実用性と走りの楽しさを高次元で兼ね備えたクルマ、それがホットハッチだ。かつては日本でも充実した顔触れが揃っていたが、エコカーやミニバン、SUVブームなどに押され、車種やニーズも激減。
さらに欧州で実施される厳しい排ガス規制が大きなターニングポイントとなるのは必須で、やがては欧州メーカーのホットハッチすら、その存在が危ぶまれる事態になるのではないか…と言われている(だからそんな中でGRヤリスやスイフトスポーツ、先ごろ発表された新型86・BRZといった存在は本当に頼もしいし嬉しくなるし、メーカーさんには心からお礼を言いたくなってしまうのだ)。
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今回ここでは、A-Bセグ、Cセグ2つのカテゴリーから、いま乗っておきたいイチオシのホットハッチ各ベスト3、計6台を選出。自動車評論家 岡本幸一郎氏にじっくりと語ってもらう。
※本稿は2021年5月のものです
文/岡本幸一郎 写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』 2021年6月10日号
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■現行国産&輸入A-BセグメントホットハッチBest 3
●軽~コンパクトクラスのA-Bセグメントランキング。粒揃いのモデルのなか、1位はやはりあのクルマ!
「ホットハッチ」という言葉が似合うのは、今どきの大きくなったCセグよりも、こちらの小さいクラスだという気がしている。Cセグは欧州勢が目立つのに対し、このクラスは日本勢も頑張っている。
そのなかでも、別格的にスゴイのがGRヤリスだ。
トヨタ GRヤリス…Bセグ最強のホットハッチ。モータースポーツベースだけに他車とはキャラクターが異なるように思えるが、普通に使える間口の広さも魅力。直3、1.6Lターボで272ps
現状クラス唯一の4WDであり、価格的にも性能的にも飛び抜けていて、Cセグすら凌駕するほどの内容を誇るので、別格扱いにしてもよいくらいだが、そこに存在するからには選ばないわけにはいかない。
なにせすべてが圧倒的だ。パンチの効いたエンジンは、今どきの市販車ではありえないほどの潔さ。よほど割り切っていないとこんなエンジンは作れない。
さらにはコーナー立ち上がりでリアの外輪が効いてグイグイ曲がっていくハンドリングも刺激的で楽しい。
往年のホットハッチらしい味わいと最新のハイテクが融合した、歴代最強のBセグホットハッチと断言できる。
そして2位以下をどうするかも本当に悩んだ。どれを選んでも大義名分が立つからだ。
そんななかでも、強いて選ぶとすると、アバルト595だ。
アバルト595…140psの直4、1.4Lターボを搭載するFFスポーツ。価格は5MTが300万円、5AMTが326万円。180psのコンペティツィオーネもラインナップ
生い立ちからして、まさしくホットハッチそのもの。小さな車体に強力なエンジンを積み、どこでもキビキビと走れる痛快なドライブフィールは、このクルマならでは。
すでに登場からだいぶ時間が経過しているのに、このクルマだけは時間が止まっているかのように全然古くならないのも不思議だ。
3位は現代のホットハッチの新定番、スイフトスポーツとしたい。
スズキ スイフトスポーツ…日本を代表するホットハッチで現行型が4代目と歴史もある。140psの直4、1.4Lターボエンジンを搭載するFFスポーツで、1トンを切る軽さが魅力
約200万円という価格で、これほど走る楽しさを直感させてくれるクルマなどほかにない。
シフトフィールのよいMTを駆使してエンジンのポテンシャルを引き出し、しっかりとしたハンドリングとともにコンパクトな車体を自在に操って楽しめるのは、まさしくホットハッチの醍醐味だ。
●ホットハッチは今のうちに楽しむべし!
ベスト3には入らなかったが、ぜひ入れたかった魅力的なホットハッチがいくつもある。なかでも3位にするかどうか迷ったのがポロGTIだ。
大人っぽくなったゴルフGTIに対し、ポロGTIも以前よりは成熟したとはいえ、ヤンチャな雰囲気も残っていて、往年のホットハッチの匂いがする。375万5000円で2Lターボ、200psの走りが楽しめるのは割安に感じられるのも魅力だ。
同じくルノールーテシアも従来あったルノースポールが新型にはまだなく、今後も設定されるかどうか微妙だが、量販モデルがR.S.なみにホットで驚いた。このエンジンはなかなか見どころがある。
また、小さいほうのMINIのジョンクーパーワークス(JCW)は、サイズ的にはこちらに属するが、Cセグのほうでまとめて述べたい。
日本勢では軽自動車の2台にも注目だ。小さくて軽い車体と660ccエンジンから絞り出したパワーのすべてを手の内で操れる感覚は、これまたホットで楽しい。アルトワークスはスパルタンな走りが、N-ONEはMTが6速というのがポイントだ。
実は今後、環境問題への対応から、このクラスの高性能車は貴重なものになっていく可能性が高い。興味のある人は、まだ豊富に選べる今のうちに味わっておくのが賢明だ。
■現行国産&輸入ホットハッチCセグメント ベスト3
●Cセグメントになると、一気にパワフルで過激なホットハッチが集まる。このベスト3争いは熾烈!
このクラスの一部は、もはやホットハッチの枠を超えて、高性能車がたまたまこのクラスに収まっているという状況になってきた。
その急先鋒であるAMG A45は、2Lで421psという恐るべきパワーを引き出している。0-100km/h加速が4秒を切るなんて、もはやスーパースポーツなみだ。
AMG A45S 4MATIC+…2Lターボ最強の421ps/51.0kgmを発揮するエンジンと、前後のトルクを最適に配分し、後輪左右のトルクベクタリングも備える4WDスポーツ。価格は802万円(8AT)
実際にドライブしてもインパクト満点!
エンジンはまさに全域パワーバンドのようなフィーリングで、レスポンスも吹け上がりもサウンドも素晴らしい!
シャシー性能もズバ抜けている。ハンドリングは極めて俊敏で、引き締まった足回りがタイヤを路面に押し付けながらフラットな姿勢を強制的に保ってくれる感覚があって、ウェット路を全開で攻めても全然不安がない。
超ホットであるうえに完成度もめっぽう高い。むしろホットハッチという、やや軽い言葉で呼ぶのがはばかられるほど別格的にスゴイ。
●大いに悩む2~3位。ルノーか、MINIか!?
というわけでベストはすんなり決まるが、2位以下が難しい。日本の雄・シビックタイプRも、まだ売っていればぜひ入れたかったが、売り切れということで今回はナシ。アウディS3の新型も発売直後のため入れないことにする。
やがて日本に上陸する新型ゴルフRやGTIの動向も気になるところだが、そんななかで目が向くのは、やはりメガーヌR.S.とMINI JCWだ。そしてこの2台のどちらを上にするのかも非常に悩ましい。
エンジンは直近のマイナーチェンジでメガーヌR.S.の量販モデルも300psに達したが、MINI JCWが306ps(BセグのMINI3ドアは231ps)と一歩リード。
0-100km/h加速もメガーヌR.S.の5.7~5.8秒に対し、4.9秒~5.1秒のMINIのほうがだいぶ速く、排気量200ccの差もあってか、動力性能はMINIに軍配だ。
MINI ジョンクーパーワークス…クラブマン、クラブマンクロスオーバーは306ps/45.9kgmの直4、2Lターボを搭載する4WDスポーツ。JCWクラブマンの価格は571万円~(8AT)
標準モデルと大きく差別化されたJCWのルックスも、いかにもという感じ。完成度の高い高性能モデルという印象もあるメガーヌR.Sに対し、JCWはハッチャケていて、その点でもホットハッチらしい。
一方、メガーヌR.S.は、ニュル量産FF車最速という、わかりやすい“勲章”を持っている。
メガーヌ・ルノースポール…300psを誇る直4、1.8Lターボエンジンと後輪操舵システムも備えるFFスポーツ。よりスポーティなトロフィーもある。価格は464万円(6DCT)
それを実現するための一環として、ホットハッチの世界ではほかにない4輪操舵システムを搭載しているのも特徴だ。空力もF1ゆずりの相当なことをやっている。
直線ならMINIだろうが、コーナーの数が増えるほど、メガーヌR.S.のほうが速いはず。
これが20世紀の価値観だと、ホットハッチとしてはMINIのほうが偉いという話になるのだろうが、2021年だとメガーヌR.S.を上としてよいのではと思う。
カローラスポーツやインプレッサSTIなど日本勢も完成度の高いスポーティなクルマの名前が並ぶが、「ホットハッチ」というよりも「ハッチバックの上級グレード」という印象。
ホットハッチとは、もっと特殊なものであり、わかりやすい「ホット」を持っているべきだ。
その点では実はリーフNISMOがいいセンいってるような気もしたのだが、さすがにMINIやメガーヌより上ということはないかな。
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