじ1.4リッター直4ターボでも、ギャレット製ターボチャージャーを装着することで、最高出力180ps /5500rpm、最大トルク230Nm/2000rpm、SPORTスイッチ使用時には250Nm/3000rpmに跳ね上がる、という強力なパワーとトルクを絞り出す。

Hiromitsu Yasui1.4リッターで180ps。ということは、リッター132ps。ポルシェ「カイエン・ターボ」の4.0リッターV型8気筒ガソリンツイン・ターボのリッター137psまであと5psに迫るハイ・チューンである。

こんなパワフルかつトルキーなエンジンを、全長×全幅×全高=3660×1625×1505mm、ホイールベース2300mmというコンパクトなボディに積んでいる。車重は1120kg、パワー・トゥ・ウェイト・レシオは6.2kg/ps。アバルトの主張によれば、最高速度は225 km/h、0 - 100 km/h加速は6.7秒を誇る。

これに似たクルマはあるだろうか?

ふと思いついたのが1960年代のポルシェ「911」である。かのポール・フレールが1966年にテストした2.0リッターのポルシェ911Sは、0-100km/h加速が6.8秒、最高速が221.7km/hだった(出典『新ポルシェ911ストーリー』二玄社)。

Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui911Sは最高出力160ps程度で、車重は燃料満タンで1100kg。ホイールベースは2300mm弱(正確には2268mm)で、つまり現代のアバルト595コンペティツィオーネは、1960年代の元祖アバルト595、最高出力27ps、最高速度120km/h、よりはるかに速い、当時のポルシェ911並みのスペックを誇っているのだ。

RR(リアエンジン・リアドライブ)とFWD(前輪駆動)で、エンジンの位置と駆動方式はまるで正反対だけれど、共通するものがある。

Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui背伸びすれば届きそうな価格

というようなことを思ったのは後日のことで、箱根での筆者は、始動音でシビレた。いまどき、こんな音を出すクルマが、フェラーリ、ランボルギーニ以外にあったなんて!

これぞ、現代のマルミッタ・アバルト(アバルト・マフラー)。バルケッタ・ミーアはナポリ民謡ですけれど、アバルト内製の高性能エグゾースト・システム“レコード・モンツァ”はエンジンの爆発音を男性バスの、まろやかさを伴った低音で朗々と歌う。最初のうち、しばらくは高めのアイドリングでもって大きめに。

Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiそれから内装の艶やかさに目を奪われた。ダッシュボードから飛び出した球形のアルミのシフト・ノブは、1960年代のレーシング・スポーツみたいだし、カーボンがチョコッと貼られたフラット・ボトムのステアリングホイール、一部アルカンターラも、背面がカーボンになったサベルト製のスポーティな、茶色のレザーとアルカンターラ表皮のシートもスポーツカー・ムード満点。

なにより、ステアリング中央のサソリのマークがイイ! ジャイアント・キラー、巨象を倒す毒を持ったサソリ。小が大を制して見せた、世界一クールなブランドだ。

Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui箱根の山道に飛び出すと、乗り心地ははっきり硬い。路面が荒れていると、まるで川面に投げられた小石のようにピョンピョンとジャンプする。あんまり跳ねるので、スピードを落とす。

こんなにわかりやすいクルマはない。イタリア人はちっちゃいクルマをつくるのがうまい、っと感嘆する。FWDの小型車をハイパワーにして、足を締め上げたら絶対にこうなる。というクルマをストレートにつくって、それを隠すことなく、エンタテインメントとして提供している。

ステアリングはキビキビしていて、いかにも小型車を操っている感がある。5速のマニュアル・ギアボックスは小気味よく決まり、ABCペダルは剛性があってカッチリしている。

Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui路面のいいサーキットだったら、また別の面を見せてくれることだろうとも思う。595コンペティツィオーネは、595シリーズのなかでもサスペンションが締め上げられているからだ。

ただし、ピョンピョン跳ねながらも、ガツンというショックがないのは、リアに採用しているコニのFSD (Frequency Selective Damping)ショックアブソーバーの機械式可変ダンピング機構によるものかもしれない。

ふぉおおおおッ。という乾いたエグゾースト・ノートを聴きながら、う~む、こいつは硬い、と上下に揺すられつつ、笑顔があふれる。ブレーキはフロントにブレンボの4ポッド・キャリパーを採用し、強力な制動力を発揮する。キャリパー自体がレッド仕上げになっていて、外から見てカッチョよい。

Hiromitsu Yasuiでもって、とても重要なことは、このサソリが396万円という、背伸びすれば手が届きそうな価格だということだ。いまどき、なんてすばらしいんだぁ~。

アバルト595コンペティツィオーネは、もうずっとこのままでいい! と筆者は思った。これはモダン・クラシックである。エヴァーグリーンでもある。フォーエバー、アバルト595である。

Hiromitsu Yasui文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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