2021年に登場した新型WRX S4は、11月下旬の受注開始から約1カ月で全国の総受注台数は1000台を超えるなど好調な滑り出しに見えたが、その後は苦戦中だと聞く。確かに直近の販売台数を見ると、月販目標台数(500台)に届いていないのも事実である。
先代WRX S4ユーザーであるベストカーWebの担当編集氏は、購入した販売店のセールス氏から「なかなか新型に乗り替えてくれないんですよ……」という悲痛の声を聞いたそうだ。果たしてクルマに問題があるのか? 今回はそのあたりについて分析をしていきたいと思う。
国産最後の武闘派スポーツセダン、現行スバルWRX S4は果たして売れているのか!?
文/山本シンヤ、写真/SUBARU
■賛否両論渦巻く新型WRX S4の評価だが……
2021年に登場した新型スバル WRX S4
確かに新型はさまざまな部分に「賛否両論」があるのも事実だ。それが販売に響いている……ということはないだろうか? 確かにSNSなどには否定的な意見もチラホラ見かけるものの、実際にリアルに見て・触った人の意見は好意的なものが多い。
例えば、見た目の部分だと、クラッディングを採用したエクステリアデザインは「まるでSUVみたい……」という意見もあるが、その一方、「幅広タイヤを収めるためのアーチモールに見えていい」、「先代はスポーツセダンを謳うわりには地味だったので、これくらいがいい」と言う意見も聞く。
確かにボディカラーによって見え方が異なるが、ダーク系を選択するとうまくボディになじんで、それほど気にならないだろう。
インテリアはこれまで「WRXだからしかたない……」とある意味逃げていたデザインや質感は大きくレベルアップ。スポーツセダンでありながらもGT性能は抜かりなしで、輸入車から乗り替えても大きな不満はないと聞いている。
■出力ダウンは「名を捨てて実を取った」進化
先代WRX S4。2Lターボ(FA20型)で300ps/400Nmというスペックだった
パワートレーンはどうか? 先代の300ps/400Nmの2Lターボ(FA20型)から275ps/375Nmの2.4Lターボ(FA24型)に変更。「排気量が上がったのに出力ダウンかよ」という意見があるが、実際に乗ると「クルマはスペックだけでは語れない」ということがよくわかる。
+400ccを活かした実用トルクの太さに加えて、ターボ制御の進化も相まって、ドライバーの操作に対して忠実かつ俊敏、そしてシームレスな加速が可能だ。要するに「一瞬しか使えない300ps」よりも「使い切れる275ps」というイメージで、「名を捨てて実を取った」進化と言えるだろう。
トランスミッションは進化型リニアトロニックのSPT(スバル・パフォーマンス・トランスミッション)だが、直結感と小気味よさはもはやCVTであることを忘れるレベルで、ドライブモードの「スポーツ/スポーツ+」選択時はDCTと比べてもいいくらいだ。
フットワークはあれだけレベルが高いと思っていた先代型が色褪せてしまうくらいの激変っぷりだ。
具体的にはフルインナーフレーム構造の次世代SGP(スバルグローバルプラットフォーム)、ジオメトリーを最適化したサスペンション、2ピニオン方式の電動パワーステアリング、さらには進化版VTD-AWDなどの要素が融合することで、AWDとは思えない「一体感」と「コントロール性」は、世界トップクラスと言っていい。
■ドライブモードセレクトが走りを楽しく
STI Sport Rではドライブモードセレクトを採用。タッチパネルで走りの特性を変更できる
さらに上級となる「STI Sport R」は、パワーユニット/ダンパー/EPS/AWDなどの特性が変更可能な「ドライブモードセレクト」の採用により、「やっぱりWRXだよね」と「本当にWRXなの?」という二面性を備える。
具体的にはコンフォートはスポーツセダンとは思えない穏やかで優しい乗り味、逆にスポーツ+はBRZ並みの軽快でキビキビとした乗り味と、各モードの差も大きい。
安全性に関しては世界最高レベルの衝突安全性能は言うまでもなく、広角化されたステレオカメラや電動ブレーキブースターを組み合わせた「新世代アイサイト」に加えて、3D高精度地図データとGPS情報を利用する先進運転機能「アイサイトX」を全車に標準装備と、先進安全デバイスも抜かりなしだ。
このように全方位で進化している新型WRX S4だが、強いて弱点があるとすれば「価格」かもしれない。先代に対して約100万円のアップは、性能アップは装備充実などを考えれば許容範囲とはいえ、それが故に購入をためらう人もいるだろう。
ただ、買い方の工夫でカバーは可能で、例えば残価設定ローンの残価率は他のモデルよりも高いので、月の支払いは想像よりも抑えることも可能だ。
■WRX S4「販売不振」の真相
昨今の納期の長さにユーザーが買い替えをためらい、思うように契約につながらないようだ。月販台数が少ない=人気がないという判断は早計か?
そろそろ結論に行こう。WRX S4は決して販売不振ではない。では、なぜ売れていないのか? その理由は、ズバリ「作りたくても作れない」だ。
これはほかの自動車メーカーと同じで、スバルも世界規模で発生している半導体部品の不足、そして海外におけるコロナウイルス感染拡大に伴うロックダウンの影響などによる部品供給の遅延の影響により、生産が予定通りに行なわれていないのが原因だ。
ちなみにスバルに話を聞いてみると、「販売不振どころか、バックオーダーは8カ月くらい抱えている状態」だという。
つまり、冒頭の販売店セールス氏の言葉の裏を読むと、「納期の長さにユーザーは買い換えを踏み留まっており、契約になかなかつながらない」と読み取れる。「月販台数が少ない=人気がない」と判断するのはちょっと短絡的だろう。
2022年、WRXは生誕30周年を迎えている。個人的には電動化やCAFE規制、さらには騒音規制などスポーツ系モデルへの風当たりが厳しい時代にもかかわらず、WRXの「伝統」をしっかりと引き継いでくれたスバルに対して、素直に感謝すべきだと思っている。
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みんなのコメント
評価は人それぞれで良いと思うが、この手のクルマはライバルが居るからこそ個性も光るわけで。
ただ単に高性能なセダンだったら、他にも選択肢は多い。