愛車にかわいらしさを求めたら、行きつく先はリトラだった
福岡県でリトラクタブルヘッドライト車だけのイベントが開催されると噂を聞きつけ、取材にお邪魔した「リトラジャム」。現地で興味深かったのは、オーナーが20歳代からと幅広い年齢層が集まっていたこと。そんな中で出会った、美しく仕上げられたホンダ「プレリュード」(3代目)。オーナーは女性で、見るからに愛車の方が年上。この車両は先代モデルの頃から「デートカー」と呼ばれたジャンルの代名詞で、女性にモテたい男性が競い合うように買い求めた人気車種だった。口説き落としたい女性に助手席に座ってもらうためには、車種こそが全て。それこそプレリュードで「アッシー」になれば、最低限度のスタートラインに立つことができる、バブル時代のモテグルマカーストの上位車であったのは間違いない。時代が時代ならば助手席に座っていたはずの女性が、なぜリトラ車を愛車に選んだのか? オーナーの岩下亜紗さんに、プレリュードにハマった理由を尋ねてみた。
新車購入から36年のホンダ「プレリュード」は現在20万キロ! バブル代表デートカーで奥さんと出会えました
リトラクタブルヘッドライト搭載車のイメージとは?
このホンダ プレリュードに乗る前は、「MINI」に乗っていたそう。もともとは昔のミニ、いわゆるクラシックミニに興味を持っていたが、古いクルマに対する心配事は募るばかり。そこで、その当時の面影をしっかりと継承したMINIを選んで、日々のカーライフを楽しんでいたそうだ。
「基本的には古めかしいクルマが好きなんです。いろいろと調べていくうちに、リトラクタブルヘッドライトの車両があることを知ったのが、現在の愛車に辿り着くきっかけでした。リトラに興味は持ったものの、実物は一度も見たことがない。少しずつ情報を集めるうちに、マツダRX-7(3代目FD)がリトラ車の中でも比較的新しい車種であることを知ったのですが、実際に買うには決め手にかけていて。そこからリトラ車のことをもっと調べるようになりました」
しかし、どれだけインターネットなどを駆使して情報を集めても、日常生活においてリトラの実車を見る機会には恵まれない。その結果、彼女はついに古いクルマが集まるイベント、オールドカーフェスティバルin三角へと足を運ぶ決心をしたのだった。
イベントで出会った2台のプレリュードにひと目惚れ
こうして禁断の扉をこじ開け、リトラ車の世界に自ら足を踏み入れた岩下さん。そこで出会ったのが、2台のプレリュードだった。
「イベントでヘッドライトを上げたプレリュードが2台並んでいる姿を見て、私が欲しいのはこれだ! と直感したのです。ただその時は、そのオーナーさんたちがどんな人なのかも知らなかったので、とにかくプレリュードという車名を頼りに、再びインターネットで情報を集め始めたのです。
すると、私がイベントで気になった車両と、そのイベント内容が書かれたブログを発見。それを読んでいたら、このブログを書いている方は、私がイベントで見て気になっていた車両のオーナーさんで、しかも、ネットで探して“欲しい!”と思っていた中古車屋さんのブログだと、つながったんです。その結果、イベントでプレリュードを知った3~4カ月後には、契約を済ませていました(笑)」
岩下さんがネットで探したという情報は、福岡県北九州市で80~90年代のネオクラシック系のホンダ車を専門に扱う「カラーコンセプト」のブログだった。こちらの代表の古賀さんとお客さんが当時愛車でイベントに参加しており、専門店だけにもちろん中古車在庫もある。プレリュードのことを何も知らない岩下さんにとっては、まさに救いの神だったのだ。
情熱ひとつで、ボロボロの車両を美しく仕上げた
岩下さんの愛車の内容は、1989年式のホンダ プレリュード、グレードはXX。排気量1958cc、SOHC水冷直列4気筒でCVデュアルキャブレター仕様のB20Aエンジンを搭載している。最高出力は110ps/5800rpm(ネット)、最大トルクは15.5kgm/4000rpm。当時、XL、XR、Siとグレードが存在したが、サンルーフなどを装備した豪華仕様がこのXXだった。
現在はご覧の通りの美しい仕上がりだが、入手当初はボロボロの状態。バンパーはボコボコに傷だらけ。それをボディともども鈑金修理し、2022年に全塗装を実施した。カラーは、この特別仕様車プレステージブラックに採用されていたグラナダブラックパールへと再塗装。ホイールと車高調を変更し、さりげない低さを追求。これによりプレリュードが持つ美しいスラントノーズのボディバランスが、より洗練された印象だ。デュアルキャブレターもオーバーホール済みと、普通に走って楽しめるよう必要なポイントは全て修理整備済み。現在リアシートは経年劣化でボロボロになっていてカバーで隠している状態だが、こちらも予算を準備したら張り替える予定でいる。
「自分で乗り始めて気づいたのは、このプレリュードは思ったほど古臭さを感じないということですね! ルックスはもちろんですが、運転していて感じるフィーリングなど、違和感は何もないです。クルーズコントロールなど、現在では当たり前の装備もあるので、何も困ることはありません。実際に乗っていて楽しい、とても素敵なクルマだなと思っています。このリトラが開いている顔、可愛くないですか? プレリュードの、ちょっとまぬけな雰囲気が、私は大好きなんです(笑)」
愛車の方が年上だが、この年代特有のデザインや機能性など、岩下さんはこれらの全てを楽しんでいる。音楽やファッションなど、80年代リバイバルが若い世代の間で密かに巻き起こっているが、岩下さんの場合は流行にとらわれることなく、自身が「これだ!」と閃いた感覚をきっかけにして、思うがままに突き進んだ結果が今のカーライフへと辿りついた。プレリュードとの出会いが、今度はホンダ好きへと変化しているのも、彼女の情熱の表れだろう。
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