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欧製ステーションワゴンの出発点 モーリス・オックスフォード・トラベラー ボルクヴァルト・イザベラ・コンビ(1)

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欧製ステーションワゴンの出発点 モーリス・オックスフォード・トラベラー ボルクヴァルト・イザベラ・コンビ(1)

新しいファミリーカー像を市民へ提案

AUTOCARの読者なら、欧州製ステーションワゴンの支持者は少なくないだろう。1950年代に急成長を遂げたこのカテゴリーだが、その時代の対象的な2台が、ボルクヴァルト・イザベラ・コンビとモーリス・オックスフォード・トラベラーだ。

【画像】欧製ステーションワゴンの出発点 イザベラ・コンビ オックスフォード・トラベラー 英独の現行ワゴンたち 全147枚

前者は、ドイツの小さな自動車メーカーが生み出した前衛的なモデル。ご当地の老舗ブランドへ対峙し、悪くない成果を残した。後者は、より歴史の長いメーカーが生み出した保守的なモデル。アメリカンなスタイリングが、強い印象を残すはず。

どちらもサルーンのルーフラインを延長。背もたれが倒れるリアシートへ置き換え、大きなテールゲートを背負った。走行性能は維持しながら、実用性を大幅に向上させ、新しいファミリーカー像を市民へ提案した。

しかし英国では、ステーションワゴンを受け入れる土壌が充分に整っていなかった。加えて、ボルクヴァルトというメーカーは殆ど知られておらず、イザベラ・コンビはオックスフォード・トラベラー以上の苦戦を強いられた。

1950年代後半には、レーシングドライバーのビル・ブライデンシュタイン氏がサルーンのイザベラでレースへ参戦。認知度を高めることに、ひと役買ってはいるが。

フォードやヴォグゾール(英国オペル)もステーションワゴンを提供していたものの、コーチビルダーへ生産が託され、コンバージョン・モデルという扱いに近かった。だが、イザベラ・コンビは工場で正規に生産され、先駆けといえる存在だった。

製造品質や技術力の高かったボルグヴァルト

ドイツ北部のブレーメンに本社を置く同社の製造品質は高く、技術力も確立されていた。創業者のカール・ボルグヴァルト氏は、第二次大戦前に自動車の生産を開始。簡素な乗用車や小型トラックの提供で、事業を拡大していった。

ボルグヴァルトのサルーン、2000の発売は1939年。開戦に伴い生産は停止するものの、1948年に再開される。また同社は、政府の支援策を巧妙に利用。ロイドとゴリアテという2ブランドを立ち上げ、制限された原材料の割り当てを3倍に増やした。

この厚遇を利用し、1949年にファミリーカーのハンザ1500と1800をリリース。その改良版が、1954年に発売されたイザベラだった。

ちなみにモデル名は、カールの思いつきで決まったようだ。プロトタイプの命名を頼まれたカールは、「何でも構いません。イザベラでもいいかも」。と答えたとか。

モデル名への軽い気持ちに反して、技術や設計に対する彼の関心は深かった。サルーンから提供が始まり、1955年にステーションワゴンのコンビが登場。その数年後にはクーペが追加され、パワフルにチューニングされたSTグレードも加わった。

エンジンは、共通して直列4気筒の1493cc。最高出力は、当時の平均的な水準といえる60psを発揮した。

ボア・ストロークは75x84.5mmの比率で、ロッカーボックス内を経由する、短い吸気マニフォールドを備えたことが特徴。プッシュロッドのオーバーヘッドバルブだったが、見た目はオーバーヘッドバルブに似ていた。

ステーションワゴンとして悪くない動力性能

シリンダーヘッドにアルミニウムを採用するなど、軽量化にも気は配られた。自社で開発・製造された4速マニュアル・トランスミッションも、ケースはアルミ製。車重は、ルーフが伸ばされたコンビでも1090kgに留まった。

最高速度は149km/h。0-100km/h加速は18.5秒と、実用性を求めたステーションワゴンとしては悪くない動力性能を得ていた。

それ以外の技術面も、特に先進的ではなくても、現代的に再解釈されていた。ボディはシャシーと一体のモノコック構造。前後にサブフレームが組まれ、機械的な振動を伝えないよう、フロント側にはゴムマウントが挟まれた。

サスペンションは独立懸架式。フロント側は、不等長のウィッシュボーンにコイルスプリング、ダンパーという組み合わせ。リアは、スイングアクスルにコイルスプリング、アームを介したダンパーで構成。安定した操縦性と、快適性が狙われた。

今回ご登場願ったイザベラ・コンビは1960年式で、現在はグラハム・マンダーズ氏がオーナー。美しいだけでなく、オリジナル度が極めて高い。現役時代は、高水準なモデルだったことを理解できる。

グレートブリテン島へ輸入したのは、ボルグヴァルトの英国ディーラー、メトカーフ&マンディ社。ロンドンの南東部、オーピントンに住んでいたエディス・フランシス・シア氏へ納車されている。

ディティールにも配慮されたスタイリング

マンダーズは、スウェーデンやドイツへ自動車旅行を楽しんでいるが、走行距離は10万3000kmほど。年式を考えると驚くほど短い。しかも、レストアも必要なかったらしい。定期的なメンテナンスだけで、2024年まで良好な状態が保たれてきた。

スタイリングは、少々賑やかな印象のオックスフォード・トラベラーと並ぶと、上品なシンプルさが際立つ。ボディサイドは適度に丸みを帯び、その上にスリムなウインドウが載っている。

ヘッドライト・ベゼルにはクロームメッキが施され、テールライトはフィンのように後端で立ち上がっている。ディティールにも配慮されたことが見て取れる。

サイドヒンジのテールゲートは、右側から付き出たレバーを引き下ろすと開く。リアシートの座面を持ち上げ、背もたれを倒せば、奥行きのあるフラットな荷室が姿を表す。ホイールアーチが膨らんでいるが、スクエアで使いやすそうだ。

ただし、イザベラ・コンビは3ドア。リアドアはなく、後席への乗降性は良くない。オックスフォード・トラベラーと異なり、荷物も横から引き出すことはできない。

前席側はモダン。ドアには三角窓を開くノブが備わり、ヒーターは運転席と助手席で別々に調整できる。シガーソケットを利用した、点検用のライトも備わる。

フロントシートはリクライニングできる。ダッシュボードは硬いベークライト樹脂製で、スピードメーターは横に長いストリップ・タイプ。それを囲むように、水温計や油温計、時計などが並ぶ。

この続きは、ボルクヴァルト・イザベラ・コンビ モーリス・オックスフォード・トラベラー(2)にて。

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